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ORDER‐OFFICE 101 ―治安局101分署―  作者: キュノスーラ
第2章  「バディ」
10/30

噂のあの人の正体は

「何だ、てめえら? 何か用か?」


「それはこっちの台詞だよ、坊主」

 

 内心の動揺をまったく表さず、不敵な口調で問いかけたギアに、すぐ目の前まで近づいてきていた男たちの一人――スキンヘッドの巨漢が、こちらも傲岸に腕組みをして答えた。

 彼らは皆、揃いの黒いトレーニングウエアを身につけている。

 いずれも屈強な体つきをした、捜査官というよりも軍人を思わせる雰囲気の持ち主ばかりだ。

 それも無理はない、というよりも、当然のことだった。


 彼らこそが《特別急襲部隊》――

 事件の捜査ではなく、武力による現場の制圧を任務とする集団だ。


「ここいらは《特急》の領分だぜ。いちゃつくなら余所でやりな」


 確かに、ここは《特急》のトレーニング施設のすぐ目の前だった。

 冷静な状態だったなら、これほど近づく前に転進していたはずだったのだが。


「あ、そうですか? それなら早速向こうで……げふ!」


「おい」


 カースのみぞおちを人差し指で一撃し、悶絶する彼は放置しておいて、ギアは満面の笑みを浮かべた。

 気の弱い者ならその場で腰を抜かしかねない、獰猛な笑顔だ。


「誰と誰がいちゃついてるって? 目ェ悪いんじゃねえの? ああ、それとも、悪いのは頭か? 若いのにあちこち大変だなぁ、ハゲのおっさん」


「だっ……誰がハゲだコラァァ!? こりゃスキンヘッドだ! 天然じゃねーよ!」


「そう怒るなって」

 

 大げさな宥めのジェスチャーを、にやにや笑いが裏切っている。


「結果的にイコールだろうが。状態が」


「何がイコールだコラァァ!? クソガキが、ふざけやがって……!」


「止しな、ルギン」


 言葉と共に、隊員たちの後ろから、茶髪を四角く刈り上げた男が進み出てきた。


(こいつが、アタマだな)


 そう、一目で分かるような男だった。

 012にいたころ、この手合いとは、腐るほど顔を合わせてきたのだ。

 武力によって場を掌握することに長け、なおかつ、それを自負もしているような男。

 何かにつけて『男らしさ』を過度に意識し、常に群れのボスでいたがる。

 男は、わざと角度をつけてギアを見下ろし、仲間たちに向かって大げさに手を振ってみせた。


「まあ、落ち着けよ。ガキ相手にマジギレするなんざ、大人のやるこっちゃねえぜ」

 

 このセリフに、どっと笑い声が起こる。

 ギアの額に、くっきりと青筋が浮いた。

 だが、まだ、声は平静だ。


「おいコラ、そこの四角いの。誰がガキだって?」


「貴様だよ、ギア・ロック」


 男は、挑発には乗ってこなかった。

 ギアの全身を値踏みするように見回し、あからさまに鼻息を吹く。


「俺はシュライツ・コールマンだ。残念だよ。貴様の武勇伝をいくつも聞かされて、相当なマッチョだろうと期待してたってのに……こんなガキだとは、期待外れにも程があるぜ」


「何だと?」


「噂じゃ、012の特急をクビになったそうだな? 『精神的惰弱』だって? 敵の前でしょんべんでも漏らしたか? それとも」


 ギアの後ろに突っ立っているカースを、意味ありげに見つめて続ける。


「何か『男らしくない』不祥事でも、起こしちまったのかな?」


 男たちが、またもやげらげらと笑った。

 中には、カースとギアを交互に指して、露骨に卑猥なジェスチャーを交わしている者もいる。


「あ、あの」


 明らかな侮辱に言い返しもせず、黙然と突っ立っているギアの背中に向けて、カースが、恐る恐る声をかける。


「ギア? 大丈夫?」


「カース」

 

 返ってきた声のあまりの凄みに、カースは思わず背筋を伸ばした。


「は、はい?」


「援護しろ」

 

