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エルナトの女王  作者: Naoko
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49. 友

アルバの格納庫は、人でごった返していた。

「まだ見つかんないの?」

退屈したモモが、ピョコンとアルスランの肩に担がれた袋から頭を出す。

「あれだ」とアルスランが指差した。

格納庫の隅の方、少し古びた宇宙船の前にヒューゴが立っていた。


「ぶつかるなよ」

ヒューゴが冗談交じりに言ったので、アルスランはフンと鼻を鳴らす。

アルスランは、混雑する首都の空港で人にぶつかり、ヒューゴとロランに助けられたことがあった。あれからかなりの時が過ぎたのに、昨日のことのように覚えている。あの頃の自分は、劣等感の塊だった。


ラフリカヌス前王が亡くなり、次の王が決まらないまま戦争が始まった。ゲルノアが王座についても何も変わらず、自体が急変したのは、球体を作ったセナ公が亡くなってからだ。そして愚かにもゲルノアは、ライーニア将軍を追放し、敵に首都と球体を奪われてしまった。謙遜にならざるを得なかった王は、将軍を呼び戻す。この戦争に決着をつけようと、兵士や民たちも将軍を歓迎した。



モモが袋から飛び出したので、アルスランが慌ててモモを捕まえる。モモは足をジタバタして「はなせ!」と叫んで口を大きく開けた。むき出しになったギザギザの歯がキラリと光る。

そこへロイックが宇宙船から出てきて「モモ、おいで」と呼んだので、モモはハッとして口を閉じ、嬉しそうにロイックの腕の中に飛び込んだ。

モモの変わりように呆れたヒューゴは、

「何なんだ、こいつら」と言った。

「さあな」とアルスラン。

「ま、とにかく、お前の言った通り、この宇宙船を持ってきたぜ」

「すぐに出発できるのか」

「ああ。お前は、ライーニア将軍に会ってきたんだな」

「うん、ちょっとの間だったけどね」


アルスランは、兄のセイリオスに会うのはこれで最後だと思った。

初めて兄に会ったのは孤児になってからで、最初は人として魅力のある兄に憧れたが、次第に引け目を感じるようになっていった。そしてミリタリー・アカデミーを辞め、諸国を旅している内に、兄とは違ってていいのだと思えるようになったのだ。


セイリオスは、ラフリカヌスから、首都の球体を奪われたら首都とアルバの二つの球体を破壊するよう命じられていた。エルナトの球体を守るための捨て石になる。それがアルバが作られた本来の目的で、セイリオスは、この状況を待っていたとも言える。


モモは、バルナの軍の異次元航路の出口が閉じる前に放たれる。その後すぐに、アルスランはエルナトへ向かうのだが、キトロン製でない宇宙船なので、ワープを繰り返して三年ほどかけて行くことになる。

アルバとエルナトの球体をつなぐ航路を使えばすぐだが、バルナにエルナトを知られてしまうかもしれない。バルナはアルバの球体の存在を知ったばかりで、エルナトの球体には気づいていない。またアルスランがエルナトにたどり着く前に二つの球体が破壊されれば、異次元から出られなくなる恐れもある。

アルスランがエルナトにたどり着くには、エルナトの球体だけでは駄目なのだ。


キトロンの首都の球体を手に入れたバルナは、ゲルノア王を追ってアルバへやってくる。キトロンが勝つかバルナが勝つか、やってみなければ分からない。アルスランの乗る宇宙船では、戦いの勝敗を確かめようがない。バルナが勝ってアルバの球体も取られてしまったら、アルスランがエルナトに着いた時は誰も生き残ってなかったという可能性もある。それでもアルスランは、エルナトへ向かうつもりでいた。



