クーヤんの能力講座・超能力編
能力講座・超能力編
さて、第三回となった能力講座だが、今回は超能力について説明しようと思う。
超能力の中では最も一般的な物として念動力と読心。他に予知、千里眼、瞬間移動などあるが……はっきりと言って超能力には解らない事が多すぎる。
よって、今回判明した部分の超能力について解説していこうと思う。こちらとしては魔術に関しての知識しか持ち合わせていないからな。
まずは、ティナは力を使う時、どんな事を考えている?
「えっと……目の前の物を止めるとか、捕まえるとか考えてます」
そう、超能力の特性として念じるだけで世界を書き換える事が出来るという点があげられる。魔力も必要とせず、世界の鍵を用いなくても世界に干渉する事が出来る。
しかし何らかのエネルギーが放出されているのは確かだろう。使われるエネルギーが生命エネルギーなのか、はたまた別のエネルギーなのか……。エネルギーを放出するというと気功などが考えられるが、気功は技術であり超能力とは異なる。
さて、ティナの力について解明するまでの道筋を簡単に説明していこう。まずは仮説から始まった。
一番納得できそうな仮説は、周囲に満ちるマナに生命エネルギーを注ぎ込み、魔術を使う仮定を辿って現象を起こしているという物だった。次点では放出されたエネルギーが直接空気中の物質に作用している事も考えられたな。
他には物理的エネルギーが直接発生している場合もあるだろう。念じるだけで世界を書き換えているという神のような存在もあるかもしれない。ここらへんの仮説になるともう考えるだけ無駄だな。
では、仮説が立てば後はそれの実証だ。魔力というのは魔素という素粒子の集り、込められたエネルギーにより感知する事は出来るが肉眼で見る事は出来ない。空気を見るようなものだからな。
眼で確認する事が出来ないと実証には至らない。そこで用いられたのが汚染された魔素の研究でも用いられている魔術道具(眼鏡)だ。この眼鏡の機能は肉眼で見るよりもさらに小さい物を見る事が出来る。まぁつまり、顕微鏡だな。
この顕微鏡をかけながらティナが力を使う所を観察した。本編でも書いたとおり、解析の結果はマナにエネルギーを干渉させ、二次的に魔術を用いている事が判明したな。これは精霊達が使う魔術と似ている。だが元々精霊自体がマナの塊のようなモノだ。ティナの使い方とは少々異なるだろう。マナを使うという所は同じだが。
エネルギーを使って現象を起こす。ティナの念動力は魔術とも気功とも言えない――それでも根底は繋がっている――延長上にして、別系統の力という事になるだろう。
だが、解った所はティナの力がマナを媒介としているという事だけだ。
疑問はいくつも残っている。二次的であるが魔術的な過程を辿るのだが、その過程にある世界の鍵が見当たらない。次にエネルギーを飛ばし、空気中のマナに介入する方法がわからない。そして物質として安定しているマナをどのようにして用い、魔術という現象に至るかが解らない。
これらの疑問が全て解消すれば、大気中にあるマナを使う事が出来るだろう。それはつまり、無尽蔵の魔力を手に入れるという事だ。魔術師にとって最上の夢だが……解らない事が多すぎて手の付けられないのが現状だな。
次にサエッタの心を読むという超能力についてだ。お前の読心はどんな風に使ってる?
