クーヤんの能力講座・変化編
クーヤんの能力講座・変化編
さて能力講座第一弾となったわけだが、まずは変化という力から説明しよう。
変化とは文字通り身体を変化させるモノだ。
「いや、ちょっと待ってくれ。なんで俺達は此処にいるんだ?」
「何言ってるんですかイースさん。僕が教えて欲しいと言ったんですよ?」
変化には三種類に分類されるというのが俺の考えだ。膨張、幻術、変形、この三つ。
「うぉ、無視して始めやがった」
「イースさん話を黙って聞くっす」
一つ目の変化はシルバが見せた膨張だ。膨張は変化の中で一番基本だ。亜人の一部に備わる特殊能力として主に知られている。亜人の変化はそのほとんどが膨張に分類されるものだ。
「いやぁ、吃驚したな。亜人の中に姿を変えるのは居ると聞いていたが、見るのは初めてだったぜ」
膨張は珍しいというモノでもない。俺達にだって出来る。いや、大抵の生物だったら誰だって可能だ。まぁ、その場合は海綿体に血液が溜まっている状態だけれどもな。
「あ~、なるほど……っていやいや、起ったからって別に毛むくじゃらにならないっすよ」
シルバがやった膨張は難易度が高いやつだ。
その機構は筋肉をバンプアップさせ太く増量、肥大化させ、さらに回復が伴う。
バンプアップは筋肉に激しい負荷が加えられるとその部位の血流量が増し、一時的に筋肉が太く膨張する事だ。つまり、血流量を増やして太くしているという所は同じだな。
そしてそのバンプアップは一時的に筋肉細胞を壊している状態でもある。その壊れた筋肉を治そうと身体が回復を即し、副次的に体毛なども急成長する。ちなみにこの変化で骨の成長などは含まれない。
そして元に戻るときはその逆を辿るな。血流量が減少し、膨張した筋肉は萎んでいく。伸びた体毛は急成長をした分だけ死滅も早く、抜け落ちていく。脱毛というのは毛根が死滅した時に起きる現象だしな。
「ふむ、なるほど。しかし骨が成長していないのは本当ですか?」
骨は変わっていない。
骨が変わっているように見える場合は、元々その身体に骨があったという場合だろう。人以外の動物には陰茎骨という骨を持つ動物もいるからな。
この膨張は元々それぞれの動物に近い形をしている亜人だからこそ可能な変化だ。よく人間が狼へと変わるような狼男の話を聞いた事があるだろうが、それは後で話す幻術もしくは変形だと考えている。
「しかし……なぜあいつ等は変化したままの姿で過ごしていなんだ?」
確かに膨張により驚異的な身体能力を得ることが出来るだろう。だが、俺達が膨張したままの状態を考えてみてくれ。
「……起ちっぱなしは疲れるっす」
その通り。血流量が常に増大したままでエネルギーの消費が普段の人型よりも多い。そして普段生活する分にも膨張したままだと不便だ。つまり戦闘以外必要の無い変化だからだろう。
さて次は幻術だな。
これは文字からも分かるように、単なる幻術によって身体を変化させているように見せているだけだ。身体は何の変化も行われていない。構造としては最も単純だな。
「しかし……そんな事してなんか意味有るのか?」
意味はある。
この幻術変化の機構には自己暗示と周囲への幻覚だ。
まず自己暗示により自分が獣へと変化すると暗示をかける。自己暗示を馬鹿にしてはいけない。いくつかの制約の元に驚異的な身体能力を得る事が出来るだ。言い方を変えれば、脳のリミッターを外すという風にも言えるのだからな。
そうして自分を獣と思い込ませ、その周囲にも自分が獣に変化したと思い込ませるように幻覚を行う。ある魔術師がドラゴンへとその身を変化させる状況を想像すればいい。それがどれほど恐ろしい事かわかるか?
「人が竜に変わるってのは怖いが、それほど恐ろしいもんか? 実体は変わってないんだろ?」
幻術により変化した者がその場から消えたとしよう。それはその者の身体能力が上がって視界から消えたのか? それとも相手が目に追えない速度を体現しようと幻覚を見せて消えているのか?
その相手が行き成り目の前に出現した。それは現実か? 幻覚か?
