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エルナトの女王  作者: Naoko
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20. ポタム

「先ず、中庭を片付けなさい」セナ夫人は、屋敷に戻ると言った。

そして中庭に戻ったセフォラとカデッツが見たのは、荒れ放題になった子供達の遊び場で、あちこちにバラバラになった子守ロボットたちの部品が散らばっている惨状だった。

「ワワン!」とモモが『ここにいなくて良かった−!』とでも言うように吠える。

ヒューゴはため息をつき、中庭のコントロールシステムパネルを出す。片付ける前に騒いでいる子供達を集めねばならない。セフォラはロボットの頭や腕などの部品を拾い始め、アルスランもそれに従った。


「何も言わないのね」とセフォラは黙っているアルスランに言った。

「何か言って欲しいのか?」彼は冷たく答える。彼女は返す言葉がない。何も言わないアルスランは、彼女をさらに落ち込ませる。護衛役のカデッツに子供達の世話を押し付け、計画なしにキアラとジョセを追って飛び出したのは自分だ。アルスランが何も言いたくないほどうんざりしているのは当然だった。


そこにロランが大声で「おやつの時間だよ!」と叫んだ。キャリーカートには、おやつとポタム、それにゲームなどのおもちゃが山積みで、散らばっていた子供達が我先にと集まってくる。「その手があったか」とヒューゴは苦笑いした。子供達は獲物にたかる野獣のようでセフォラにすら噛みつこうとするので、カデッツが中に入りやっと騒ぎは収まった。


ロランが、

「セフォラはポタムを飲まないの?」と聞いた。

「ええ・・・この味は苦手なの」

すると3人のカデッツは一斉にセフォラを見る。

「ポタムを飲まない?」

「え?ええ」彼らの様子にセフォラは戸惑う。

「修道院でも飲まなかったのか?」

「修道院にはポタムはなかったわ。薬草茶は飲んでたけど」

3人は顔を合わせた。

「つまり、彼女はポタムを飲まない」

「飲まないのか」

「薬草茶?」

その様子にセフォラはますます不安になる。

「何か変なの?私はポタムを飲んだ方がいいの?」

するとアルスランが答えた。

「いや、そういうことじゃないが・・・ライーニア将軍も飲まないし」

「ライーニア将軍?」セフォラは驚く。院長も飲んでいなかったと思った。何か関係があるのかもしれないが、ポタムが何なのかすら分からないのだ。


その時、召使いロボットが迎えにやって来た。

「セフォラ様、お召替えの時間です」

カデッツが何も言わないので、セフォラは黙って自分の部屋へ戻った。



「ポタムは、この国のキトロン人が好む飲料なんだ」とモモ。

「知ってるわよ。でも飲まない人もいるんでしょう?」

セフォラは風呂桶で湯に浸かり召使いに髪をゴシゴシと洗われながら言った。

モモは「そうだけど、ライーニア将軍が飲まないなんて初めて知ったね」と、飛んでくる泡をフッフッと吹き戻す。

「修道院では誰も飲んでなかったわよ」

「薬草茶を飲んでたじゃない」

「ポタムの薬草茶?」

「いや、ポタムは飲み物の名前」

「じゃあ、どの薬草?」

「名前はないけど、12桁の番号は付いてたよ」

「えー?どれだったかしら」

「スパイスってあだ名があったでしょ」

「あれが?香辛料の何かと思ってたわ」

「セフォラの勉強不足さ」

彼女はプーっとふくれると風呂から上がり、召使いの手伝いで着替え始め髪も整えてもらう。


「じゃあポタムは薬草から作られたのね」とセフォラ。

「いや、ポタムは化学合成されたものだから違うよ」

「薬草があるのに?」

「あれはラーウスという惑星で発見されたポタムの効能と同じ成分の薬草を修道院で栽培したんだ」

「ラーウス?聞いたことないわ」

「辺境の小さな惑星さ。今はウィリディスという惑星で大規模な栽培をする計画が進められているらしい」

「あの薬草には精神安定の効能があったわよね」

「そう、ポタムはその成分を何百倍も凝縮した物で、毎日飲まずにいられないよう作られている」

「え?じゃあ、ポタム中毒ってこと?」

「聞こえは悪いけど、まあ、そんなところさ」

セフォラはこの国の民の暴力的な気質を思うと、中毒とはいえポタムは必要なのかもしれないと思ったりする。


「今の戦争も、始め敵はポタム生産工場や出荷する商業施設なんかを攻撃してたけど、ポタム切れのキトロン兵士が凶暴化したので、今はポタムの輸送船すら攻撃しないんだ」

「ポタムを飲まない私も凶暴化してるのかしら」

モモは真剣に悩むセフォラをじっと見る。

「始めから凶暴だったんじゃない?」

「もうっ!」とモモの冗談にふくれっ面をする。

モモはギザギザの歯を見せてニッと笑った。


「セフォラは初期化されたキトロン人だからポタムを飲まなくてもいいんだ」

「初期化って?」

「初期のキトロン人の遺伝子を持ってるってことさ。元々キトロン人は、体格・能力・美しさにおいて優れた人種を作るために遺伝子操作された国民なんだ。ところが進めば進むほど、優秀さに反比例して性格が暴力化してしまった。そうこうしている内に遺伝子操作は禁じられ、代わりにポタムが作られたってわけさ。たまに遺伝子操作前の子供たちが生まれるけど、ポタムを飲まなくてもいいみたいだね」

「ふうん」とセフォラは言いながら『じゃあ私は優秀ではないし美しくもないのか』と思ったりする。

「私はその子供達の一人というわけね」

「そうなんだけど・・・君はちょっと違うんだ」

「違うって?」

「君は意図的に初期化されたんだ。君の祖父が国禁を犯してね。だから反逆者として処刑され、君の母親と胎児の君も処刑されるはずだったのを院長が匿って特赦を願い出てくれたんだ」

「モモ、なんでそんな大事なことを今まで黙ってたの?教えてくれたらよかったのに!」

モモは目をパチクリして答える。

「だって、君は聞かなかったじゃないか。おいらには聞かれてもないことを答える機能はないよ」

「余計なことはいっぱい言うくせに!」と彼女はまたふくれた。



準備の整ったセフォラは、鏡の前に立った。今回のドレスは彼女の体型にあった上品なものだ。髪型もふんわり柔らかで髪留めも質素だが美しく、化粧も自然で頬べにがほのかに明るくかわいい。彼女は鏡に自分の前と後ろ姿を交互に映してみる。

「ちょっとは美しくなったかしら」とモモがセフォラの声色で言った。

「モモ!私の思ってることは分からないはずでしょ!」

「見え見えだよ」とモモ。

「もう!」


その時、ドアをノックする音がした。召使いがドアを開けると、セナ夫人の執事の老人が立っていた。

「公爵がお待ちかねです」

セフォラは思わず背筋を正す。これからセナ公に会うのだ。

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