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エルナトの女王  作者: Naoko
39/52

39. 強さ

セフォラは、ロイックが治療を終えるのを待っていた。ロイックに聞きたいことがあったからだ。

そこへヒューゴとロラン、そしてアルスランもやって来た。ロイックにはセフォラ誘拐の取り調べがあるので連行されることになっている。それはヒューゴも同じで、父親の反逆を知らなかったとはいえ、一族の長となった今、彼も審査対象になる。そしてロイックの治療は終わった。


「この騒動が終わったら、俺はバサンの頭首の役を叔父に譲るつもりだ」とヒューゴが言った。

「え?もったいない」とロランが驚く。

「そうだよ。頑張れよ」とアルスラン。

「何言ってんだよ、アルスラン。真っ先に降りたのは、お前じゃないか」

「そうだけど・・・」

「あんな騒動は懲り懲りだし、バサンとしてやっていく気もない。結局、あいつらは自分の保身しか考えてないんだ」

「そこを上手くやるのが頭首としての勤めだろ。若さを舐められるなよ」

「ライーニア将軍は、お前より若く頭首になって、ライーニア家そして軍を率いてきたんだ」

ロランがそう言うと、アルスランはむっとして口を噤んだ。ロランは自分のことを言ってないのだが、自分が弱いと聞こえてしまう。


「俺たち若い戦士は戦場で頑張ってるぜ。皆、ライーニア将軍に付いていくつもりだ。ゲルノアの小賢しい企みなんか蹴散らしてやる」

そのロランの勢いにセフォラは驚く。


シムアトの死から、セフォラはセイリオスを怖いと思うようになっていた。多くの傷を負った者たちを修道院で見てきたから慣れていたのに、あのような生々しい現場を見るのは初めてだった。それからすると、セナ邸での子供たちの騒ぎは可愛いくらいだ。


「ライーニア将軍って、そんなにすごいの?」

そう言ったセフォラに、皆は振り向く。

「もちろん」と即座に答えたのはロランだった。

ロイックも「今、上官たちは若い奴らに閉口しているが、それが空気抜けにはなってるな」と付け加える。

「いつまで抑えられるかだけど」

「ライーニア将軍は分かってるさ」

「お前は単純だからな」

「何を⁉︎」

「やめろ、ロランをからかうのは」とアルスランが口を挟んだ。


アルスランは、ロランのように単純に考えられれば良かったのにと思うことがある。自分の兄が有能なのは分かっている。その兄に素直に従えない自分が腹立たしく思う。兄に勝つことも、従うことも出来ないもどかしさにイライラしていた。


ヒューゴの決意は固かった。

「俺の父親は自分をあの時に賭け、そして敗れた。俺はそれでいいと思ってる。だが同じ道を行きたくないね。セナ公が言ったじゃないか。自分の思うように生きろって」

「じゃあ、何をやりたいんだ?」

「それはまだ分からないけど、その内考えるさ」

するとロイックが、

「君はいつもそう言うよね。本当は考えているくせに」と言う言い方がどことなく不自然で、皆は黙った。

「兄貴面するなよ」とヒューゴが不服そうに答える。

「何のことだ?」とロラン。

「こいつは俺の死んだ兄貴の遺伝子を持ってるんだ」

「ええっ⁉︎」と皆は驚いた。


キトロンでは奇形児が生まれる確率が高く、生まれても長く生きられないことが多い。それはセフォラのような子供たちも含まれていたが、再生治療を施しても寿命を延ばすことには失敗していた。一般には知られてなかったが、健康児の出生に問題があるのもキトロンの将来を脅かしていた理由の一つだった。


「じゃあ、ロイックの『バサン』ってお兄様のことだったの?」

「そう。ヒューゴの兄は、生まれた時から体が弱くて早くに亡くなったけど、僕は彼の遺伝子を補ったバイオロイドとして生まれたんだ」

セフォラは、もやもやしていた彼らの関係が、兄弟喧嘩のようなものと知り納得する。それはトゲがあるようなものではなかったので、彼女の心に引っかかっていたのだ。


「初めからそう言ってくれたら良かったのに」

「こいつは面倒くさい奴なんだよ」とヒューゴはふくれっ面をする。

「からかいがいがあるよ」とロイック。

「ロイックは、ヒューゴを守ろうとしてたのね。優しいお兄様じゃない」とセフォラが言うと、ヒューゴはますます意固地になる。

「弟思いの奴だったら、親父の企てを言うはずだろ」

「それは返って危険だ。シムアトには従わねばならなかったしね。とにかく、君が心配だったんだ」

「それが余計なお世話なんだよ」

「だけど、ロイックがセフォラをアルバに連れてきてくれたおかげで、お前はライーニア将軍に従うことにしたんだろ?でなければ、今頃、俺とお前は敵同士だ」とロラン。

「セフォラのおかげだね」とロイック。

「だけど」とアルスラン。「なぜセフォラなんだ?それにセフォラは、ヒューゴを助けるって、どうするつもりだったんだ?」

「それは」とセフォラは少し考える。あの時、いつもの自分の癖で飛び出しただけで、深く考えたわけではない。しかもシムアトの死骸を見て驚き、その後は何もできなかったから助けに行ったとは言い難い。


「えーと。そう、アルスラン。あなたも覚えてるでしょ。初めて会った時、私は反逆罪で処刑されるかもしれなかったのよ。ヒューゴも同じだと思ったの」

「あ、それは違う」とロイック。「シムアトが裏切ったのは、君の反逆罪とは別だ」

「え?どういうこと?」

「この国で裏切りは良くあることだよ」

「ええっ⁉︎」

「だから強いリーダーが必要なんだ」


するとヒューゴが思い出すように言った。

「セフォラの反逆罪は、単なるこじ付けだったし、それなのにアルスランが異常に反応したのも変だったよね。何か意味があったんじゃないのか?」

「ないよ!」とアルスランは反論する。

「兄貴の前でいいカッコしようとしたんだ」

とロランも言ったので、アルスランと喧嘩になる。


彼らの喧嘩にロイックは笑いながらセフォラに言った。

「それで、アイメとベノワには会ったの?」

「え?」

「なんだ、まだ会ってないのか」

「だって、それは私を騙すために」

「僕は嘘は言ってないよ。ああ、そうか、まだ着いてないんだ。こちらへ向かったと聞いたから、そろそろ着くはずだよ」

セフォラは、それを聞くや否や、慌てて宇宙船の発着所へ向かった。

「待ってー」とモモが追う。


走っていくセフォラを見ながら、ヒューゴがロイックに聞いた。

「まだ、なぜセフォラだったのか聞いてない」

ロイックは、ふーっと息を吐く。

「なんとなくだけど、彼女は君を助けてくれると思ったんだ。彼女には強さがある。損得を考えずに他人のために尽くそうとするし、裏切らない。あの笑顔に君は救われたんだろ。生まれ付きの性格もあるけど、そう育てられたんだね。君には、彼女のような人が必要だ」

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