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エルナトの女王  作者: Naoko
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9. 夫人たち

「お腹が空いた」とセフォラは思った。

もう朝らしい。彼女がいる部屋は小さなランプの明かりが灯っているだけで薄暗い。分厚いカーテン隙間からちらちらと外の光と共にかすかな振動もあるような気がするのだけれど、それより空腹が彼女を支配していた。昨夜、火事のサクマティ修道院を去り、この部屋に案内され、出された食事は喉を通らず、このまま餓死してしまいたいと思うぐらいに打ちひしがれていた。それなのに一夜明ければ空腹を感じてしまう自分が情けない。


ドアをノックする音がした。セフォラはブランケットを握りしめ膝を抱えて丸くなる。

灯りがつき部屋が明るくなった。


「まあ、こんなところで寝ていたのですね」

そう言って覗き込んだのは、品の良い貴婦人だった。


セフォラは始めベッドに寝ていたのだけれど、ふかふかのマットレスは寝心地が悪く、枕とブランケットを取り床の上で夜をあかした。一緒にやってきた召使たちはテーブルの上いっぱいにご馳走を並べ出て行った。セフォラは黙ったままテーブルに着き目の前のご馳走を見る。そして恐る恐るそれらを口に入れた。その貴婦人の見ている前で恥ずかしくもあるが空腹には勝てない。ところが豪華で美味しそうな馳走なのになんだか変な味だ。


「口に合わないでしょう。これはどうかしら」

夫人の勧める地味で実だくさんのスープを食べてみる。

「美味しい」

そう言ったセフォラに彼女はニコリと笑った。


セフォラは改めてこの部屋を見回す。豪華な調度品や家具が置かれているので来賓のための寝室なのかもしれない。こんな立派な部屋の高級そうなベッドではなく床の上に寝て、ご馳走も口に合わない。場違いの自分になんて惨めたらしいのだろうとがっかりする。それにしてもここはどこなのだろう。


「王宮だよ」とモモが言った。

セフォラとモモは、はっとしてお互いを見た。王宮とはただ事では無いが、それより驚いたのはモモはセフォラとしか話せなかったはずだからだ。院長の前ですら「ワン」と普通の犬のようにしか吠えない。それなのに、この夫人がいる前でモモは喋れるのだ。夫人は、驚いている彼らには構わず喋り始めた。


「私は、セナ公爵の妻、アデライドです。あなたが幼ない頃に会ったことがあるのだけれど覚えてないかもしれないわね。あなたの世話をするようにエレイーズから頼まれています。突然だったので、急いで準備しているところよ。明日の戴冠式が終わったら私の屋敷へ移りましょう。ここは息が詰まるわ。食事だって見栄えはいいけれど、サクマティ修道院の農園で作られた新鮮なものからしたら雲泥の差でしょう」


「あの、エレイーズとは?」

それは初めて聞く名前だ。

「ああ、御免なさい。ついそう呼んでしまうのよね。レディ・エレイーズは、修道院長がサクマティへ行かれる前の名前で、ラフリカヌス前王の妹、そしてガルア前々王の娘」

「院長様!? どうか院長様がどうしておられるのか教えてください。サクマティ修道院は燃えてしまいました」

セフォラは夫人の話を遮る。そんな彼女を夫人は少し見つめ微笑んで言った。

「大丈夫です。サクマティ修道院の火事は修道院が攻撃されないための処置だから、農園と作業場は残っているわ。とはいえ修道院は閉じられ、外で活動するエレイーズはもう院長ではないから名前は・・・まだどうするのか聞いてないけれど、レディ・エレイーズの名前を覚えている人も今はあまりいないし、エレイーズに戻るかもしれないわね」

「ご無事なのですね。またお会いできるでしょうか?」

「さあ、それは・・・戦争が続くかぎり難しいかもしれないわ。ほら」

と彼女は言って、テラスへ続くカーテンを開けた。たくさんの光が部屋に入ってくる。セフォラがテラスへ出ると、空いっぱいに花火のような色々な光が炸裂している。


「敵からの攻撃よ。バリアで防御されているけれど、明日は戴冠式だからここ数日は続いているわね」

「戦争?」

「あら、知っているでしょう?」

「ええ、でも・・・」


その時までセフォラはこの国の状況を全く把握していなかった。修道院は平和だったし危険を感じたこともなかったのだ。


「とにかく急いで。食事が終わったら身支度を整えて、新しいドレスに着替えなくてはね」

セフォラは白いドレスを着たままで寝ていた。

「いえこれは、院長様が私のために準備してくれたものです」

そう言って、両腕の袖を掴む。


「そう、じゃあ、あなたが持っていなさい。着替えは必要よ。新王に拝謁するのだから」

「新王?」

「ええ、次の王ゲルノアが、ライーニア将軍とあなたに会われるそうです」

「私が? ライーニア将軍とですか?」

「ええ、私も付き添います。あなたには、ライーニア将軍の夫人として戴冠式にも出席してもらいます」

「なんですって!?」


セフォラは、突然、自分がとんでもない所に来てしまったような気がした。

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