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エルナトの女王  作者: Naoko
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14. 狩る側と狩られる側

セフォラは読んでいた本を閉じた。そしてふーっと息を吐く。

「どうしたの?」と猫のように丸くなっていたモモが顔を上げて言う。

セナ公爵の屋敷に来て3日目、彼女は自分のために緊急に作られた中庭の東屋にいた。


戴冠式の儀式はセフォラには何がどうなっているのか分からないまま行われ、その後ライーニア将軍とセナ公爵夫人を囲む紳士淑女たちのおべっかやなどをだらだらと聞かされただけで終わった。そうしてセナ夫人が「息がつまる」と言っていた王宮を出て公爵邸へやって来たのだけれど、ここもすることがない。院長やアイメたちに会いたくて心細くもある。


セフォラは、淑女になる訓練のためにこの公爵邸へ送られたのだと思っていた。ライーニア将軍の保護を受け、将軍にふさわしい淑女になるため努力し、いつか院長やアイメに会った時、成長した自分を見てもらいたい、とも考えたりした。


ところが、セナ夫人は用事があると言ってどこかへ消えてしまい、勉強のために取り寄せられた本も修道院での読みかけの薬草や農業の本だけだ。暇つぶしと言えば語弊はあるが、中庭の隅に自分の畑を作ることにもなっている。どうも自分は淑女になるよう期待されてないらしい。しかも中庭の端々に、アルスランと共に自分の警護のため割り当てられたミリタリーアカデミーの生徒たちがいた。彼らも暇そうだ。この公爵邸は屋敷というより大きな工場か発電所のようで人の気配はなく、行き交うのはロボットたちだけで召使いも人型ロボットだ。つまり、彼女を襲うような怪しい輩などいない。「この少年たちの方が危ないかもしれない」とアルスランとのこともあるので悪い方へ考えたりする。初め、素敵な中庭にわくわくしたのに、3日も経つと話す相手がモモだけなのでつまらなくなっている。この庭を一緒に楽しんでくれる者など誰もいない。モモも飽きてしまったのか今は昼寝ばかりしている。


「畑の準備ができました」と召使いロボットが言った。やっとすることができたと思った彼女は、召使いたちの助けを断り一人で畑仕事を始める。そこへ「手伝うよ」と言ったのは、ロランだった。

セフォラは断ろうかと思ったけれど、彼も暇そうなのでお願いすることにした。とはいえ緊張する。この優しそうなロランも豹変しないという確証はない。ところが彼は畑仕事が上手く手際よく働いた。

「うちは農家だったんだ」と彼は言った。彼の家は大家族で兄弟姉妹も多いのだと言う。

「いい人みたい」とセフォラは思った。修道女志望だった彼女は、同じ年頃の異性に接するのは初めてで警戒していたのだけれど親しみやすく感じる。


「あっ」とセフォラはよろめき、持っていた苗の箱を落とそうとした。するとロランが後ろから彼女を支え、彼の両腕が彼女を包むように伸びて苗の箱を掴む。驚いて彼を振り返る。

彼はにっこりすると、「結構重いね」と言って箱を耕された土の上に置いた。

その優しい笑顔に、セフォラは顔を赤らめドキドキするのを気づかれないよう「ありがとう」と言って下を向き苗の様子を見る振りをする。その後、二人は黙って苗を植え、作業はあっという間に終わってしまった。


「お茶でもいかがですか?」とセフォラは彼に言ってすぐに「しまった」と思った。二人でお茶すれば会話しなければならない。するとロランは、

「いえ、任務中なので遠慮します。またの機会にお願いします」と言って去っていった。


セフォラは、ほっとしたものの、ちょっぴり残念な気もする。「何を考えてるのよ!」と思い直すが、どうしていいのか分からない。こんなことをモモに言ってもしかたがないので、せめてセナ夫人でも戻ってくればいいのにと思う。


