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ブルーローズを探せ  作者: CoconaKid
第八章
46/75

「エレナをベッドに戻せ」

 銃を突きつけたまま、凄みを聞かした声でレイはカイルを脅した。

「レイ…… や…… めて」 

 絞り上げた、か細い声で、エレナは必死に訴える。

 レイは銃を懐に戻し、カイルからエレナを無理やり奪った。

「おいっ、何するんだ」

 カイルは圧倒されてしまい、強く抵抗できず、なすがままにエレナを奪われ、呆然と突っ立っていた。

 体の痛みに耐える声を飲み込んで、顔を歪めているエレナを、レイは辛い表情でベッドに寝かした。

「エレナ、すまない……」

 レイの悲しげに謝る声の陰で、ライアンとカイルは、レイの思いを悟ったようにはっとした。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。お前一体誰なんだ」

 カイルが納得ができないとレイに近寄る。

「あー、こいつ、エレナを無理やりさらって、俺に蹴りを入れた奴だ! くそっ!」

 ライアンがレイに殴りかかろうと拳を振り上げた。

「やめて、ライアン!」

 エレナの声がライアンの拳を宙で止まらせた。

「なんで止めるんだよ。こいつのせいでエレナが危険な目に遭ったのに」

「違うの、ライアンこれには訳があって……」

「エレナの知り合いだったのか」

 自分に依頼をしてきた男だとすでに気がついていたハワードは、事情が知りたいと割り込んだ。

「ええ、私の幼馴染」

 それを聞いて三人は驚いた。

「君の名前はレイというのか。なるほど、エレナをなぜ助けようと私に依頼をしてきたのか今わかったよ」

 ハワードの言葉を聞いてライアンは思い出した。

「あ、思い出した。こいつ事務所にそういえば来ていた。でもエレナを助けたいのなら味方じゃないか。なんで味方ならあんなにオレを強く殴ったり蹴ったりしたんだよ」

 レイは再び懐から銃を取り出し、銃口をライアンに向けた。

「お前が嫌いだからさ」

 レイの目はライアンを睨み付けていた。

「な、なんだよ、オレの事も知らないのに嫌いとかもないだろう」

「レイ、お願い。銃をライアンに向けるのはやめて」

 レイは素直に銃を懐にしまいこんだ。

 再びエレナの元に寄り添い、顔を近づけた。

「エレナ、薬を手にいれてきた。これを飲めばよくなる」

 レイが背広のポケットから薬を取り出し、それを与えようとエレナの体を起こした。

 その時カイルは我慢できなくなった。

「エレナは僕が病院に連れていく。エレナは僕の婚約者だ」

 今度はカイルがレイを押しのけ、エレナを抱き抱えようとした。

「婚約者?」

「ええ」

 エレナは複雑だった。

 こんなときに、それもライアンが目の前に居て、それを肯定するのが躊躇われる。

 ライアンもまたエレナの口から聞きたくなかったのか、顔を逸らした。

「わかっただろう、さあエレナ、病院へ行こう」

 カイルは再びエレナを抱き抱えようとするが、エレナは体が動く度に痛みを感じ、苦痛の叫びを上げた。

「だめだ。今病院へ行けばエレナを危険にさらしてしまう。ここに居る方が安全だ」

「何を言っているんだ。エレナは重傷なんだ。誰のせいでこんなことになったと思ってるんだ」

 カイルの怒りは収まらず、そこにレイが幼馴染以上の感情をエレナに持っていると感づき、イライラしてしまう。

「頼む、今、病院へ行けばエレナはそれこそ組織に見つかってしまうかもしれない」

 さっきまで冷静で、威嚇していたレイだったが、エレナの事になると急に態度が豹変して焦りが見えていた。

「カイル、私は大丈夫だから。レイの言う通りにして。お願い」

 カイルは躊躇いながらも、エレナの言うことを聞くしかなかった。

 レイが、ベッドの側に置いてあったペットボトルの水を手にし、エレナに薬を飲まそうとするが、カイルはそれを引ったくり、レイを強く睨んだ。

「僕が与える。エレナには触れるな」

 殺気立っているカイルを尻目に、レイは一歩下がった。

 静かに月に照らされた中、男達はそれぞれの思いでそこに立っていた。

 エレナが薬を飲むのを静かに見守ってから、ハワードが問いかけた。

