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エルナトの女王  作者: Naoko
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19. ケィザー

するすると、セフォラは行き交う人々の間を縫うように走った。彼らにぶつかって捕まらないようにだ。そうしてやっとガスの店に着いたものの、彼は留守だった。戴冠式での恐怖が蘇る。後先考えずに飛び出したはいいが、彼が留守かもしれないなどと思いもしなかったのだ。

「モモ、アドマ商会の場所は分かるわね」セフォラは自分を奮い立たせ、キアラが向かった方へ行ってみることにする。モモは「合点承知」とでもいうようにセフォラを見ると、顔を空に向けレーダーのようにくるくると頭を左右に回しそして走り出す。彼女はモモの後を追った。


アドマ商会は暗く寂れた市のはずれにあった。セフォラは物陰に隠れる。すると、誰かが建物と建物の間の路地の角からアドマ商会の入り口を伺っているのに気づく。キアラだ。セフォラはほっとして彼女に近づいた。

「あんた、なんでこんなとこにいるの?」セフォラに気づいたキアラは、彼女を路地の奥へと押しやった。

「ティボとリルが教えてくれたの。あなたとジョセが戻らないって」

「呆れた。それでここまでやってきたの?馬鹿じゃない!」

セフォラはこのキアラのきつい口調を無視する。

「どうなの?ジョセは見つかった?」

「まだよ。でも中にいることは確かね。どうやらここは少年たちを集めて人買いに売る商売をしているみたい」

「人買い?」

「だからジョセに気をつけるよう言ったのに」

「これからどうするの?」

キアラはそれには答えず表側の角へ行き、アドマ商会の入り口を見る。どうやらキアラも何の計画もないらしい。突然、セフォラは背後から気配を感じた。二人は振り向く。そこには柄の悪そうな男たちがいた。


「お嬢ちゃんたち、こんなところで何してるのさ」

キアラはとっさにセフォラを自分の後ろに隠す。

「あんたたち、アドマ商会の輩だね」

「ほう、俺たちのことを知ってるらしいな。じゃあ話が早いや。おい、こいつらをあの子たちの部屋へつっこんどけ!」

男たちは二人に迫る。キアラは、

「触るな!」と叫んだ。

「へっへ、いい娘じゃないか。お前らは後ろのチビを捕まえろ!」

セフォラは「チビ?」と思ったが今は憤慨している時ではない。その時

「ぎゃっ!」「なんだこいつ!?」と男たちが騒いだ。

モモが一人の男の足を噛んだのだ。その隙にキアラはセフォラの腕を掴んで逃げる。男たちは二人を追いかけた。また男たちの悲鳴が聞こえる。二人が振り向くと、男たちは倒れており、そこに別の男が立っていた。彼はフード付きのマントを着ていて手には棍棒があり、それで男たちを殴り倒したようだった。


「セフォラ!」「キアラ!」別方向から声がした。彼女らが振り返ると3人のカデッツが走ってくるところで、その後ろには警備隊と思われる集団がおり、あっという間にアドマ商会へなだれ込むと囚われていた少年たちを助け出した。助け出された少年達の中にジョセもいた。


「姉ちゃん!」ジョセは怖い目に遭ったらしく涙目でキアラに走り寄る。キアラはジョセを一発殴ると彼を抱いた。

「良かった。無事で。あんたを失うかと思ったよ」


二人の様子を見ていた男が「奴らに騙されたんだな。自分の浅はかな行動を思い知れ」と言った。「お前は運が良かっただけだ。ほとんどの子たちは助け出されることなく売り飛ばされるんだ」

彼は年を取っているが大男のガスのようにがっしりとした体格で、顔は精悍、日焼けしていて傷があちこちにあり、様々な困難をくぐり抜けてきた勇姿の威風がある。


「ケィザー!バルナの元騎士団長!」と彼を呼ぶ者がいる。

「セナ夫人!」セフォラが叫んだ。そこにはセナ夫人が立っていた。ケィザーと呼ばれたその男はセナ夫人の前に跪き頭を垂れる。


「こんなところであなたに会うとはね」

「お久しぶりです。少年達を売り買いする輩を追っていたらこの娘たちを見かけたのです」

「ありがとう、助けてくれて。最近ここも物騒になってきてどうしようかと思っていたところよ。とにかく都合がいいわ。セナ公の目覚めの時よ。あなたは会うつもりで来たのでしょう。セイリオスも来るわ」そしてセフォラやカデッツたちを見渡して言った。

「あなた達もいらっしゃい。セナ公はあなた達にも会うのを楽しみにしておられる」


セフォラは今までセナ公に面会したことが無かった。戴冠式でも見ていない。彼女は「目覚めの時」が何のことだろうと思ったが、ケィザーも3人のカデッツもその意味を知っているらしい。しかもライーニア将軍が来るのであれば特別なのに違いない。


「セナ夫人」そう言ってキアラが近づく。「あなたがセナ夫人とは知りませんでした。先日のご無礼をお赦しください。そして弟を助けてくださりありがとうございました」

セナ夫人はキアラを見て、それからニコッと笑った。

「明日、私の所へ来なさい。どうせ洗濯屋はクビでしょう。あなたにやってもらいたい仕事があるの」

「はい!」とキアラの目は輝き嬉しそうに答えた。


彼女のような娘が仕事を探すのは楽ではない。失業者は多く低賃金でも働きたい者はあふれるほどいる。しかも彼女は昨夜からここで見張っていたので無断で仕事を休んでいる。もう戻っても彼女の働き場所はない。別の者が代わりに雇われているはずなのだ。

キアラは少しはにかみながらセフォラに言った。

「あんたも、助けてくれてありがとう」


セフォラは思わず彼女の手を握る。「良かったわ。ジョセが無事で」

キアラはその手を振り払いそっぽを向く。「あんた、死にたくないなら、もうこんな無茶はしないことね」


セフォラは、あの男たちが襲ってきた時、キアラが自分の盾となり守ってくれたことに気づいていた。

「キアラ、わたしこそ、ありがとう」

セフォラは、キアラと気持ちがいくらか通じあえたような気がした。

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