 そっけなく呟いて――

 あっという間に突進したギアは、一番端にいた男の腋下、守りようもない急所に、跳ね上げた肘をまともに打ち込んだ。

 まさかと油断していたのか、そいつは大きく口を開き、しかし悲鳴も上げられないまま、《特急》の猛者とは思えないあっけなさで轟沈する。


「野郎!」

 

 シュライツが叫び、男たちの敵意のボルテージが一瞬で臨界点を突破した。

 ほんの数秒で、乱戦になる。


「ギア!? ちょっ……駄目だってば!」

 

 慌てて止めに入ろうとしたカースの首に、太い腕が巻きつく。


「ぐっ!?」


「はん! ひょろひょろじゃねえかよ、兄ちゃん。《特急》にゃ、お前みてえなヒヨコちゃんはいねゴッ!?」

 

 勝ち誇ったスキンヘッドの言葉は、唐突に悲鳴に化けて途切れた。

 そのまま、切り倒された巨木のように白目を向いて転倒する。

 巨体の下敷きになったカースが、潰れたカエルのような呻き声をあげてばたばたともがいたが、


「へッ! 無駄にデカいばっかで動きがトロいんだよ、タコが!」

 

 ルギンの後頭部に容赦ない飛び蹴りを食らわせたギアは、相棒の悲鳴など聞いてもいなかった。

 こちらの実力を悟ったか、さすがに出足を止めている《特急》の隊員たち――

 その中で、唯一挑戦的に目を光らせて進み出てきた男を睨み据え、にやりと唇を吊り上げる。


「オフィサーになってから今日このときまで、てめえみてえなふざけた野郎を地面に這いつくばらせずに見逃したことは、まだ一度もねえ」


 ギアの威嚇に、男――シュライツもまた、薄笑いを深くした。

 勝てるという自信があるのか、それともそう思わせたいだけか、余裕ありげに指で招いてくる。


「凄んでねえでさっさと来いよ、ガキが。地べたに叩き付けて、ひいひい泣かせてやるぜ」


「おお……溜まりに溜まったこの鬱憤、てめえのせいじゃねえ分まで晴らさせてもらうが、悪く思うなよ」

 

 敵意に満ちた言葉を交換しながら、二人の男はじりじりと間合いを詰めた。

 あと3メートル……2メートル……


『下がれ。シュライツ』


 その瞬間に聞こえた低い声が誰のものか、ギアには、判断する時間は与えられなかった。

 目の前に立ちはだかったシュライツの背後から、何者かが恐ろしい速度で飛び出してきたのだ。

 そいつは、横向きのV字を描くような動きで、一瞬のうちにシュライツとギアの間に割り込んだ。


(ブラックスーツ!?)

 

 黒い装甲スーツに身を包み、ヘルメットのバイザーを下ろしている。

 体格は、ほぼこちらと同程度――

 突然現われたその人物は、右の掌を腰溜めに引いていた。


 ギアは反射的に、両腕を交差させて目の前に掲げた。

 次の瞬間、容赦なく突き出された相手の掌が、両腕の交点に激突する!

 肘の金属骨格が軋みをあげ、異様なまでに重い衝撃が全身を襲った。


(何だ、この力は!?)

 

 ミラーグラスの背後で目を見開いたときには、ギアの身体は為す術もなく後方に突き倒されている。

 その勢いに逆らわず、彼は猫のように身体を丸めた。

 肩から滑らかに地面に転がり、そのまま鮮やかに後転する。 

 一回転して両脚でしゃがみ込む体勢になったとき、目の前に見えたのは、片足を高々と振り上げたブラックスーツの姿だった。


 渾身の力を込めて地面を蹴り、立ち上がりざまに後ろに跳び退る。

 一瞬前まで彼がしゃがみ込んでいた位置に、凄まじい勢いでブーツの踵が叩きつけられた。

 そして、こちらが着地する頃には、相手は既にその踵を軸にして華麗に回転し、次の蹴り技を繰り出そうとしている――


 ギアは歯を食いしばり、目を見開いたまま、頭を限界まで後ろに逸らした。

 その差、わずかに数ミリ。

 大型ハンマーのフルスイング級の後ろ回し蹴りが、風を巻き、鼻先をかすめ過ぎる!