「レイ、今の状況を私達に詳しく話してくれないか。こうなったらもう隠す必要はないはずだ」

「お前たちも協力してくれるというのなら話そう」

「わかった」

 ハワードが答えると、レイは静かに部屋を出て行った。

 ハワードもすぐに後を追う。

 ライアンはエレナを一瞥するが、その時カイルが側にいることで、どうしようもなく、それを振り切るように部屋を出て行く。

 カイルはエレナを寝かしつけ、額に優しくキスをするも、レイの出現で不安になっていた。


 月明かりがあるとはいえ、電気をつけない家は暗かった。

 もしもの用心のため明かりはつけられない。

 四人は海辺が見渡せるガラス張りの居間にいた。

 レイが窓際に立ち、ハワードはその辺にあった安楽椅子に座った。

 ライアンとカイルはソファーの左右の端にそれぞれ腰掛けた。

「レイ、君がエレナをここへ連れてきたのは私の連絡を聞いたからなのか」

 ハワードがまず話し出した。

「ああ、君の連絡と同時に組織はもう既に動き出していた。一刻も早くエレナを連れ出すために手荒な真似をするしかなかった。ライアン、お前が現れなかったらエレナは車から放りだされることはなかったんだ」

 レイはライアンに恨みでもあるかのように睨んだ。

 そんな事を言われてもライアンは納得いかなかった。

「なんだよ、エレナに危険が迫ってたんだ。助けに行くのが当たり前だ。それにお前のやり方が間違っていたんだ」

 ライアンも引き下がらなかった。

「もう過ぎてしまった事だ。そんなことはいい。結局はお前は何をしようとしているんだ」

 カイルが我慢ならないように叫んだ。

 ただでさえエレナが大怪我をして苦しんでいるというのに、それが車から放りだされた事がレイのせいだ、ライアンのせいだと子供の喧嘩のようになすりつける二人に、苛立ちを感じた。

「カイルの言う通りだ。レイ、まずはなぜ君が組織に入りエレナを助けようとするのか話してくれないか」

 ハワードがまた話を元に戻した。

 レイはライアンから目を逸らし、ライアンも気に入らないというように舌打をした。

「私はデスモンドグループに雇われた裏の情報処理係、早い話が後始末屋だ。裏で悪事を働いたあと、証拠が残らないように処理をするのさ。組織内ではDと言う名で呼ばれている」

 カイルは驚愕していた。

 デスモンドグループと言えばカイルの会社も関わりを持つことがある。

「デスモンドは影で悪いことをしている企業だったのか」

 驚くカイルを尻目にレイは話を続けた。

「私の父親もコナー博士と同じ研究チームの科学者だった。しかしコナー博士が突然研究を中止すると言った事で、私の父とは亀裂した。父はたっぷりと入るス ポ ンサーの金が魅力で研究の中止は阻止したかった。そこでコナー博士はデスモンドが関わっている悪事を父に知らせた。それでも父は好きなだけ金を使って研究 できるスポンサーの方が魅力で、デスモンドの裏の事業の事はどうでもよかった。そこで父はもっと研究が続けられるように、デスモンドに、コナー博士が警察 に悪事の事を知らせようとしていることを密告してしまった。それが原因でコナー博士は囚われの身となりエレナもまた危険にさらされた。私は父の罪を償いた かった」

「そこでコナー博士を助けるため、エレナを守るために自らデスモンドグループの悪の組織に入ったってことか」

 ライアンが言った。

「そうだ」

「それならなんでこんなに時間がかかってるんだよ。コナー博士を助ける事がなんですぐにできないんだ」

「黙れ、ライアン。お前にそのような事は言われる筋合いはない。お前が思っているよりも複雑な事が一杯なんだ」

 レイとライアンはまたいがみ合った。

 レイはどこか昔からライアンが嫌いとでも言うような態度だった。

「しかしなぜすぐには行動が起こせないんだ」

 ハワードが冷静に聞いた。

「研究資料がないと博士はあそこからでられない。出口が一カ所しかなく、厳重な警戒がされているところで私一人ではどうしても救出できない。せいぜい、中 から情報をコントロールしてエレナの所在地を隠す事だけで精一杯なんだ。研究資料があれば博士は特別研究施設へと転送され、有無を言わせずに協力させられ る事になるだろう。その博士の輸送の時が助け出すチャンスだと思っている。しかし博士はその資料がどこにあるか決して話さない」

