クーヤん能力講座・気功編
能力講座・気功編
さて、遅くなってしまったが、第二回目となった能力講座だ。今回の話では気の――気功について説明していこうと思う。
人体の力の中で不可視の力と呼べるものは大別して魔術、気功、超能力と分け隔てられている。
この世の理を用いて行使される魔術。自分の体内で造り上げたエネルギーを運搬する気功。そして、それ以外の魔術とも気功とも言えない――原理がよく解っていない――モノは超能力として分類されている。
「皆を集めて何をおっぱじめるかと思ったら……あたし、細かい説明とか苦手なんだけど」
「いよっ! 期待してるっすよフィズっち」
「うっさい、持ち上げんな!」
さてそれでは、魔術と気功の関連性から始めよう。
魔術を行使するにあたり魔力、魔素にエネルギーを吹き込む工程が存在している。といっても、魔術講座で言ったような明確な区分は無い。
普段の生活をしている状況でもある程度エネルギーは注がれており、第二工程である魔力の流れを感知したときに注ぐ事もある。第三工程の想像では命令として追加して注ぐだろう。つまり、無意識の領域でこの作業は行われている。
魔素を操るための動力。それが気――‘氣’とも表記されるこの概念であるが、簡潔に述べると気とは魂や生命力であるエネルギーといえるな。
「その通り。氣は魂の力もしくは生命力。やる気、負けん気、殺気、気配。何か行動を起こすために必要な感情、熱量とかそういったもん。氣を溜めるってのは力を溜めるとも言えるかな」
生物は食物を取り込みエネルギーに変換するというとても効率の良いシステムを兼ね備えている。
その役割に担っているものが細胞内に存在する、ミトコンドリアと呼ばれる細胞で、そのミトコンドリアから産生されているATPというものだ。アデノシン三リン酸とも言われるこのATPがエネルギーと呼べるものである。
「難しい事言ってるけど、氣ってのは別に特別な事じゃない。
やる気が出ると身体に力が漲る事があるだろうし、相手に勝ちたいという負けん気の時だってそう。
相手に殺意を投げかける殺気を感じた者がいるし、近くに人が居る事がわかるような気配を感じる事もある。その逆に、相手に気づかれないように気配を消す動作も氣を扱う初歩なんだよ」
人の脳には磁気を敏感に反応する生体マグネタイトと呼ばれる磁気感知のための物質が存在する。これは人の脳がごく微弱な磁気を感知できる優れた能力を潜在的に備えているという事だ。
ダウジングの原理もこれに関係するという説もある。
一般人が通常意識出来なくても、無意識のうちに脳は磁気情報を感知しており、生体磁気の情報が人から人へ伝わる事が人の気配を感じ取ったり、殺気を感じるといった現象を知覚している。
これは後に、サエッタの力について説明する時にも用いられるから覚えておくといいだろう。
「以上の事は氣を扱う初歩の初歩。訓練しだいで誰でも簡単に氣というエネルギーを扱う事ができるの。それじゃ、気功を本当に扱うというのはどういう事か説明していくよ」
「お、待ってました」
「茶化すな! ……気功ってのは特殊な呼吸法により、体内にエネルギーを溜め込むのを基礎とするね。酸素を効率良く細胞に溜めるとの同じと言えるかな」
氣を練るという作業の段階の中に、呼吸という工程がある。呼吸という動作はとても不思議な力をもち、呼吸の仕方一つで強くも弱くもなると言っても過言ではない。
気功を扱うにあたって、その主目的は身体の操作にある。身体とは四肢などの各部位を指す事は勿論だが、心臓や胃腸などの内臓部分も含まれている。四肢などは自分の意思で操作できるが、内臓の機能を自らの意思で制御する事は難しい。
しかし、呼吸は生命にとって大切な機能であり、意思でコントロールする事が可能だ。
呼吸とはリズムであり、リズムは個人別々、人それぞれ異なるものである。生命を維持するために重要な呼吸。その動作において固有なリズム、つまり特殊な呼吸法によってエネルギー産生を促す事が出来る。
「そうして練り上げた氣を丹田って呼ばれる場所へ凝集し、何時でも使えるように蓄積するの」
氣を練るとはそのエネルギーを体内で熱エネルギーに変換したり、運動エネルギーに変換したり、時には電気エネルギーに変換したりもする。いわゆる、体内エネルギーの効率的な蓄積と呼べる作業である。