 外した蹴り足を最小限の動きで引き戻した相手は、そこでぴたりと動きを止めた。

 次の攻撃のタイミングを計っているのだろうか?

 ギアは警戒し、必要とあらば即座に全方位に動けるよう、慎重に重心の位置を保った。 

 だが、予想に反して、相手はそれ以上の攻撃をしかけては来なかった。


『むう』

 

 小さく、唸ってくる。

 威圧感に満ちた重低音。

 ヘルメットに内蔵された変声器が働いているのだ。

 だが、口調そのものは、予想していたものよりもはるかに軽かった。


『やるな。私の必殺のキックをかわすとは』


「かわせなきゃ即死してただろうが、ボケェェッ!」

 

 思わず、全力で叫ぶ。

 あんな蹴りのクリーンヒットを食らおうものなら、今頃、自分の脳味噌が飛び散った地面にキスするはめになっていただろう。

 今更のように、背中全面に冷や汗が噴き出した。

 だが、当の相手は聞いた様子もなく、平然と続けてくる。


『こちらは次の任務に備えての訓練期間中だ。コンディションに影響する。乱暴はやめてもらおう』


「乱暴はてめぇだ、この野郎! ふざけんな! 異様な動きしやがって!」


『野郎ではない』

 

 ギアの激しい語調に対して、その台詞はほとんど「言っただけ」というような、淡々としたものだったのだが――


「な、に?」


 その声の響きに、あることを感じ取り、ギアは目を丸くした。


「お前、まさか……女、か?」


 信じられない、という調子の問いかけに、相手はしばし、無言で突っ立っていたが――

 やがて、答える代わりに片手を挙げ、スーツの首の後ろにあるスイッチを操作した。

 ヘルメットとスーツのジョイント部分を固定していた気密ロックが解除される音が響く。

 そして、そいつは、あっさりとヘルメットを脱いだ。


 肩の上で切り揃えられた、まっすぐな黒髪がさらりと流れる。

 ヘルメットの下に隠されていたのは、鋭利な雰囲気を持つ、若い女性の顔だった。

 完璧なアーモンド型の目に嵌め込まれた、矢車草のように青い瞳が印象的だ。


「あ」

 

 ギアは、思わず軽く声をあげた。

 顔に見覚えがあった、というわけではない。

 だが、この体格、この存在感は――


「ひょっとして、あんた、五日前のニュースに出てた……」


「おわぁぁああっ!?」


 ギアの女性への呼びかけは、そこまで中断することとなった。

 ようやく起き上がってきたカースが、いきなり、すっとんきょう極まりない悲鳴をあげたのだ。


「うるせえな」


 何を思ったか、目の前の女性を見つめてがたがたと震えているのに対し、胡乱げな視線とそっけない問いをぶつける。


「何、いきなりバカみてえな大声出してんだ?」


「だって、ギア!」

 

 震える指先を女性に向けて、カース。


「この……人! 知らないの!?」


「知らん。誰だ?」


「誰って……君も、ボールドウィン事件は知ってるだろ!?」

 

 もちろん、聞いたことがあった。

 二年ほど前、オーダーオフィス001分署の《特急》が、ボールドウィン輸送社の倉庫を急襲し、組織の秘密取引の現場を押さえたのだ。

 その際、激しい銃撃戦で多数の死傷者が出た。

 マスコミでも大きく取り上げられた事件だ。

 しかし、その事件が仲間内でも特に有名になったのは、単なる血なまぐささによってではなかった。

 ギアは、目を見開いた。


「それじゃ、こいつが?」


「そうだよ! たった一人、しかも素手で三十人近いギャングを殺害し、虐殺ジェノサイドアスカと呼ばれた、機械化人間フル・サイバードの特急隊長! あの事件がきっかけで、001にはいられなくなったって聞いたけど、まさか、101に移ってたなんて……」