 ハワードは考え込んでいた。

 ライアンはレイの事が気にくわなくてそっぽを向いている。

 カイルはレイもまたエレナを思う一人の男として、必死にエレナを守ろうとしていることに気が付いた。

「君が救い出せないのに我々が協力して救い出せる訳がない。ここはまず博士の研究資料を是非とも見つけた方がいいな」

 ハワードは、エレナの部屋から持ってきたオルゴールをレイの目の前に出して見せた。

 レイは月明かりの中、そのオルゴールを見たが、怪訝な表情をするだけで、それが何を意味するのかわからない様子だった。

「どうやら君もこのオルゴールについては何もご存じないようだね」

 ハワードはオルゴールの蓋を開けた。

 優しい音色が、静かな家の中に響き渡った。

 皆は大人しく耳を傾けていた。

 その時、後ろで物音がなったかと思うと、エレナが苦しい顔をして壁にもたれながら立っていた。

「エレナ、寝てなくちゃだめじゃないか」

 カイルがすぐにエレナの元へ駆けつける。

 ライアンも一瞬、無意識に体が動いたが、自分は行けない事に気が付きその場に留まった。

 しかし、レイはカイルを押し退けエレナを抱き上げた。

 今度はカイルが納得できなかったが、レイに圧倒されてしまって抗えなかった。

「レイ、お願い大丈夫だから降ろして。薬が効いて少しは楽なの」

 レイはソファーにエレナを座らせた。

「オルゴールの音が聞こえたの。それで気になってしまって…… でも、どうしてそれがここに」

「私が君の部屋から持ってきたんだ。勝手に持ち出してきてすまなかった。君が青いバラについて何かを調べている事がわかったので、何かの手掛かりになるかと思ったんだ」

 ハワードはそのオルゴールをエレナに渡した。

「持ってきてくれてありがとう。この曲を聞くと、何かが私に訴えているように聞こえるの。曲の題名も『私を探して』っていうくらいだから私は何かを探さなくっちゃいけない気持ちになるの」

 エレナはじっとそのオルゴールを見つめていた。

「エレナ、そのオルゴールについて、知ってることを話してくれないか」

「ハワードさん、それが私もこのオルゴールについては何も知らないの。父が連れていかれる直前に手渡されたんだけど、ただ大切に持っていなさいとしか知らされてないの」

 ハワードは気難しい顔をして黙り込み、考え込む。

 エレナが説明した状況から、どうしてもコナー博士がそこにメッセージを込めたように思えてならなかった。

「君もこの青いバラのオルゴールに博士からのメッセージがあると思ったんじゃないのかい」

 ハワードの読みにエレナは驚いた。

「ええ、その通りよ。たまたまこの辺りにある教会に青いバラのステンドグラスがあると知ったんだけど、そこと何か関係があるのかもって思ったわ」

 ハワードはもうすでにその教会を訪れて何も関係がなかったことを伝えた。

 エレナはがっかりしたのか、首をうなだれた。

 それ以外、他には何も手掛かりはなかった。

 エレナは何か見落としている事がないか、今一度考える。

「私も、その教会に連れてもらえないかしら」

「そんな体ではむちゃだ」

 カイルはエレナの隣で体を労い、いた堪れなくなっていた。

「レイから、もうすでに聞いたわ、父が居る場所、そして研究資料があれば父を助け出せるチャンスがあることも。それなら一刻も早く私は探さなくっちゃいけないの。私の体なら大丈夫よ。それにそこに行けば、私にしかわからない何かがあるかもしれない」

 エレナの言うことはもっともだった。

 ハワードもエレナなら何か手掛かりを掴む可能性が高いと思ってしまう。

 エレナの体の調子が悪いが、ここにいつまでも隠れていても、そのうちばれてしまうのも時間の問題だった。

 まだ情報が錯乱している今だからこそ、少しの余裕があるというものだった。

 それまでになんとしてでも研究資料を見つけなくてはならない。

「わかった、夜が明けたら連れていこう」

「おい、ハワード。そんな無茶なことを。エレナは動ける体じゃないんだぜ」

 ライアンは心配のあまり、ハワードの判断に反対した。

 カイルはエレナの手を握りながら躊躇している。

 しかし、エレナの熱い気持ちが、握り返されて強く伝わってくると、反対することができなくなった。

 カイルにはわかっていた。

 エレナが一度強く心に抱いた思いは、無理をしてでも突っ走ってまで追いかけていく。

 ここで止めても、言うことを聞くはずがないとカイルは賛同を決め込む。

「君は僕たちが行くなと行っても、きっと這ってでも行くんだろうね。昔からそうだったね。思った事は無理をしてでも行動に起こしてしまう。わかったよ、僕が連れていってあげるよ」

