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エルナトの女王  作者: Naoko
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31. 荒野進行

惑星・ウィルディスには三つの月がある。ハルアミナ家が治めるこの国の人々は、三つの月に分かれて住んでおり、首都は、最も大きい月のロセウスにあった。惑星に人は住んでいない。資源が取り尽くされた後に残されたのは荒野だけで、その過酷な環境は人が住むのに適さなかったのだ。

そこでキトロンの前王ラフリカヌスは、ハルアミナ家と親交を結び、この惑星の環境を変えるようセイリオスに命じた。テラフォーミングにより温室効果ガスを人為的に放出し、惑星の温度と湿度を上げ、植物を生えさせ、薬草を安定供給するためだった。

三つの月にも荒野はあったが、より早いスピードで緑化が進められている。そしてセフォラとヒューゴは、ロセウスの荒野へやってきた。


「ねえ、まだなの?」と歩き疲れたセフォラが言った。

「もう少しだよ」

ヒューゴは、前方の小高い岩山を指差した。

その岩山には洞穴があり、そこにアルスランが籠っているのだが、食べ物や飲み物を運んでいた者たちが彼を怖がり、寄り付かなくなっていたのだ。


「乗り物とかなかったの?こんなに歩かされるなんて思わなかったわ」

「君はアルバで楽な生活に慣れちゃったんじゃない?」

セフォラはふくれっ面をした。確かに宇宙ステーションでは全てが便利だったが、好きでそんな生活をしてた訳ではない。


「アルスランはポタム断ちをしてるんだ」

「あのまずい飲み物ね」

「きつい言い方だねー。とにかくポタムを断つのは簡単じゃない。だから人里離れたこんな所でやるのがいいと思うよ。それにこの国の人々はポタムを飲まないし」

「でも何であなたと私なの?しかも歩いて」

「アルスランの状況が分からないんだ。彼を刺激したくないしね」

「え?それって、あのキトロン暴力気質全開もありうるってこと?」

「そう」

「じゃあ、私たち二人だけじゃ危ないじゃない」

「う・・ん、そうかもしれないけど、この国の人たちにも頼めないよね」

「えーっ⁉︎」

「それに君は薬草の知識があるから、彼が弱っていたら役に立つだろう。今の彼は自然のものしか受け入れないそうだ」


セフォラはがっくりと肩を落とした。「アルスランに会いに行くので来てくれ」と頼まれたのだが、こんなことになってるとは思わなかった。それにロセウスがアルバから近い所にあることすら知らなかったのだ。


「今夜は野営するんでしょ」とモモが言った。アルバで退屈していたモモは嬉しくて、二人の周りを飛び跳ねている。

「野営?街には行かないの?」

驚くセフォラにヒューゴはにっこりする。

「そう、もしアルスランが暴れたら困るでしょ」

そして彼は、呆れているセフォラに手を差し出す。セフォラは一瞬、その手を握るのをためらった。


セフォラは、ヒューゴをよく分からない人だと思っていた。優秀そうで将来は指導的な立場に立ちそうなのに、アルスランやロランと悪ふざけすることが多かった。久しぶりに会い、立派になったと感心したのもつかの間、落ちこぼれたアルスランのためにこうして荒野を歩く彼を見ていると、とても軍人として名を上げたい様には思えない。父親と仲が悪いと聞いたこともあるが、それが原因だろうかと思ったりする。とはいえ、今はアルスランに会うことが先決だ。

「ありがとう」とセフォラは彼の手を握った。



洞穴の周りには、涼しく湿った空気が漂っていた。中に入ると肌寒いほどになり、かすかに水の流れる音が聞こえる。奥に水脈があるらしい。その音以外には何も聞こえなかったが、急に岩の壁が張り出した所に人の影が映った。


「誰だ」と声がこだました。

「アルスラン。ヒューゴだよ」

「何しに来た」

「お前の様子を見に来たんじゃないか」


二人は奥の方に目をやる。目が慣れてくると、奥にアルスランが立っているのが分かった。その姿は異様で、痩せこけているのに目だけが爛々としている。そして、ふっと消えた。いや、消えたのではなく倒れたのだ。

「アルスラン!」




ふとアルスランは、体が揺れているのに気づいた。辺りは明るく、真上から刺す恒星の光と焼けたような空気が冷たい体を温めている。そして自分がヒューゴに背負われているのだと知った。

「ヒューゴ」と小声で彼を呼ぶ。

ヒューゴは黙ったまま歩き続ける。

「ヒューゴ・・・ヒューゴ」とアルスランは呼び続けた。

「何だよ」とヒューゴ。

「降ろしてくれ」

「ダメだ」

「耐えられない。吐きそうだ」

「えーっ」

ヒューゴは慌ててアルスランを下ろすと、彼はうつむき吐こうとするのだけれど、出るのは胃液だけだ。

「大丈夫か?」

「お前、臭いんだよ」

「なんだって⁉︎」


体臭は誰にでもある。とはいえボロボロの服を着たアルスランの方が臭いに決まっている。ヒューゴは、憤りを覚えた。殴ってやりたいが、彼は瀕死の状態だし、何もないこんな所で状況をさらに悪化させる訳にはいかない。


「それって、ポタムの匂いじゃないかしら」とセフォラが言った。

「あー。そうかも」とモモ。

「俺は臭いと思ったことないぜ」とヒューゴは反論する。

「その匂いに慣れてるからよ。私も最初は何の匂いかと思ったのよ」

「オイラはロボットだから臭いは分からないけど、臭気分析はできるよ。あの洞穴の空気は綺麗だったから、アルスランの鼻が敏感なんじゃない」


ヒューゴはショックだった。自分は、ミリタリー・アカデミーの生徒たちの汗臭さが不愉快だと思っていた。「臭い」とはそういうことで、自分は臭くない。とはいえこの状況をどうにかしなければならない。こんな炎天下ではアルスランは干上がってしまう。そしてセフォラを見た。

「え?私?」とセフォラは自分を指差した。



「もーダメだわ!」とセフォラが根を上げ、アルスランの半肩を担いだまま地面に倒れた。

「なんだ五十メートルも行ってないぜ」と無常にも後ろのヒューゴが言う。

「正確には42メートルだよ」とモモ。

「あなた達って変よ!」とセフォラは怒鳴った。

「俺じゃダメだし、モモは無理だから、アルスランを担げるのは君しかいないだろう」

「野営するんでしょ。誰かを呼んでよ!」

するとアルスランが、息も絶え絶えに言う。

「俺をここに置いて行ってくれ」

そう言われるとセフォラは困ってしまう。辺りを見回しても野営のテントは見えないし、茶色い起伏のある荒野が続くだけだ。と思ったら、何かが砂煙りをあげて近づいてくる。

「助けだわ!」


その乗り物はすぐに近づき、ドアが開くとキトロンの若い将校が飛び出した。

「迎えに来たよ!」

セフォラとモモは飛び上がって喜ぶ。ところがヒューゴは嬉しそうではない。

「なんだ、あんたか」

「いくら俺がポーでも、上官に向かって失礼だろ」そう言った青年はヒューゴに似ていた。そしてセフォラに一礼し、すぐにアルスランを起こしながらにっこりする。

「初めまして、ロイック・ポー大尉です」

そうしてアルスランを乗せ、彼らは野営場へと向かった。

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