全ての点検を終えたロイックは、モモを操縦席の横の台の上に乗せると笑顔でその頭を撫でた。するとモモは、がっかりしたようにため息をつく。

「ロイックに送ってもらいたかったのに」

「うん、僕もそうしたいんだけど、やることがいっぱいあるんだ」

「あーぁ、アルスランかー。他に暇そうなのはいないし」

「俺は暇じゃない!」

アルスランが怒ると、ヒューゴが笑う。

「お前らは相変わらずだな」

ロイックも笑った。

「仲がいいからでしょ」

「違う!」

モモとアルスランは一緒に怒鳴った。


「アルスラン、お前はそうやってすぐにムキになるからモモにからかわれるんだ。格好も流人のようだし」

「俺はこれを気に入ってるんだ。お前のような格式ばった服は好きじゃない」

「俺だって、除隊してロセウスに流刑にされたようなものさ」

「いいじゃないか。今は辺境の後進国に過ぎなくても、ロセウスは大きく飛躍する。その内に、ここら辺では最も影響力のある国になるはずだよ」

「それは俺も思ったね」

「だったらいいや。ロランも含めて俺たち三人は、既存の社会に馴染めないところがあったけど、今はそれぞれの道を行くってことさ」

「ああ、ロランは予想に反して出世しちまったし」そう言ってヒューゴは声を低くする。「悔しいけどね」

「お前だってロセウスで出世してるじゃないか。皇太子の教育係りもしてるんだろ」

「それはお前の後釜じゃないか」

「そうだけど」と言ってアルスランは黙る。教えるのは、ヒューゴの方が上手いと思っていた。


「アルスラン、お前もモモを送った後、ロセウスに来ないか。文化財の整理を手伝ってくれると助かる。書籍は一生かかっても読めないほどあるし、都市計画も立てなきゃならない。テラフォーミング中の惑星の将来も期待できる。今のキトロンよりずっと建設的で面白いよ。ロセウスが窮屈だったら周辺国でもいい。どこへ行っても女の子に引っ張りだこだったんだろ。泊まるとこなんか探すのに困らなかったって聞いてるぜ」

するとモモが驚く。

「え?アルスランって女ったらしなの?」

「変なことを言うな。俺は女を追い回すためにあちこち行ってたわけじゃない」

「なーんだ、やっぱりモテないんだ。顔が良くても性格が悪くちゃね」

「なんだと⁉︎」

怒るアルスランにヒューゴとロイックは笑った。


とはいえアルスランの気持ちは決まっている。

「誘ってくれるのは嬉しいけど、俺は、エルナトのような未知の世界がいいんだ」

「そうか、分からんでもないけど」

エルナトへ行くよう命じたのはセイリオスでも、アルスランにとってエルナトは、兄の影響のない唯一の土地だった。


「ヒューゴ、お前がロセウスに残るということは、ポタムを絶ったんだな」

「ああ」

「離脱症状は大丈夫だったのか」

「お前のような手際の悪いことはしないよ」

アルスランは自分の騒動を思い出し苦笑いする。


そこへロランが息を切らせながらやってきた。

「間に合ったか!」

「どうしたんだ?」とアルスランとヒューゴは驚きながら言った。三人が集まるのは、ヒューゴの父親が事件を起こして以来だった。


「アルスランがエルナトへ向かうって聞いてね」

「ああ、モモを送り返した後だ」

「異次元航路の出口近くまで行くんだろ?大丈夫か?」

「オイラがいるから大丈夫だよ!」と、ちっちゃいモモが自信満々に言う。

すると三人とロイックは、顔を見合わせ声をあげて笑った。こんなに心から笑えるのは久しぶりのことだ。


「モモ、頼りにしてるぜ」とアルスランが言う。

「オイラは、首都の球体を破壊するために戻るんだよ」

「え?お前にそんな力があるのか?」

モモはそう聞かれると首をかしげた。それ以上は知らないようだった。


アルスランは、何かあるとは思っていたが詳しくは聞かされていなかった。

「首都の球体は、奪い返すか破壊するのかどっちかだとは思うけど、とにかく、セナ夫人にモモを戻すよう言われたんだ」

「セナ夫人が?」

「ああ、あの人は苦手なんだけどね」

「まあ、ゆうに百歳を超えてるのに見かけはあの若さだ。再生治療してても、あれはもう化け物だね」

「セナ公は二百歳越えてたって話だけどね」

「キトロンはそんな化け物たちに翻弄されてたってことか」

「球体もゾルファの球体って呼ばれるしね。ゾルファ・セナ公だ」

「でもモモの言う通りに首都の球体が破壊されるとすれば、俺たちは首都に戻れなくなるよね。ワープで四十年かかる距離だぜ」

「そうだな。お前たちは戻りたいか?」


アルスランの質問に、ロランとヒューゴはお互いを見る。キトロンの国土は、バルナを含めた連合国に占領されてしまった。

「別にいいよ。あそこには何も残ってない。攻撃で汚染されて荒廃した土地だけだ」

「そうだな」


アルスランは、白い歯を見せて言った。

「これでお前たちともお別れだ。それぞれにやれることをするだけさ」

ヒューゴとロランはお互いの手を握る。

「俺がエルナトへ着いた時、あの生意気なセフォラには生き残っていてもらいたいね」

すると二人の友はそれぞれに言った。

「では、セフォラのために」

「ああ、エルナトのセフォラだ」

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