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薄命光線  作者: k
1/1

薄命光線 No.1

 夜、寝る前、必ず彼女のことを思い出す。

周りの景色はどれも見覚えのある場所で、傍に居るのはいつも笑顔で楽しそうにしている彼女だ。

春は桜が満開の緑道を二人で歩いている、夏は浜辺で二人座っていろんなことを話している。秋は寒くなってきたねと二人、手をつなぎ、空いた手にはコンビニで売り始めてきたホットコーヒーの缶を握り締め。冬には雪が降り、道路は凍っていて転ばないように、滑らないようにしっかりと僕の手をつかんでいる。

夢なのにそれは夢のようではなくて、現実ではないのに現実のようで、鮮明にそして色濃くしっかりと僕の意識に入り込んでくる。

 

 彼女と出会ったのは小学校の頃で、僕にはそのころ人を好きなんてものはなかったし、もちろん誰かに告白をしたこともなかった。3年の頃同じクラスになった彼女とは、話したことはあったけれど友達のようにしか思っていなかった。彼女と僕の両親は仲がよく、よく読み聞かせのボランティアとして学校で読み聞かせをしていた。子供のころ親が学校に来るなんて嬉しいことではなくて、二人で「恥ずかしいからやめて欲しいね」なんて話をしていた。4、5年生と同じクラスになり、前より親密になってきた頃クラスの女子から、彼女が僕のことを好きだと知った。けれど僕は彼女のことを好きだと自覚はしていなかったし、それどころか彼女とその噂が出始めてから、話すことはなくなっていった。きっと誰しもこういう経験があると思う、噂になるのがいやだし、冷やかされるの恥ずかしかった。そこからだと思う、自然とクラス替えの名簿で彼女の名前を捜しはじめたのは。


 彼女と疎遠になり、特に大きな出来事もなく小学校を卒業した。幸いにもお互い中学受験をしようとは思ってなくて、小学校の近くにある中学校にそのまま通った。僕の中学校は大体、僕の通っていた小学校と近くの小学校、二つの小学校の生徒が多かった。だからまったくの初対面の生徒も多かったし、いろんな出会いがあった。

 

 中学2年生の頃僕はある女性に出会った。彼女は出会ったその時から僕に気がある風に接してきた。もちろん中学生の僕はそんなことをされて気が悪いわけはないし、むしろなんだか嬉しかった。彼女と話すことが多くなって、中学生ながら二人で遊んだり、一緒に帰ったりするうちに僕らは付き合うようになった。付き合っていく中でキスもした。中学生になれば自然と性の知識も増えていくわけで、僕らはそういうことをしたいと思うようになっていった。

 あの頃僕は性欲を満たすためだけに彼女と会うようになっていた、だけどもちろん避妊もしていたし、彼女のことを少しは好きでいたんだと思う。ただやはりそこは中学生の恋愛で、僕はすぐに彼女のことをなんとも思わなくなってしまった。冬の終わり、僕の家の近くの公園に二人で行き、僕は別れようと言った、彼女はひどく傷ついた顔をしていて、泣きながら小さな子供が欲しいものをねだるように嫌だといった。だけど僕は無理矢理彼女を言い聞かせ半ば強引に別れた。


 冬が終わり、春が来てクラス替えがあった。クラス替えの名簿で自分の名前を探す。僕はA組で、そのあといつもしているように、自然とそして無意識に彼女の名前を探す、「あった。」僕は名簿をなぞるように探していた指を彼女の名前のところでとめた、彼女は僕と同じA組だった。3年ぶりの同じクラスだった。僕の学校は人数が多くて、あまり他のクラスとの交流もなければ、顔をあまり合わせることもなかった。だから彼女の小学校のときの顔しか知らないし、成長した彼女の顔を知ることもなかったんだ。


 彼女は頭脳明晰で、真面目で、お淑やかで、騒いだり悪戯をしたりなんてするような子じゃなかった。よく言えば優等生で悪く言えば地味だ。僕はその正反対で騒いだり悪戯したりするのは好きで、勉強は嫌いで、よく先生に叱られていた。年相応幼稚のまだまだ子供で、どこの学校にも居るクラスで騒いでる一人だった。

話を戻そう。クラス替えの名簿で彼女の名前を見つけてから僕はどこか高揚していた。新しいクラス、3-A組に向かう足取りもどこか軽やかになっていて、一緒に居た友人にも今日お前元気だななんて言われたりしていた。


新しいクラスのドアの前で一息ついて、自分の中にある様々な感情たちに落ち着けと言い聞かせ、僕はドアを開けた。

 すでにクラスには顔見知り同士のグループが出来ていて、がやがやと賑わっていた。僕は彼女を探す、辺りを見回して、なるべく友達には悟られないようにと。

いた、彼女だ。彼女が教室の隅で友達と談笑していた。僕は目を疑った、すごくすごく綺麗になっていて、僕はたったの数秒で彼女に惹かれた。まるで一目ぼれしたように。厳密に言えば一目惚れではないんだけれど、僕がたった今経験したこの感情はきっと一目惚れしたときに感じるそれなんだと無意識に理解をした。


 彼女に話しかけたかったけれど、僕と彼女の間にはなんだか気まずさや恥じらいのような感情が壁のように聳え立っていて、僕はなかなか彼女に話しかけることは出来なかった。きっとそれは小学校のときのことを思い出すと、あのときの純粋な気持ちを、少し大人になった僕らは昔とは違う目線で見ていたからなんだと思う。


 そうして彼女とは話さないまま時間だけが過ぎていき、春が終わりじんわりと熱くなってきた。僕は親の方針で高校まで携帯を持つことが許されていなかった、だから友達と連絡するときはパソコンのフリーメールで取り合っていた。そんなパソコンの受信フォルダに一通のメールが届いた。彼女からだった、この彼女というのは中学校二年のときに付き合っていた彼女のことだ。メールには「今時間ある?」とそれだけが広大なメールのスペースにポツリと打たれていた。なんだか僕は胸騒ぎがして。「あるけどどうしたの?」と返信をした。すると彼女から「妊娠したんだ、君の子供を。」と告白された。その瞬間僕の心臓がドクンと脈打って、この世界に居る自分だけの時がとまったような気がした。僕は冷静になりきれて居ない頭を使って、なるべく彼女を不安にさせないように言葉を慎重に選びメールを打った。「分かった、大丈夫だよ。明日学校で話そう。」頭で分かっていても、今の僕にはこれが精一杯強がって安心させようとした限界だったんだ。

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