「カイルまで、なんでだよ」

「ライアン、君はまだエレナのことわかってないんだな」

 カイルの言葉の裏に、カイルしか知らない有利な思いがあるのが読み取れ、ライアンは言葉に詰まってしまった。

 エレナの目は月明かりに輝いて、意思は変えられない様子が現れている。

 エレナの屈しない強さはライアンも目の前ですでに体験し、それに自分は打ちのめされた。

 ライアンだって、出会ってまだ日は浅いとはいえ、エレナの事は理解していた。

 理解しているからこそ、そこに惚れてしまった。

「わかったよ。皆がそういうのなら、俺も協力するしかないじゃないか」

 ライアンも諦め気味で承諾した。

「私はこれから組織に戻る。エレナの情報がどこまで知られているのかも気になる。もし研究資料が見つかればエレナ、そこにいるライアンと二人でデスモンド本社まで持ってくるんだ」

「おい、それは危険じゃないのか。それになぜライアンで僕じゃないんだ」

 カイルにはレイの指示が理解しがたい。

「そうだよ、直接行くのは、無謀すぎるじゃないか。それに、なんで俺なんだ?」

「お前はアレックス・スタークの息子だから、奴等はお前には手が出せない。正面玄関から堂々と入れば何もできないのさ。表向きは普通の企業だからな」

「えっ、スタークさんがライアンのお父さん?」

 エレナはライアンを見つめる。

 ライアンも、父親が関係してた事は知らなかったと苦々しく笑っていた。

 ライアンから名刺を貰ったとき、苗字を見て確かに不思議な気がしたが、まさか親子だったとはエレナも驚いてしまう。

 そんな昔からライアンと間接的にでも係わっていたと思うと、エレナは自分の気持ちをどう表現していいかわからなかった。

 ただ、胸が締め付けられ、遠い過去に階段を上れずに見上げているだけの自分がそこにいた。

 レイがアレックスの話を持ち出したところで、レイとアレックスに接点があることに気づき、ハワードの眉がピクリと反応していた。

「それで、その後どうする気だ」

「コナー博士はすぐに、エレナの前に連れてこられるだろう。そして研究施設へと送られる。そうすれば博士はすぐにそのビルを後にすることができる。いい か、必ずエレナもライアンも博士に一緒について行くんだ。そして研究資料は絶対に手放すな。私も側に居る。車に乗り込んだ時に私が行動を起こす」

