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エルナトの女王  作者: Naoko
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18. セフォラの悩み

セナ邸の中庭で遊ぶ子供達の声が、少し開いた窓から聞こえてくる。セフォラはベッドで寝返りをうち、その窓を背にした。目の前にモモの顔があった。

「な、なによ!びっくりするじゃない!」

驚いたセフォラに、モモは不服そうな目をしてくるっと後ろを向く。そこにはトレーに乗せられた朝食があった。

「お腹なんか空いてないわよ」と言ったセフォラだが、グーっとお腹が鳴った。

「いい加減に起きて朝食でもとったら。どうせ仮病でしょ」とモモ。

こんな時のモモは憎たらしいとセフォラは思う。とはいえモモがいてくれて心強い。


セフォラは、自分の父親が生きていることにショックを受けていた。会ったことはないし誰も実の父親について話してくれなかった。母親が死んだのは自分が幼い時だった。母親は体が弱く、自分を育ててくれたのは院長やアイメ、そして修道女たちだった。それに修道院は男子禁制なので、アイメの夫のベノア以外、患者たちの幼い息子たちだけだった。

自分の父親は、母とお腹の中の自分を救うために命を落としたと思っていた。自分が幼い時に母親が話してくれたのだけれど、今となってはそれも定かでない。しかも母親が修道院へ来る前の話だから彼のことは修道女たちも知らない。覚えているのは、母親がおとぎ話のように話してくれた楽しい思い出だけだった。名前はレイネ。自分は勝手にその人を父親と思っていたのだろうか。いや幼い頃、自分は父親のことを口にしているはずだ。それでも誰もこの思い込みを否定しなかった。とはいえ修道女たち、いや院長様でさえ知らなかったとも言える。などと止め処もなく考えていると夜は更け、いつ寝たのか覚えていない。


セフォラは朝食を取り、こざっぱりした服に着替えると鏡で自分の顔を見た。目の下にクマがある。こんな顔を人に見られたくない。特にあのアルスランには。

そう思った時、誰かがドアをノックした。


「誰ですか?」セフォラが聞くと、そのノックの主は何も言わない。

「誰?」彼女は再び言った。すると、

「アルスランです」と答える。


彼女はたった今彼には会いたくないと思ったばかりだ。なんでこんな時にやってくるのか!


アルスランは自分が彼女に対して取った行動を恥じていた。その態度はあまりにも子供じみていたし、彼女に父親のことを話すとか、自分の兄とはいえ親子ほど年の離れている男性の妻になると聞かされたら具合が悪くなってもおかしくはないと思う。


「何か用ですか?」セフォラの声の調子は冷たく硬い。

アルスランはまた黙った。彼女のことが気になり警護のためと言って来てみたのだけれど、ドアは閉まったままだし彼女の声からして自分のことをよく思ってないのはあきらかだ。考えてみれば自分の方が先に彼女に良くない態度を取っていたのだから今更謝ろうにもどうしていいのか分からない。


セフォラは何も答えないアルスランにイライラする。そして、

「すぐに中庭に行くと皆に伝えてください」と言って彼を追い払おうとする。

「分かりました」と彼は言うと去っていった。

彼女はドアに耳を付けて彼が去る足音を聞き、少しドアを開けて誰もいないのを確かめるとため息をついた。


やっと部屋を出たセフォラだったけれど、すぐに中庭へ行く気になれなかった。遠回りする彼女にモモは言った。

「自分が始めた子供達の世話でしょう。そんなんでいいの?」

セフォラはモモをにらんだ。

確かにボランティアとはいえ自分が始めたことを勝手な都合で休むのは良くない。熱があって立てないとかだったら仕方がないが、こんなことぐらいで仕事を放り出したりしたら修道院では怒られるに決まってる。ああ、なんて自分は未熟なのだろうとがっかりする。こんなことでは院長様に顔を合わせられないなどと思いながら、ついに市場の裏門のあたりまで来た。そして門に2人の子供達がいるのに気がつく。ティボとリルだ。


「どうしたの!?」とセフォラが門を開けると二人は涙目でセフォラのスカートにすがりついた。

「ジョセとキアラ姉ちゃんが戻ってこないんだ!」

「どうしたの?何があったの?」

「昨日ジョセが少年兵になるってアドマ商会へ行ったんだ。それをキアラ姉ちゃんが知ってジョセを連れ戻すって言ったまま戻ってこないんだ」

「なんですって!?」


セフォラはアドマ商会について聞いたことがあった。最近、少年兵になりたがる男の子たちを集めている評判の良くない団体だった。そういえば昨日、ジョセは弟と妹を連れてきた後どこかへ行ってしまった。キアラから預かっていたのにどうして気づかなかったのだろう。セナ夫人もまだ戻ってない。どうしたら・・・

「ガスに聞いてみる。二人は中庭に行ってカデッツのお兄ちゃんたちに伝えて!」

セフォラは二人を中に入れると門を閉め、モモと市場の人混みの中に紛れていった。

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