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エルナトの女王  作者: Naoko
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1.カデッツ・士官候補生たち

アルスランは入国審査の小部屋へ入った。後方のドアが閉まると赤いランプが点灯し、アルスランは審査のための床の輪の中心に立つ。青い光の輪が天井から降りてきて床へと消えた。

「確認終了」

声と共にランプが青に変わった。

「アルスラン・ライーニアの帰国を許可します」


前方のドアが開き、突然、まぶしい光と騒がしい音が飛び込んできた。アルスランは現実の世界へ引き戻されたようで、自分の国なのに違和感を感じる。到着ロビーは、入国監査を終え、三日後の新王の戴冠式に高揚している人々で溢れていた。


突然、横の男が彼にぶつかった。

「おい、おまえ、何もたもたしてんだよ!」

男はこぶしを振りかざしたものの、誰かの足につまずき、別の男を殴ってしまった。彼らは喧嘩をはじめ乱闘騒ぎは広まっていく。腕を引っ張られたアルスランは、喧嘩で盛り上がる輩の間を縫うようにして外へ出た。


「ヒューゴ! ロラン! なんでこんな所にいるんだ?」

アルスランを助けた二人は笑う。

「お前を迎えに来たんだよ」

彼らはミリタリー・アカデミーの級友たちで、アルスランを無人タクシーに押し込むと自分達も乗り込み、すぐに空港を離れた。それは鮮やかとも言えるほどの素早い動きだった。


「久しぶりの喧嘩だったのに、よくも楽しみを奪ってくれたな」

アルスランは一息つくと、不服を装いつつも笑みを浮かべながら言った。


「よく言うよ、喧嘩嫌いのくせに」

「お前が豚箱に突っ込まれたら困るんだ」

「どうせ監視カメラで身元はバレるさ。明日の朝には捕まるぜ」

「それはない。明朝、俺たちは、お前の兄上のライーニア将軍の供で首都にはいないからな」

「そうそう、俺らには任務があるんだ」

「任務? お前らに任務があるのは分かるが、俺は休学中だぜ」

「聞いてないのか? 必要な単位を取ったカデッツは実戦に加わって卒業する。俺たちはライーニア将軍の管轄に入ったんだ」

「お前の休学も終わりってことさ。休学と言っても警護をやらされてたんだろ」


アルスランは不機嫌そうに答える。

「混乱が収まった小国の警護だよ」


この国の人間は争い好きだ。自分も周りに合わせて士官学校に入ってみたものの、性に合わないように感じていた。ライーニア将軍の弟と言われるのも負担で、優等生だがちょっとひねくれたヒューゴと格闘好きで真っ直ぐな性格のロランとは気が合い、彼らのおかげで学校を続けられていたが、休学も帰国も命令されただけで説明が無く、兄の管轄下に入るのですら特別扱いされているようで腑に落ちない。

二人はふっと笑った。アルスランのこの反応は、いつものことだ。


「今は戦争中だ。猫の手も借りたいほど忙しいんだぜ。お前がどう思うかなんて軍は知ったこっちゃない」

「大体、開戦直後に休学って何だよ」

「とにかく早朝、俺たちはライーニア将軍の供で出かける」


「どこへ行くんだ?」


「サクマティ修道院だ」

「え? あそこの修道院長は」

「ああ、前王・ラフリカヌスの妹君、レディ・エレイーズだ」

「前王の後継者としては一番候補だったのに、姿を表そうとしなかったね」

「新王の戴冠式に出席でもされるのか?」

「いや、全く違う用事だ」

「そこに俺らと同じ年頃の犯罪者の娘が匿われているらしい。将軍はその娘の審判に行くんだ」


アルスランは奇妙だと思った。

レディ・レイーズは、敵味方に限らず国や民族を超えて貧しい人々を助ける活動家として国の内外で尊敬されている。政治に関与しないのは分かるし、込み入った事情の者たちを匿うのもありえる。とはいえ今まで鳴りを潜めていた前王の妹君だ。新王の戴冠式を三日後に控え、行政委員ならまだしも、将軍をそんな小娘の審判に送る必要があるのだろうか。


「犯罪者の娘って、何の罪だ?」


「反逆罪。一族郎党、使用人に至るまで処刑される重罪だ」

「その場での処刑もありえるんだとさ」

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