モモは、ちらっとセフォラを見てまた寝てしまった。いや、ロボットだから寝てるというのはおかしい。モモは二人だけの時は話せても警護の少年たちがいるのであまり喋らない。それからかってに休止状態に入り機能を停止する。セフォラは「もうっ!」と思うのだけれど仕方がない。

このように、美しい中庭で誰もが暇をもて余していた。



そんなセフォラとは逆に、3人の少年たちは暇つぶしを見つけたようだった。

「遺伝子の初期化の影響だと思う」と言うロランにアルスランが無愛想に答えた。

「何だよそれ」

アルスランはセフォラと距離を置きたいと思っているのに、ロランが彼女に近づいたのでイライラしていた。

「あの娘の体だよ。小柄だし柔らかい」

ロランは、アルスランが言っていた「体が変だ」を確かめに行ったのだ。

「俺たちのように遺伝子操作される前の遺伝子を持ってるってことか」とヒューゴも言う。


ロランは、

「アルスラン、お前は見たことがないかもしれないが、農村ではたまにあんな子が生まれたりするんだ」と続ける。

「都市では生まれないのか?」

「いや」とヒューゴ。「都市で生まれると直ちに病院か施設に隔離されてる」

「農村で生まれた子は家族の元で育てられるんだけど、俺はあんなに大きく育った子を見るのは初めてだよ。大抵は幼い内に弱って死んでしまうんだ」

「じゃあ都市では、治療のために隔離されるんだな」

「それもある。元々は兵器開発のためだったらしいけどね」

「兵器!?」とアルスランとロランが共に声を上げるとヒューゴは人差し指を唇に当てて「シッ」と言う。


「俺たちの祖先は、より良い人種を作ろうとして遺伝子操作をやったのは知ってるだろう。そうして俺たちは明晰な頭脳や体力を得た。だが今は禁止されている。遺伝子に弊害が起こったんだ。遺伝子が『狩り』への異常な欲求を生み出してしまい、侵略国として他の国々の反感を買い、収束を図ろうとする努力も払われた。前王のラフリカヌスの時代は『最も平和な時期』と言われていたけれど、『狩りに行けない』という国民の不満もくすぶっていた。そして今、新王は、戦争を支持する者たちの中心で勢力を拡大している」


「実は」とロランは声を落としセフォラに聞かれないように「あの子らが早死にする理由はその『狩り』にあるんだ」と言った。

「襲われたんだな」とヒューゴが言うと、ロランはうなづく。


「あの子たちは狩られる。それが成長できないもう一つの理由だ。セフォラの体はまるで子猫のように柔らかい。いや子鹿と言ったと言った方がいいかもしれないな。自然界で生まれた子鹿は3割しか最初の7日間を生き残れない。狩られるんだ。生まれた子鹿がすべて生き残ってしまったら植物が食べ尽くされ生態系が崩れるからね。自然の摂理なんだけど捕食動物は生態系の法則に従っているだけだ。だからこれは人為的な遺伝子操作の弊害で、弱いものを見ると獲物を狩りたいという衝動を増幅させてしまうんだ」


「だがそれには疑問があるぜ」とヒューゴは言う。

「アルスランの異常な行動は分かるとして、ロラン、お前はなぜあの子に触れた後も冷静だったんだ?」


「それはアルファが守っているからよ」

突然のセナ夫人の声に3人は驚いて振り向いた。彼らは話に熱中するあまりセナ夫人が戻ってきたのを気づかなかったのだ。


「ライーニア将軍が守っているの。私たちの遺伝子にはアルファに従うという性質もあるのよ。衝動が抑えられてるから、あなたたちに彼女の警護を任せたんでしょう。それなのに私が近づいたのさえ気づかないないなんて情けないわね」

3人は返す言葉もないので黙っている。セナ夫人は彼らを見渡して言った。

「まあ、いいでしょう。みんな暇そうだし。明日は外出しましょう。市場なんていいんじゃないかしら」


その時、モモはピンと起き上がった。セフォラもセナ夫人が戻ってきたのに気づく。

「面白いことがありそうだよ」

とモモが言った。

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