ただ、電気の蓄電と同様に永久に溜める事は出来ないという事実も言っておこう。
「そのあと構え、足運び、そんで螺旋動作によって自分の体内エネルギーをなるべくロスする事無く、かつ指向性を持たせて伝える手段が気功。もしくは体内へと留める一連の流れを差すね。それを、気功――本当の意味で気を扱うっていう意味」
ここでエネルギーを減少させることなく運ぶ為に、運搬の動作を円や螺旋を用いる事が重要だ。そのために型や動作といった武術を覚える必要がある。
「後はそうだねぇ……氣や気功の説明じゃないけれど、氣は体内の経絡っていう通り道を巡ってる。そんで、その経絡の分岐点……っていったら良いかな。そこには点穴ってやつがあって、それを突く事によって相手の気脈を乱す事が出来るね」
血管が血液――赤血球を運ぶのと同様に、氣は体内の経絡系を絶え間なく流れ、その余剰が熱として体外へ排出される。魔術で言えば、魔力――魔素が魔術的な回路を流れるのと同じだな。
点穴を突いてその流れを滞らせる、それはつまり生命エネルギーを遮断するという事と同じだ。点穴を突かれた場合、その部位の身体機能を封じたり、果ては命を奪う事もある。
ちなみに武術においての点穴はほぼ人体の急所にあるな。
色々語ってきたが、最後にまとめよう。
氣とは生命エネルギーであり、やる気や気配といったありふれたもの。知らない内にある程度扱っている者も多いだろう。しかし、これは気功において初歩の動作である。
また魔術の分岐として、魔素の核となる部分にエネルギーが注がれる。気と呼ばれる生命エネルギーが、魔素の核に詰められた原動力となる。世の中には、「魔力=気=魂」と結びつける者もいる。あながち間違いでは無いので、否定する事は出来ない。
次に気功と呼ばれる一連の流れだ。
呼吸によってエネルギーを産出し、へその下にある丹田と呼ばれる部位へ蓄積する。そしてその蓄えられたエネルギーは経絡を辿って運ばれる。螺旋の動作を用いてロスする事無く、かつ指向性を持たせて運搬するな。
追記として、氣を具象化できる唯一の手段として、呪符がある。紙に特殊な繊維を溶き込んだものを使い、書かれている文字と墨も特別なモノを使用する。紙も墨も魔素が多く含まれている特別製のものだ。
「あ、認識間違ってそうだから最後に言っとく。気功ってのは別に戦うための手段じゃないよ」
自分も忘れていたから戒めとして言っておこう。気功の真髄は精神や身体を健やかに保つため、心身を鍛える為にある。ぶっちゃけて言えば、健康法ってやつだ。
「内臓を鍛えたり、身体を鍛えたり健康を保つのが主な目的だしね。ま、その一部に身体操作があるから戦闘に便利な力なのは否定しないけど」
ちなみに外功と内功、外気功と内気功はそれぞれ別の意味だ。
外功は筋肉などを鍛え上げる事、内功は体内の気を使う業。外気功は気を発し、相手の身体エネルギーを改善する方法。内気功は自分で自分の気をコントロールする術だ。
もしかしたら最初に魔術を伝えたのは仙人と呼ばれる人物なのかもしれないな。追記として、仙人を題材に少しこの力の流れを辿ってみるとするか。
まず、外功である自己鍛錬の日々の中で気というエネルギーの存在に気づく。その力をどうにか外へ伝える方法は無いかとさらに内功という鍛錬を積み重ねるに従い、外気功、内気功という気功の扱い方に辿り着く。
ただ、気功だけでは応用性が無い。気とは単なるエネルギー。そのエネルギーが火や水に突然変化する事は無い。
なんとかしてこのエネルギーを扱う方法が無いか。考えに考え、試行錯誤の中で見つけた魔素という存在。魔素という物質にエネルギーを蓄え、自在に操り事に成功する。
そしてその後に見つけた世界と繋がる鍵。そこから多様に広がる魔素を扱う術。そしてついには魔素へさらにエネルギーを注ぎ、物質同士を掛け合わせ新しい物質を造り上げるという錬金術へと辿り着く。
仙人。霞を食って生きると言われる超越者。
霞という水分を多く含んだ空気を胃へと送り、錬金術を用いて栄養となる物に変えていたのではと勘ぐってみる。まぁ、実際はよく解らない存在だ。
応用性が広いから魔術が一般に広められ、気功としての技術は廃れて行った……もしくは魔術の知識しか広めなかった。そういう仮説が立てられるが……結局、真実は闇の中。これ以上の知識は俺には無い。
話が飛び飛びでまとめきれていないが、許して欲しい。
以上で気功の説明を終える。