欠けたシンメトリー
お題でヤンデレ幼馴染みと友人に言われたので。自信が持てません、ヤンデレへの理解度が足りないのでしょう。
いとも容易く、人は死ぬ。生きとし生けるものから、肉の塊へと。
それはそれでしょうがないことだ。子供じゃあ無いしいつまでも駄々を捏ねてもしかたがない。
それは「現象」であり、同時に見えない刃でもある。
毎日ニュースでやっているじゃあないか。どこかで人が死にまたどこかで別の誰かが殺される。
身の回りで起きたからって、そう泣いたり喚いたりする権利は僕には無いはずだ。
例え、幼馴染みの死だろうと。
彼女――波川魅花の死因は不明だ。事件とも事故とも区別しがたいし、かといって自殺でもない。
しかし、何故こんな嫌なこと思い出すのだろう。
あれから二年経っているのに。
ストレスでも溜まっているのかもしれない、そのうち何か手を打とう。
「いーくんしゃばばばどばあああ!」
「!?」
視界がピンク一色で埋め尽くされる。ここは自分の寝室のハズだ、何故人がいる。
思い当たる節はタダ一人。部屋の合い鍵を親から正式(俺からすれば勝手)に持っている、
波川璃花だ。
死んだ魅花の双子の妹である璃花は、底抜けに明るい。
――双子の姉が死んだ翌朝には笑顔なのだから、底抜けとしか言いようがないだろう。
今の状況を忘れていた。目の前のピンクが意味することを理解し寝ていた頭が急速に回り始める。
連山を頭からどける。高校生にもなってキャッキャ言いながら俺の上をばたつく璃花はどうも怒るに怒れない。
なので、
「なぁ、璃花。死んだ魅花は何処に逝ったんだろうな。」
先ほどまでのとりとめのない思考の出力だ。
悪気はなかったが動きが止まった璃花を見てこれは悪かったなと思った。
口が動く気配がした。
「――ッ!!」
最初、僕には何が起きているのか分からなかった。
火事か、下水道管が破裂したのかと思った。
けれどそれは、紛れもなく璃花の発する音であった。
別人に見えた。
目は底無しの暗さを思わせ、ぶら下がった手はゾンビを連想させる。
「何で!?何で魅花ちゃんを消して、」
「いーくんと」
「二人だけで」
「ずっとずっと居られると思ったのに!」
狂気を纏う璃花は最早別人であった。思考のまとまらない頭が対処を悩ませる。
その間にも、尚語る。もはや独り言なのだが。
「どうしていつもいつもッ!!思い出したかのように出てくるの!?」
「魅花ちゃんは私の中で生きている。それじゃダメなの!?ねぇなんで?ねぇ!?」
彼女のことを忘れまいと定期的に話していたのが裏目に出たらしい。
倫理を抜きに論理的に頭が回る。まだ朝ボケ続行だ。
つまり、璃花が魅花を「消して」僕と二人で一緒に居たかったらしい。
どっちも大事だ。死んでもそれは変わらない。人の命は決して地球よりは重くない。
遙かに軽い。吹けば吹き飛ぶほどに。
けれど、この二人だけは少なくとも僕にとっては何よりも重んじるべき物なのだ。
ただ、失った物は戻ってこない。
なら、ありのまま今を生きるしか無いじゃないか。
狂い舞う璃花はむしろ美しかった。
その細い体を優しく包むが、それでも折れてしまいそうだ。
「僕にとっては二人は等しく大事なんだ。」
大粒の涙を堪え切れず流す璃花。
「っぅ・・いーくんは私だけを見てよ・・・ねぇ?ぐすっ」
半ベソだ。仕方ない、魅花には後で謝ろう。
「魅花は死んでしまった。僕はもう魅花と話せないし、遊べない。」
「それはもう、何にせよ変わらない事実だ。でも、」
「――魅花のこと、忘れるなんて可哀想じゃないか。」
「だから、せめて生きている璃花にはこうやって僕の気持ちを・・示している訳なんだけど。」
「これじゃダメかな?」
考え込む璃花。しかしすぐに顔を上げ目を合わせる。
光差し込むその瞳に安堵する。
「そうだよね、可哀想だもんね魅花ちゃん。だから許す。」
「忘れない代わりに、いーくんは貰うけどね!」
何故か胸を張って得意げだ。放っておくのしかないのだろう。
季節は移り変わるけど、思い出もすり替わるけど、おそらく死ぬまで僕は
――二人の事を忘れないだろう。