 多分に畏怖の混じった呻きを聞きながら、ギアは、目の前の女性の顔を興味深げに眺めた。


 整った、静かなその表情は、凶暴性など欠片ほども感じさせない。

 それもそのはずだった。

 フル・サイバードは、生身の人間のような激しい感情は持たない。

 自律神経系や内分泌系といった組織を失っているのだから、当然のことだ。

 彼女が、その手で三十人のギャングを殺したのは、怒りにかられてのことではなく、そうすべきだ・・・・・・と判断したからなのだ。


「そうか……あんたが、あの有名な虐殺ジェノサイドアスカさんか」


「そうか。お前があの有名な暴力治安官バイオレントオフィサーか」


 彼女――まだそう呼べるならば――は、ゆっくりと頷きながら、明らかにこちらの言い方を真似て答えてきた。


「ギア・ロック捜査官。そしてカース・ブレイド捜査官。お前たちのデータは所有している」


 その動作はなめらかで、外見は完璧だ。

 肉体の九十パーセント以上が人工物であることなどほとんど感じさせない。

 ガラス球のように静謐な、その瞳を除いては。


「『虐殺ジェノサイドアスカ』との呼称は正確ではない。私はアスカ・ブルーシード。現在オーダーオフィス101駐屯特別急襲部隊第1部隊〈ニーズホッグ〉の隊長を務めている。よろしくな」


「すごいな……人間にしか見えない」


 思わず、といった調子で口にされたカースの呟きを、アスカは鋭敏に聞きとがめたようだった。


「当然だ。私は人間だ」


「あ、申し訳ない! そういう意味じゃなくて、つまり……その、まるで生身の人間みたいだ、って意味で」

 

 慌てたようなカースの謝罪に、彼女は頷いた。

 だが、その視線は、カースを捉えてはいなかった。

 彼女は、ギアの腕を見つめていたのだ。


「お前の相棒の腕もなかなか精巧にできている」


 ギアの表情が、見る見るうちにこわばった。

 この記憶に、他者が無遠慮に触れてくることが、ギアは何よりも嫌いだった。

 奥底で凶暴な感情がうごめくのを感じる。

 相手が男なら、この瞬間に、間違いなく殴り飛ばしていただろう。


「本人に断わりもなく走査スキャンしたのか?」

 

 押し殺した声に――

 アスカは、ゆっくりと数度、まばたきを見せた。


「ギア・ロック捜査官。私の発言が原因で気分を害したのであれば謝罪する。私のボディを作り上げた技術者たちは私が自分を生身の人間だと思い込めるようにという理由だけでわざわざヒューマンモードの視覚システムを搭載してくれるほど親切ではなかったのだ」

 

 判りにくい長台詞に一瞬、混乱しそうになったが、何となく理解はできた。

 つまり、この機械仕掛けの女性は、生身の人間のようには物を見ることができないのだ。

 おそらくその視界は、ギアがミラーグラスのディスプレイ・システムをオンにしたときに近いのだろう。 


「あんたは、どうしてフル・サイバードになった?」


「復讐のためだ」

 

 口にされた言葉の不穏当さとは裏腹に、その表情はどこまでも静かで、動きがない。


「私はハノーヴァ・シティの議員の娘だった。過激派のテロに巻き込まれて母を失くした。そして自分の肉体も」


「だが、マシンの身体は、莫大な維持費がかかるだろ。どうして、再生治療を受けずに」

 

 そこまで言って、ギアは、目を見開いた。


「そうか。お前も、か?」


「その通り」


 アスカは、あっさりと頷いてきた。 


先天性コンジェニタル再生不能症候群インリジェネレイト。お前と同じだ」


「そんな……」


 カースは、目を見開いている。

 欠損した肉体の部位を、本人の細胞を基として人工的に培養し、移植する――

『再生治療』が一般的なものとなって、はや数十年。

 すでに医療は、拒絶反応という困難を克服していた。

 

