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エルナトの女王  作者: Naoko
22/52

22. 最後の宴

その夜、将軍と元騎士団長の宴が催された。急なものだったが、素晴らしい料理、人型ロボットたちの優れた歌舞など、セナ夫人が、密かにこの宴を準備していたのは明らかだった。


セフォラは、ケィザーに会うまで騎士団の存在を知らなかった。モモから、騎士団は、キトロン人ではなくバルナ人で構成されていると聞かされる。

この二つの人種は、遺伝子が近く体つきも似ていた。ところがバルナ人は、好戦的で派手なキトロン人とは違い、質素な生活を好み、体と精神を鍛えるのを習わしとする対照的な民族だった。バルナ人は、キトロンの戦争に中立の立場を取っている。元々騎士団は、国際社会の中でキトロン人の激しい気性を宥めるよう期待されており、戦争が始まると国家間の難しい舵取りを強いられ、そのゆえにケィザーが非公式にセナ公に会いに来たのだった。しかし今宵の宴ではそんな話はなかった。セナ夫人のもてなしは心のこもった和やかなもので、ケィザーはライーニア将軍をセイリオスと呼び、昔の話に花を咲かせる。セイリオスはケィザーから教えを受けた時期があった。キトロンとバルナは一線を画しているので、普通は師弟関係を結ぶことなどない。しかもケィザーの方がかなり年上なのに、二人は友として尊敬し合っていた。こうして二人が酒を交わしながら気がねなく過ごせるのも最後かもしれず、彼らはこの宴を楽しみ、話はレイネ・デュパールのことになった。


レイネは剣闘競技会に彗星のように現れ、あっと言う間に連勝していたケィザーを負かし、チャンピオンになってしまった。ところが彼は士官せず、翌年の競技にも現れず、姿を消したのだ。翌年ケィザーは「レイネが出場しないのでは」と自分も参加しなかった。当時その話は有名だったが、今はあまり覚えている人もいない。「レイネ・デュパールは、まぐれでチャンピオンになり弱気になって逃げたのだ」とも言われた。だがケィザーは、今でも彼の剣さばきを覚えている。

「あれは不思議な感覚だった」とケィザーは言った。


セフォラはこの話を聞きながら悶々としていた。自分が子供のころに聞かされたレイネは、母が幼いころから兄のように慕い、思春期には恋心を抱いた優しい人で、母とお腹の中にいる自分を追っ手から守り修道院へ送るために犠牲になったという。チャンピオンになるような剣の達人だったのであれば、なぜ母親はそれに一言も触れなかったのだろう。

こうしてセフォラは、いつになく静かだった。死んだと思っていた自分の父親が生きており、父親だと思っていた人が剣の達人だったかもしれないのだ。


ロランはといえば、目を輝かせながら彼らの話を聞いていた。このように気持ちが高揚するのは久しぶりのことだった。彼はミリタリー・アカデミーに入学することが決まった時、期待に胸を膨らませた。ところがそこは自分が思っていたような場所ではなかった。むしろ自分が農民出身だと思い知らされた。どんなに努力しても、生徒や教師たちから認められるわけではなく、疎まれるばかりだったのだ。


アルスランは、セフォラと同じように静かだった。彼はレイネ・デュパールについて聞いたことはあった。ロランの方が自分より剣の腕は優れているので、ケィザーとの手合わせもロランが選ばれるのは仕方ないと思っている。それより、なぜケィザーを負かすほどの人物が士官しなかったのか、なぜ姿を消したのか、その方が気になる。自分とは違い名声を得られた人なのに、全てを退けたその理由を知りたい。アルスランにとって、それは、強さのような気がしてならない。


ヒューゴは、今宵のロランとアルスランの温度差を憂慮していた。自分たち三人は、ミリタリー・アカデミーでは浮いた存在だった。とはいえ級友たちの間で最も軍人になるのにふさわしいのはロランだと思っている。農家の息子がアカデミーに入るくらいだから優秀なのだけれど、軍人の家からきた生徒たちに受け入れられるのは簡単ではない。アルスランはといえば、名高い将軍の弟で、兄を尊敬しているが従いたいと思っている風ではない。それは自分も似たようなもので、父親が名の知れた参謀だということに反発していた。こうして普通だったら孤立していた三人が、たまたま同じクラスということで気が合い、親しくなった。ところが、今、自分たちは違い始めている。



「セナ夫人」とケィザーが言った。「今、私がレイネと戦えば、勝てると思いますか」

セナ夫人は、興味深そうに目を大きく開けた。

「さあ、どうでしょう。元々レイネは戦うことを好まなかったので、生きているとしても、優劣をつけるための戦いを避けるでしょう」

「そうですか。ではやはり、彼は死んでいるのでしょうね」

「彼の最後を知っている者はいません。最後だとすれば、彼が大切にしていた人を守った時かもしれません。最も、その女性も、今は生きてませんけれど」

セフォラは「え?」と思い、「あ、あの」と口をはさむ。

セナ夫人はセフォラを見ると優しく微笑む。

「ええ、そうですよ。レイネが守ろうとした女性は、あなたのお母様、オリアーヌです」

突然、セフォラは目にいっぱいの涙を浮かべる。周りの者たちも、セフォラがレイネと関わりがあったことに驚く。


セナ夫人は、

「レイネは、自分の為でも、国家や主義の為でもなく、ただ、あなたとあなたのお母様を守るために、自分の命を全うしたのだと思います」と言った。

レイネとオリアーヌの話は、

「ムーン・レインボー」

http://ncode.syosetu.com/n3738cm/2/

でどうぞ。

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