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エルナトの女王  作者: Naoko
40/52

40. 星の夜

「セフォラがロセウスに戻った?」

ヒューゴとアルスランは呆れて言った。

ロランに、セフォラがアイメとベノワと共にアルバ・宇宙ステーションを去ったと知らせが入ったのだ。


「ああ、宇宙船発着所でキアラが産気づいたと知らされ、そのままロセウスへ向かったらしい」

「俺たちに何も言わずにか」

「忙しいやつだな」

「猪突猛進なんだよ」

「ロラン、お前もロセウスへ行った方がいいんじゃないのか」

「勝手にここを離れる訳にはいかないよ」

「お前の子供が生まれるんだろ。ロセウスはここから遠くないから今日中に戻ってこれるぞ」

「子供ってそんなに早く生まれるものなのか?」

「さあ。とにかくお前は、セフォラを見つけて保護する任務を負ってたんだから、彼女を捜しにロセウスへ行ったことにすればいいじゃないか」

「そうそう」

「いや、それは問題だ。もう彼女を見つけてしまったんだから」

「ロセウスへ向かったという確かな証拠はあるのか?」

「・・・」

「ないじゃないか。また誘拐されてたらどうするんだ」

「詰めが甘いんだよ」

「ちゃんと確認してこい」

「上には俺が報告しておく」


ということで、ロランはセフォラを追ってロセウスへ向かった。

普通なら問題なのだけれど、シムアトの裏切り騒ぎでアルバは混乱したままだ。こうしてロランはセフォラの無事を確認し、赤ん坊の誕生も見届け、ヒューゴの入れ知恵でデルフィーヌ女王にセフォラ誘拐事件の結末を報告し、その日の内にアルバへ戻れたので、ギリギリでお咎めなしということになった。



その夜、ロセウスの星空は美しかった。薬草の農園の端にあるキアラの家の窓から淡い灯りが外に漏れ、ティボとリルが踏み固めた畑に建てられた大きなテントからの灯りも加わり、赤子の誕生という騒動の後の、ゆったりした暖かい雰囲気が辺りに漂っていた。


セフォラがテントの中に入ると、ティボとリルの面倒を見ていたベノワが、寝静まった子供たちに毛布をかけていることろだった。

セフォラはベノワに薬草茶を入れる。カップを取った老齢のベノワの手のシワは深く、長い苦労の勲章のようにも見える。セフォラは、そんなベノワの手を握った。驚いたベノワは、手を引っ込めようとする。

「いいのよ、ベノワ。あなたとアイメが来てくれて助かったわ。私一人じゃ心細かったもの」

ベノワはセフォラの笑顔に、自分も顔をほころばせる。


「立派な男の子の誕生で良かったですな」

「ええ」

そしてベノワはカップを置き、両手でセフォラの手を優しく包み、しみじみと言った。

「本当に、柔らかい」

「こうして触れるのは初めてね。ここでは私は特別じゃない。普通の人よ。だからベノワも気にしなくていいのよ」

ベノワはニッコリして頷いた。灯りに誘われて来た羽虫が、ランプの中に閉じ込められたらしく、微かな音を立てるのが聞こえる。ベノワがランプの蓋を開け虫を逃すと、虫は天井に向かって飛んでいき、見えなくなった。


「ここは静かだ」

ベノワが言った。

「修道院の農園みたいでしょ。もっとも、ここは乾燥しているけど。それにあの子たちの世話も大変だったでしょう」

「大丈夫じゃよ。子供の扱いは慣れとる」

ベノワがそう言うと、セフォラは、彼が修道院に来る前に息子を失っているのを思い出した。彼はその息子について話すことはなかったけれど、修道院の患者の息子たちの面倒をよく見ていた。修道院は男子禁制だったので、母親の治療次第ですぐに近くの街や村に移され、男の子たちは来ては去っていくを繰り返していた。


院長の死は、ロセウスに向かう途中で話してもらった。その日、院長は、村々を回っている途中で攻撃されたのだという。死骸は粉々になったので、DNAでしか確認できなかったそうだ。それがかえって院長はどこかに生きているのではと諦めきれず、二人を辛くさせていた。


アイメが洗った手をエプロンで拭きながらテントに入ってきた。

「キアラも赤ん坊も良く寝てるわ。お乳の時間になったら私が世話するから、二人とも休んでいいですよ」

するとベノワがアイメに目配せする。

「ああ」とアイメが言って、自分が背負ってきた荷物の中から小さな玉虫色をした小箱を出してきた。

「まあ、綺麗」とセフォラは目を輝かせる。

「これは院長様から、自分に何かあったらあなたに渡すよう言われたものです」

「院長様が?」

小箱は、虹色の光を放っていた。それを手に取り見つめながら、セフォラは、蓋がどこにあるのだろうと思った。

「あなたに伝えたいことがあったそうです」

「私に?」


セフォラはテントの外に出ると、畑の端のティボたちが壊しかけたベンチに座った。その夜は星が美しく、テントから離れて暗くなればなるほど小箱の光は強くなっていく。すると箱は上の方から崩れ始め、粉のようなものが舞い上がる。やがて粉の光の中に人の影が現れ、次第にはっきりしていく。


「院長様!」


それは、セフォラがあれほど会いたがっていた院長だった。

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