 だが、全ての人間が、その恩恵を受けられるというわけではなかった。

 経済的な負担から、治療を断念する例が多い。

 本人、または家族の宗教的な信条から、治療を固辞する場合もある。

 そして、ごく稀にだが、体質的に再生治療が不可能な者もいるのだ。

 五十万人に一人と言われる『先天性再生不能症候群』――


「欠ければ機械になる身体……そうまでして、あんたは、どうしてここにいる?」


「父が私を生かした」


 カースが、ぎょっとしたような表情を浮かべた。

 その言葉を口にする瞬間、アスカが、初めて笑ったのだ。


「父の願いを私は叶える。あらゆる犯罪者に対して――力による復讐を」


 そう言った瞬間の彼女は、まるで小さな子どものように見えた。


「お前と同じだ。ギア・ロック捜査官」


「勝手に仲間ヅラしてんじゃねーよ。 俺は、あんたとは違う。もう、違うんだ」

 

 ギアは、アスカの目を見て、静かに告げた。 

 おそらく無意識にだろう、その手が胸元に上がり、シャツの下のロケットペンダントを軽く押さえる。

 場に流れた空気に呑まれてか、しばらく、誰も、何も言わなかったが――

 ややあって、その沈黙を破ったのは、ギア本人だった。


「あー、そうだ。ツラといやあ、さっきから気になってたんだが。どうしたんだ、それ?」


 相手の顔面を、遠慮なしに指差す。

 アスカは黒い手袋に包まれた手を上げて、滑らかな頬に触れた。

 色が肌となじんでいるため、ほとんど目立たないが、そこに四角い応急保護パッドが貼り付けられている。


「前回の任務で外装に軽微な損傷を被った。機能には影響がないので応急処置で済ませている。今度の定期診断で換装する予定だ」

 

 彼女は『外装』と言った。

 その脳は、精神は女性であるはずなのに――

 アスカは、自分の外見、肉体を、自分自身とは切り離して考え始めているのだ。

 フル・サイバードにしばしば見られる特徴だった。


 女性ならば、誰しも自分自身の外見に関心を持つだろう。

 自分の肉体的な特徴に陶然としたり、失望したり。

 それを捨てて、犯罪者への復讐に生きるのだと彼女は言った。

 おまえと同じだ、と。


(違う)


「あんたは、ここの任務に不満はないのか?」


「ない。たとえあったとしても今のお前たちにそれを言えば嫌味になるだろう」


 話を変えたギアに、アスカは飄々と答えた。


「ここは悪くない場所だ。他の分署とは違う『イレギュラー』。ここに集まってくる者たちも皆『イレギュラー』だ。ここでは他の分署では起こり得ないあらゆることが起こり得る。非常に興味深い場所だ」


「へえ、そうかい? 今のところ、俺たちには、何も起こりそうにないんだがね」


「苛立っているな。ギア・ロック捜査官」


「ああ」


 獰猛な笑みを浮かべ、アスカの背後で居心地悪そうにしている《特急》の男たちを見やる。


「三十人ほどぶっ殺さなきゃ、おさまりそうにねぇな」


「余所でやることだ」


 淡々と言ったアスカに向かって軽くうなずいてみせ、ギアは、シュライツに鋭い一瞥を向けた。


「勝負は、てめえんとこの隊長に預けといてやるよ。命拾いしたな。……行くぞ、カース」


 言い捨てて、返事も待たずに身をひるがえす。

 あっけにとられたように固まっていたカースが、その一言で我に返り、慌てて後に従った。


「なるほど。誰よりも鋭い牙を持つ獣か。さしもの猛獣使いが手を焼くはずだ」

 

 去っていくギアの後ろ姿を見送り、アスカはひとりごちた。

 その後ろにばたばたとくっついていく長身の男を見やり、首を傾げる。


「カース・ブレイド。掴みどころのない男だな。とても『本庁の切り裂き魔ダブル・オー・リッパー』と恐れられた男には見えん。偽装か? ――まあすぐに判ることだが」


 確信を込めて、大きく頷いた。


「この街は――あいつらをいつまでも眠らせておけるほどに平和なところではない」




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