相手が腕を振るい攻撃を受けた。身体から流れる血は現実か? それともそう知覚しているだけか?
「むぅ、確かに……そりゃ怖いっす」
そう、つまりその周囲に居る者は幻覚にかけられているという事が恐ろしい。まぁ、そこまで幻術を扱える者が少ないのは確かだがな。
大抵の者は単なる身体強化、自己暗示、自分を獣に見せる幻覚だけ。しかし、ドラゴンへ変化するような魔術師も居る事を頭に置いておかなければならない。そんな魔術師は幻術の扱いに長けている。
さて、最後に変形だ。
変形と聞くと機械が形を変えるのをまず思い浮かべるが、あれはただその配置が変更しただけだな。変化の変形とは身体の元素を用いて組み替える方法だ。
ナノマシン、錬金術。正確に構造を変える方法は今の所二つ考えられるが、どちらにせよ分子や原子を別の分子・原子へと作り変え、構造を組み替える方法を取る。ちなみにもう一つ、原子同士の衝突させることで別の物質を作る方法もあるが、上記二つよりも細かい内容では無いので省く。
「「????」」
「えっと……その分子・原子という物は……」
所詮この世界は物質世界。
それぞれの物質は分子の集まりで、分子は原子の集まりでしかなく、原子は電子・陽子・中性子の集まりでしかない。このそれぞれが結びつけばそこに物質として存在できる。そしてもし、この構造を人為的に組み替える事が可能であれば、鉄を金に変える事も出来るんだ。有機物を無機物へと変換させる事も可能だ。
まさに錬金術。その応用性は限りが無い。
変形を行う者は大抵ある程度の型を持っている。そしてその型は持っていたとしても数個だ。ルーシィのように様々に変化できる事の方が稀だ。
例として吸血鬼が霧へと変化する状態をあげるか。
霧へと変化するのは霧という型を持っているためだろう。身体の分子構造をバラバラに分解し、移動した後集合するという一連の流れを含んだ状態だ。人の身体を構成する分子は60~70%ほどが水分だしな。
ああ、吸血鬼についてだが身体の一部を獣に変化するのもあるな。それはその獣と契約を行い、体内に住まわせ、それを召喚している状態だろう。変形を用いて知能を与えさせるという方法も無くはなさそうだがな。
変形を行う際には型というどのように変化させるかの想像が無くてはならない。型が無ければそれはもう無秩序な化物のようにしかならないのだ。
「「「…………」」」
後はまぁ、芋虫からさなぎへ、さなぎから蝶へ変化するような場合もあるな。これは変形の一種だ。さなぎの中身はどろどろになって蝶への体へと作り変えている。この脱皮は不可逆的な変化だ。元に戻る事はもうない。
また脱皮を応用した方法もある。別の生物の皮を用いて元の身体をその中に仕舞い込む場合だ。人の皮を被ったという言葉があるが、これは本当に皮を被る方法だ。これを俺はそのまま脱皮と呼んでいる。
周りで見ている連中は変化しているように感じられるが、元からあるものを仕舞い込んでいるだけで身体の変化は特に無い。そして皮を破って出た中身が再び同じ皮へ戻る事も出来ない。
幻術も身体的な変化は無いので、この脱皮は変化の一種類に数えられてもいいが……この変化は不可逆的なものだ。
進化、退化、成長、脱皮。不可逆的な変化は色々あるが、俺は可逆出来るモノを変化と分類している。それ以外のはそれぞれの呼び名で呼んでいるんだ。
ああそうそう、虫やカメレオンなどでも見られる色の変化もあるな。呼び名は擬態だ。
これは可逆なものであるのだから変化の一種に入れたい所だが……
やはり変化と呼ぶからには視覚的に形が変わっているモノを言いたい。身体の色に変化はあるが、形の変わらない擬態はやはり変化に含んでいない。
つまり身体的または視覚的に形が変わっていて、可逆出来るものを変化と分類しているんだ。その種類は膨張、幻術、変形の三つ。
形が変わるなんてのは種類がかなり多いからな。この三つ以外にもあるだろうが、俺としての考えはそんな所だ。
以上で変化についての説明を終える。
分子原子についてこれから説明するからウィムさんは聞いてくれ。その前に眠りこけているイースさんとショルさんに毛布かけないとな。