「……ずっと、みんなの声が聞こえてくる」
心を読むという能力については仮説として挙げられたのは三つ。
一つ、アカシックレコードへの接続。
今まで生きてきた生物の記録。その保管庫――アカシックレコード――へのアクセスを可能とする場合だ。
現存する者の魂。その先を伸ばしていくと実は一つに結ばれているという仮説。全生物の根底は一として繋がっている、だからこそその繋がりから相手の考えを読む……というとんでも理論だ。
魔術師としてはそんな空間がある事を夢見たいところだが、突拍子もないので仮説としては一番確率が低いものだった。調べる方法も無いしな。
二つ目、人には共感能力がある。
楽しい、悲しい、嫌悪、愛情。目の前の者がどんな感情を抱いているか、人には相手の状態を察知できる優れた共感能力が備わっている。
親しい者が相手ならば、その人物がどんな事を考えているか想像出来る事もあるだろう。俺のように相手を観察し、目の前の人物はどんな事を考えているか推測するヤツも居る。
心を読む能力を持つ者の中には、この共感能力の延長上である者も居るだろうという仮説。だが、相手の姿が見えない場所からでも心を読む事が出来るサエッタには当てはまらない。とは言うものの、完全に却下する事も出来なかった。俺の考えつかない方法で遠くにいる相手の感情を共感するかもしれない。
三つ目、脳内の電気信号を読み取る。
これが一番納得できる仮説ではあった。人が考えるという行動を取る時、シナプス間では電気信号が行き来する。その流れを読み取ることが出来るという力だ。読み取る器官が発達していると言っても良い。
人が考えるという行動を取る時、脳内では電気信号が行き交っている。その電気信号を読み取り、解析する事が出来さえすれば人の考えを読むことが出来るだろう。
実際に動物の考えを言語化しようという実験も進められている。実際に動物の感情を言語に置き換える道具も造られたようだが、真偽は定かじゃない。
長々と話したが……結局、実験の結果サエッタの力は電磁波を読むというモノだと判断した。理由は単純、電磁波を遮断する結界をサエッタの周囲に展開したら読めなくなった事により証明された。
サエッタに渡した魔術道具はその結界の小型化版だな。あれは鎖に魔術文字が描かれ、それ自体が魔方陣を成しており頭の周囲を覆う機能となっている。
それでは、ここから電磁波について少し触れてみようか。
電磁波は種類が色々とあるが、その区分はその周波数で区切られている。太陽光である可視光や紫外線、赤外線は300兆ヘルツ。電波であるマイクロ波やテレビラジオなどの放送波は30万~3000億ヘルツ。家電製品などの電磁波は50~60ヘルツとされ、これは超低周波として区分されている。
「何言ってるか解らないよね」
「……うん」
「帰ろっか」
「……うん」
それに対し、脳波はデルタ波・シータ波・アルファ波・ベータ波と区分されその周波数帯域は1~14ヘルツとなっており、超低周波である電磁波よりもさらに低いものとなる。
サエッタはこの帯域をも読み取り、心を読むという能力を使う事が出来るのでは無いだろうか。
ただ一つ気がかりなのが、声や音は縦波、電気信号などは横波という点だな。心を読む事が出来るというのは脳の器官の一部に、その横波を受信する機能が備わっているという事だろう。その器官を俺は生体マグネタイトではないかと考えている。
生体マグネタイト――鳥や鮭、蜜蜂など場所を移動する動物が再び元の場所へ帰ってくる事が出来るのは体内にコンパスのようなものが備わっていると考えられる。この磁気的な方向感覚を感知するのが生体マグネタイト、生体磁石とも呼ばれるものだ。そしてこれは、人にも備わっている。
この生体マグネタイトという磁気器官は脳の下垂体前に、また脳内の中央部にある松果体にも有る。脳表面の細胞に多く分布しているという研究結果もあるらしい。
虚実でなければという前提が必要な話だが……巫女が神のお告げを聞いたり、宇宙から電波を受信したりするのはそういう磁気器官が発達しているのだろう。それらは一つ目と二つ目に関係しているかもしれない。その真偽はよく解らないが、こちらはただ仮説を吐き出すだけだ。
ああ後は、超能力の使いすぎによる弊害について触れておこう。
力を使いすぎると頭痛が起きたり、昏倒したりする。
エネルギーを産生するのには細胞内で酸素を燃やす工程が必要となる。頭痛や昏倒は魔力酔いでも説明したように、脳に回る酸素が減った原因だろうと予測している。まぁ、もしくは単なるエネルギー不足かもしれない。エネルギー不足で頭痛がするというのはあまり聞かないが、昏倒はエネルギー不足が原因である可能性が高い。
読心の場合は、脳で処理出来ない情報量による頭痛、処理能力を越えて脳がパンクして昏倒するという別の原因だと思っているが、真実かどうかはわからない。単なる予測だ。
プラスしてサエッタの場合、電磁波を読み取るという所から電磁過敏症の疑いがある。これは電磁波の影響で頭痛や眩暈などが起こると言われている。科学的な根拠は無いがな。
脳波という極低周波すらも受信出来るため、その影響が強いのではなかろうか。
もしサエッタが……電磁波の行き来する世界で生まれたと想像すると少し恐ろしくなる。始終何処からともなく脳に音が聞こえてくるストレスは想像を絶する苦痛だろう。
さて、皆が居なくなったので講義はこれにて終了させていただこう。
以上で超能力についての説明を終える。