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エルナトの女王  作者: Naoko
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7.思い

セフォラが目を覚ますと、自分は長椅子の上に寝かされており傍にはアイメがいた。慌てて起き上がろうとすると目まいに襲われる。

「まだ起き上がってはいけません」

アイメはそう言って、セフォラそっと押し戻す。セフォラには、まだ何が起こったのか思い出せないでいた。


会見の間には大きな窓があった。セフォラがその方を見ると、窓の前にシルエットのように浮かぶ二つの影がある。彼女は始めそれが誰だか分からなかったのだけれど、ぼうっと見つめていると、その二つの影はしばらくの間彼女を見ていた。それから互いを向く。


「こんなことになって申し訳ありません」

それはライーニア将軍の声だった。

「いいえ、こちらこそご迷惑をかけております」

そう答えた院長の声は静かで、そうなることを予見していたかのようだ。


その二つの影は、院長とライーニア将軍だった。今この部屋に残されているのはこの二人とアイメ、そして自分だけなのをセフォラは知る。


ライーニア将軍の声は暖かい。

「院長様、私は、あなた様が私を呼ばれるのをお待ちしておりました」


セフォラは、それはどういう意味なのだろうとまだはっきりしない頭で思う。そして院長の方を見る。窓から入る光のせいで院長の表情ははっきりとは分からないのだけれど微笑んでいるように思えた。


「はい、私も、この時を待っておりました」


その時、この二人は、二人だけの世界にいるのをセフォラは感じた。ああ、この二人の間には計り知れない何かがある。それをどう表現していいのか分からない。


院長は、今まで病気や傷ついた者たちの世話をしてきた。そして自分もそんな院長のようになりたいと思っていた。ここは男子禁制の修道院。異性への思いなど程遠く、考えたことすらなかった。いや知らなかった訳ではない。ここにやってくる傷ついた女性たちは何らかの過去があり、自分はただ彼女らを助ける院長に憧れていた。それなのに今、院長は自分の知っている院長ではない。そう、自分はこの二人から目を離せられないでいる。


院長は、ふっと笑ったように見えた。すると今までの雰囲気が変わった。

「ライーニア将軍、いえセイリオス、あなたはあの娘に最初に触れる特権を、あの少年に渡してしまわれたのですね」


セイリオスは不思議そうに答える。

「最初に触れる特権?審判者である私に短剣を向けるのは自分の潔白を主張する印です。とはいえそれは古い儀式です。実際、あの娘の審判はどうでもよく、何か別の意味があたのですね」


院長は、緊張を解こうとするかのように息を吹いた。


「ええ、あの娘は私たち種族の希望、未来です。私は、今までどの男たちにも触れさせないように育ててきました」

「男に触れさせない?」

「あの娘に触れて気付きませんでしたか? そうです。あなたは私たちがどうなるか分かっているはずではないですか」

セイリオスは少し間をおいて答える。

「終わり、ですか?」

院長は、はっきりと、和かに言った。

「私は、彼女が私たちの希望で未来だと言いました」


今度はセイリオスが反撃に出た。

「では院長様。私どもと一緒においで下さい」

「いいえ」

その答えは即座だ。

「ライーニア将軍、私はあなたのエルナトの女王ではありません」


エルナトの女王、それはセフォラが初めて聞く名前だった。エルナトとは何なのか、どこにあるのか、それさえも検討がつかない。


「私はあなたにこの娘の後見者になってもらいたいのです。それであなたを呼んだのです」


その時セフォラは、院長が何をしようとしているのか幾らか分かったような気がした。前王が亡くなり、戦争が始まり、この修道院の存在も危ぶまれている。そして自分の安全を心配した院長は、将軍を呼んだのだ。


「院長様!私をお側に置いてください!」

セフォラは起き上がり叫ぶ。院長とライーニア将軍は驚いて彼女を見た。


それから院長は、ライーニア将軍の肩に手を置いて言った。

「セイリオス・ライーニア。あなたは長い間、私の兄、ラフリカヌス前王に仕えてくれました。感謝してます」


それはまるで彼を、特別の新たな何かに任命するかのようだった。

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