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エルナトの女王  作者: Naoko
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21. 光の中の人

セフォラがセナ邸の奥、背が高く重厚なドアの前に着くと、そこには三人のカデッツがミリタリー・アカデミー制服姿で待っていた。ドアが開く。期待に反して中は薄暗い。部屋の中央に祭壇のようなものがあり、白く淡い光が灯っている。壇上には三人の人影があった。


「こちらへいらっしゃい」とセナ夫人の声。

壇上の人影は、セナ夫人、ケィザー、そしてライーニア将軍で、彼らはベッドのようなものを囲むように立っていた。セナ公の姿はない。光は強くないのだけれど、暗い部屋の中では眩しく感じる。セフォラは壇上に上がり、慣れてきた目で光の中を見て「あっ!」と声を上げた。モモがセフォラのスカートから飛び出し、彼女の背中をダダッと登る。壇上にあったのはベッドではなく、白く光る液体で満たされた囲いのあるプールで、人の顔が白く浮かんでいた。


「怖がらせてしまったようだな」と声がする。

セフォラの背中に張り付いていたモモが「クゥン」と鳴いた。白い顔は彫刻のようで動かない。そして上空の光が集まり、人の姿を形作ると、夫人が「ゾルファ・ギー・セナ公爵です」と言った。

セフォラは、夫人が宮殿の地下にある大きな球体を『ゾルファの球体』と呼んでいたのを思い出す。


「お初にお目にかかります」とセフォラは挨拶するものの『公爵はどこにおられるのだろう、プールの中の顔の人なのか、それとも光の中の姿なのか』そして『これは一体何なのだろう?』と困惑し、思わず

「公爵様は、生きてらっしゃるのでしょうか?」と聞いてしまった。


ケィザーが大声で笑い、セナ夫人は笑みを浮かべる。

「生きておられます。二百歳以上なので、このプールの中でなければお姿を留めることができないのです」

「二百歳以上!?そんなに人は長く生きられるのですか?」

「いいえ、残念ながら百二十年しか生きられないようです。公爵はこのプールの中で眠るように体の機能を停止し寿命を温存し『目覚めの時』にだけ、こうして私たちに会ってくださるのです」

セフォラは『そうなのか』と感心するが、同時に『では夫人は何歳なのだろう』と思った。どう見ても五十歳前後にしか見えない。そうであれば夫とは百五十歳以上の年の差があることになる。


その光の人・ゾルファは、セフォラとカデッツを眺めると言った。

「お前たちに会えるのを楽しみにしていた。ここにいる者全ては、キトロンの将来を左右する者たちだ」

ケィザーはすかさず「そうですな」と答える。それはおざなりな口調のようでもあり、「では、私はこれで失礼させてもらおう。ゾルファ様にとって時間は貴重だ」と言って去ろうとする。

すると光の中のゾルファが「ケィザー、ここでロランの剣の相手をしてくれないだろうか。もちろん、ロランが望むならだが」と言ってロランを見る。ロランは興奮した。

「お願いします!騎士団長だった方にお相手願えるとは光栄です!」

ケィザーはニヤリと笑い「ゾルファ様から乞われるのであれば、お見せしなければなりません」とそれを受けた。

将軍が「私が審判しよう」とケィザーとロランの間に立つと、向かい合う二人の手に競技用の剣が現れた。二人はそれを握る。


「ケィザー。ハンデが必要だ」と将軍。

「そうだな、これはどうだ?」ケィザーは剣の柄にある設定スイッチを操作し刃を鈍くする。

「ロラン、私はお前の体に触れない。死ぬことはないが油断して怪我をするなよ」

それを聞いた将軍が笑った。「レイネ・デュパールか」

セフォラはハッとする。レイネは母親から聞いて父親だと思っていた人の名だ。

その時ロランは、ケィザーからすると自分は比べられないほど劣っていると分かっていたが、面と向かって言われ憤りを感じる。キトロン人の血がロランを戦いへと駆り立て、士気が高揚していく。


「始め」将軍が合図した。


ケィザーの剣は流れるようにロランの体すれすれに攻めていく。ロランは躱すのに必死だ。ケィザーの剣さばきは舞のように鮮やかで、ロランは何度も自分が切られたように感じた。痛みはない。もちろん切られてないのだから痛みを感じるはずはないのだけれど、実際に切られたとしてもそのことすら気づかないだろう。その動きは「切られてみたい」と思わせるほど魅惑的で引き込まれていく。その誘惑と、それから脱しなければと、相反する両方の思いに翻弄され、ロランは精神力と体力を使い果たしガックリと膝を着いてしまった。


セナ夫人の拍手が部屋中に響く。

「ケィザー、見事です。今夜は宴の用意をしてあります。こんな素晴らしい剣さばきを見せていただいたのですから、私どもに、何のおもてなしもさせてもらえないなど無粋なことはなさいませんよね」

彼は苦笑いしながら、「これは私の方がやられてしまったな」と答える。

将軍が「夫人に勝つのは難しいですよ」と言うと二人は声を出して笑った。


たった数分の立ち会いだったのに、ロランは立てないほど疲労していた。ヒューゴとアルスランが彼の両脇を支えて立たせる。

光の中のゾルファは、その三人に「これからの君たちの道は険しいでしょう。自分たちの思うように生きなさい」と言った。


セナ公に会えた人はほとんどいない。人に会うのを好まない方だとか病気だとかの噂もあるが、王家からは一目置かれている。ヒューゴは、前々からセナ公に会いたいと思っていた。単なるカデットにその可能性は薄かったが、セフォラの護衛としてこの機会を得た。セナ公に取り入りたいなどと思っているのではない。若者たちの間、特にミリタリー・アカデミーでは『自国の存亡』について話題になることが多く、セナ公がこの危機についてどう考えているのか知りたいと思っていた。彼に発言権はないので実際に質問することはできないのだが、セナ公の言葉で「この国はいづれ滅びる」と思った。もちろん、そう解釈したのは彼だけで、アルスランとロランはそこまで思ってない。そしてヒューゴは「自分の思うように生きる」とはどういう意味なのだろうと思った。

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