28. 星の見える部屋
セフォラが宇宙ステーション・アルバに着いて三日が過ぎた。ところが始めの日以来アンドロイド以外は誰にも会わず、セイリオスとベネッサがどこにいるのかさえ分からなかった。自分の部屋を出て良いのか迷ったのち外へ出てみる。外と言っても通路をうろうろするばかりで、ロボットすら見かけない。セナ邸でも始め人はいなかった。とはいえ大小のロボットたちは行き来していたし三人のカデッツも一緒だったから心細くなかった。凶暴なキトロン人に会いたくないが、誰もいないのも気味悪い。なんでこんな所に来てしまったのだろうと思う。
「まるでゴーストタウンだね」とモモが言った。
「これはもしかして、ベネッサ様が私を気遣って、キトロン人から隔離しているとか?」
「嫌がらせと考えた方が自然じゃない?」
そう思いたくないセフォラだが、嫌われているのは分かっている。
部屋へ戻り、アンドロイドたちに誰かいないのか聞くと、「近くにいない」と回答するだけだ。近くにいないということは、どこかにいるということなのだろうか、とも思ったりする。
するとアンドロイドの一体が、
「ベネッサ様は展望室におられます」と言った。
そうして案内された展望室は、星が良く見える広間だった。その広い展望室から見える星は圧巻で、息を呑むほど壮大だ。セフォラが宇宙空間からアルバを見た時は、宝石を散りばめた装飾品のような美しさに目がいき、周りの星には気づかなかった。ところがこの薄暗い展望室からは驚くほど無数の星々が見える。それは黒い床にも反射し、まるで自分が宙に浮き星に囲まれているように思える。
その展望室に小さく黒い影があり、それがベネッサだった。
薄いパール色のゆったりとしたガウンを着た彼女は、テーブルに両肘をついて果物を食べていた。テーブルの上には色鮮やかな果物が花のように積まれている。セフォラは彼女に近づき挨拶した。彼女は答えず、夢を見ているかのようにぼんやりしている。そして丸くみずみずしい果物にゆっくりとかぶりついている。果汁が溢れ出、いくつかの筋となって彼女の白い腕を流れ落ちた。
セフォラは、初めて会った時の彼女とは違う異様な雰囲気にぞくっとする。
「あの、他の方々はどこにいらっしゃるのですか」とセフォラは聞いてみた。
ベネッサは、ふっと我に返るとセフォラを見上げ顔をしかめる。
「お座り。私を上から見るのは許さないわ」
「す、すみません」とセフォラは慌てて座った。
ベネッサは果物を食べ終えると上を向き、ふーっと息を吐く。そして、
「自分が来ればいいのに、あなたを送り込むとはね」と言った。
セフォラには何のことだか分からなかった。送ったというのは、セナ夫人か、それとも院長なのだろうか。
ベネッサは、「まあ、いいわ。私がアルバを案内しましょう」と言って立ち上がる。
「あ、あのセイリオス様はどちらにいらっしゃるのですか」
するとベネッサはニヤリとした。
「今朝、アルバを出られたわ」
「今朝ですか?お忙しいのですね。お姿を見なかったですし」
するとベネッサは、今度は大声で笑った。セフォラは何か変なことを言ったのだろうかと思う。
「忙しい。確かに、私とベッドでね」
「え?」
「ゲルノアが王になって、ここに来れる回数は減ったけど、今回は三日もいてくれたし、あなたのおかげかしら、感謝しなくちゃね」
そして自分の顔をセフォラの顔に近づけ、挑発するかのように言った。
「あなたにキトロン人の激しい愛の営みが耐えられるかしら」
セフォラは顔を真っ赤にした。
ベネッサは更に笑い、それから出口へ向かいながら振り返りもせず
「いらっしゃい」と言った。
セフォラはベネッサを恐ろしいと思った。もともとキトロン人は好戦的な民族なのだけれど、この類いまれに美しい女性は自分を敵視しているとしか思えない。普通なら、自分など、彼女は気にしないはずだ。気にする理由は、自分をここへ送った誰かのせいなのだろうか。
その時、セフォラは院長がセイリオスに「私はエルナトの女王ではありません」と言ったのを思い出した。ベネッサは王族の一人だった。もしかしたら、彼女がエルナトの女王なのかもしれない。母親違いの妹とはいえ、院長とは違い過ぎる。キトロン人の女王に威圧的な気質が必要なのであれば、院長はそんなものになりたくないはずだ。この美しい女性は、人を圧する力がある。そして自分は、この人に服さなければならないのだろうか。
「早くしなさい!」
そう言われたセフォラは、慌てて彼女の後を追った。