 誰もがレイの計画に安全性を見られなかったが、それしか方法がないことが悔しい。

「それじゃハワードや僕は何をすればいいんだ」

 エレナが危険にさらされ、ライアンが側にいるのも気に食わない。

 カイルは、自分が何もできない事が許せなかった。

「君たちは私達の後ろを車でつけてくれ。博士が乗る車に私が予め細工をする。立ち往生したときに側につけて皆を救うのを手伝ってくれればいい」

「しかしそんな作戦で本当にうまく救出できるのかよ」

 ライアンが挑戦的な態度でレイに言った。

「ああ、私の命に代えても必ず博士とエレナは助ける」

 その時のレイの瞳は、暗闇の中で獰猛さを帯びていた。

 いくつもの修羅場を潜って、恐ろしいものを見てきた瞳。

 死をも恐れない、鋭く尖った鋼の精神があった。

 ライアンはその凄みに息を飲んだ。

「わ、わかった。レイを信じる」

 まるで懐柔されたかのように、言葉がライアンの口から自然と漏れていた。

「私、必ず研究資料を探し出すわ。そして父を助け出す」

 エレナの心は熱く燃えていた。

 こうなったら誰が何を言おうとエレナは耳を傾けない性格だ。

 カイルは心配とエレナを理解する気持ちの狭間で葛藤する。

 本当に大丈夫なのだろうか。

 今頃になって怖気付いてしまう。

 だが、すでに走り出したエレナを誰にも止める事はできなかった。

「皆、夜明けまでまだ時間がある。少しは寝た方がいい」

 ハワードの言葉は、エレナを我に返らさせた。

 自分を追ってここまできてくれたこと、これから危険に巻き込んでしまうこと、精神も体も疲れていること、ただ申し訳なくなる。

「皆さん、私のためにごめんなさい」

「何を言ってるんだエレナ。僕はもっと早く教えて欲しかったくらいだ」

「そうさ、俺だって、親父が関係してるのに知らなかった事が悔やまれるぜ」

「エレナも今までよく頑張った。とにかく休むんだ」

 三人から労いの声をかけられ、エレナは目を潤わせていた。

 体はとても痛くて苦しいが、それすら乗り越えられそうに力が湧き出てくる思いだった。

 そして、レイを見つめる。

 この十年間、全てを犠牲にしてまで、父とエレナを救うためだけに生きてきた事に深く罪悪感を覚えながらも、感謝の気持ちで溢れてくる。

 レイはとても逞しく、そこに立っているだけで敵を寄せ付けない石壁のようだった。

 そして所々傷を負い、消えない血の痕まで見えてくる。

 どれだけ自分のために戦ってきたのかエレナはそれを思うと苦しくなった。

 レイがエレナに向かってくる。

 そしてエレナの体を優しく抱き上げ、部屋へと運んでいった。

 それはあまりにも自然で、カイルとライアンは何も言えなかった。

 カイルにしてみれば、婚約者が目の前で奪われているのに、抵抗できずにただ息を飲むだけで終わった。

 ライアンもレイが驚異的に感じて、圧倒されて口をぽかんと開けていた。

 二人は暫く、動けないほど、レイの精神に飲み込まれていた。

「なんかすげー、あいつ」

 ライアンがポロリとこぼすと、カイルは我に返った。

「くそっ」

 エレナを目の前で持っていかれて、カイルは何もできなかったことが悔しい。

 カイルは慌てて後をついていった。

 だが、レイとエレナの会話が聞こえてくると、カイルは部屋に入れなかった。

 そのまま立ち聞きしてしまう。

「エレナ、苦しい思いをさせてすまない」

 レイはそっとベッドにエレナを寝かせた。

「レイ、私の方こそ今まで迷惑ばかりかけてごめんね。私いつも我儘だったね。それなのにレイはいつも優しかった」

「いいんだよ。あの頃、エレナと一緒にいられたことが楽しかった。誰とも話さなかった臆病な私だったけど、君だけには心を許すことができたんだ。君のお陰で私は強くなれたと思っている」

「レイ、もうあなたは私に束縛されなくていいのよ。もっともっと自分の事だけを考えて自由に生きて欲しいの」

「エレナ、君こそもうすぐ自由になれるんだ。もう逃げなくてもいいんだ。今まで本当に辛かっただろう。エレナこそ自由に生きなくてはだめだ。それなのになぜ好きでもない男と結婚しようとしているんだ」

 エレナはその言葉にはっとした。

 部屋の外で二人の会話を聞いていたカイルも衝撃のあまり声を出しそうになったが、慌てて自分の口を覆っていた。

 エレナは言葉につまりながらも必死で答えようとした。

「私、私…… 、カイルは大切な人なの。もちろん大好きよ。だから結婚するのよ」

「だからそれが偽りさ。本当に好きな奴はアイツだろ。あの生意気な奴。どっちにしても私は気にいらないけど、エレナが好きだと選んだ男なら心から祝福しよう。君には幸せになって欲しいから。だから自分の心に嘘をつくのはやめるんだ」

 部屋の外で聞いていたカイルは、レイの言葉にショックを隠せなかった。

 カイルは後ずさって居間に戻ってしまい、ソファーに崩れこむように座っては、歯を食いしばった。

 ──エレナが選んだのは僕だ!

 エレナはレイに何かを言われても、カイルと結婚する意志は自ら絶対に曲げない。

 エレナがカイルと結婚すると決めている限り、それは変わることはない。

 このまま突進むだけだった。

 しかし、レイが言った言葉を気にしないようにしても、どうしてもつきまとってしまった。

 その時、静かな部屋でレイの声が聞こえた。

「今から私は行く。エレナのことはお前たちに任せた」

 レイはそれ以上何も言わず、闇の中に消えていくように出て行った。

 疲れていたライアンはすでに仮眠を取る体制をして目を瞑り、ハワードは安楽椅子に深く腰を掛け、動かずに一点を見つめて、この先の事を考えている様子だった。

 カイルはエレナの様子を見に行こうかと思ったが、レイの言葉が耳に残り、体が素直に動いてくれなかった。

 溜息を吐き、その場に留まり、静かに目を閉じた。

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