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皇太子が愛人を隠すために秘密の通路を作ったと思ったら、私の「恋人」を監視するためだった

作者: 熾星
掲載日:2026/09/30



私は太子妃だが、太子は私を愛していない。これはごく普通のことだ。


太子妃を選ぶ日、私は寝違えて首が曲がったまま太子を見ていたため、ひどく尊大で横柄に見えたからだ。


皇后はその場で即決し、太子を苛立たせるために私を選んだ。


皇后の期待を裏切らないよう、私は東宮でこれでもかというほど必死に悪さをした。時には自分でも後ろめたくなるほどだった。


太子は毎回、無表情のまま後始末をし、私への忍耐力はどんどん高くなっていった。


私はますます調子に乗り、怖いもの知らずになった。


その結果、皇后は失脚し、太子が即位した。


私は震えながら簪を外して罪を請うた。


新帝は不思議そうに私を見た。


「せっかく苦労して、お前が暴れ回れるもっと広い場所に替えてやったのに、どうしてそんなに怯えているんだ?」



1



太子は辺境へ軍の監督に出かけていた。


一度行けば三か月。私はひどく退屈していた。


遊べることも騒げることも一通りやったが、謝崧がじっと耐えている顔を見るほど面白いものはなかった。


楽しみのない夜、私は早々に蝋燭を消した。眠りについた後、庭から騒がしい声が聞こえてきた。


窓の外は一面明るく、数十人分の慌ただしく乱れた足音が、秋の夜を落ち着かないものにしていた。


「莲笙、外はどうしたの?」私は帳を上げ、侍女に尋ねた。


「東廠の者たちが宮を捜索しに来ました。太子殿下が謀反を企てた証拠の書状が宮中に隠されていると!」


謝崧が謀反など起こすはずがある?


もう太子なのだ。


きっと子のない皇后が、太子を排除するためにこじつけた口実に違いない。


けれど私の立場も微妙だ。皇后は表向き私を自分側の人間として扱っているが、太子が失脚すれば、私の一家も命が危ないに決まっている。


「早く着替えさせて。この宮を絶対に捜させちゃだめ!」


急いで身支度を整え、先頭に立つ宦官の李公公の前へ行くと、彼は私を一瞥し、不機嫌そうに言った。


「太子妃様が物分かりのよい方なら、今は何もなさらぬのがよろしいでしょう。」


私はわざと彼の前に立ちはだかった。


「誰があなたたちに、夜中に東宮へ押し入る度胸を与えたの?」


李公公は払子を振り、冷たく言った。


「陛下の口諭です。」


ああ、謝崧。これでは天上の誰が来ても助けられない。


私は宮人たちに命じるしかなかった。


「公公は勅命を帯びていらっしゃるのだから、みんな気を利かせてお仕えしなさい。公公に失礼があってはいけないわ。あとで冤罪なんて作られたら困るもの。」


李公公は鼻を鳴らし、私を避けて堂々と謝崧の書斎へ向かった。


自信満々な様子を見て、私は嫌な予感しかしなかった。


案の定、李公公はあちこち見たり叩いたりするふりをしながら、すぐに謝崧の書斎の隠し通路を見つけた。


「太子妃様、この隠し通路が何のためのものか、ご存じですか?」


李公公の声は、嬉しさで調子が変わっていた。


私は伏し目がちに従順そうに答えた。


「存じています。ここは太子殿下が想い人と密会する場所です。」



2



隠し通路は奥深く暗く、李公公のそばにいた小宦官が灯りをつけた。


道はずっと狭く、一人しか通れない。百歩ほど進むと、急に開けた場所に出た。


そこは広くなく、机が一つ、椅子が一脚、そして本棚が一列あるだけだった。


李公公はまっすぐ本棚へ向かったが、一目見た途端、怒りで髪が逆立つほどだった。


「これは全部、何なのだ?」


私は自分のつま先を見ながら、心の中で答えた。春本よ。私が買ったの。


太子が出発するとすぐ、私は東宮を隅から隅までひっくり返して調べた。


数日前になってようやくこの隠し通路を見つけたのだが、その時、何もない本棚には箱が一つ置かれていた。


開けると女の肖像画が入っていて、私はその顔を見ただけで腹が立った。


その女の名は梦无端。名前からして何だか胡散臭い。


謝崧が歓楽街で知り合った紅顔の知己だそうで、以前は宮中に出入りしづらかったため、彼女はよく大通りで彼を待っていたらしい。


私が何度か騒ぎ立ててから姿を見なくなったので、てっきり大人しくなったのかと思えば、場所を変えただけだった。


まったく謝崧ったら、愛人と密会するためだけにわざわざ隠し通路まで造ったのね!


だから私はその箱を見るなり腹が立ち、適当に数枚めくってみた。細かい字がびっしり並んでいて、きっと二人が想いを伝え合った手紙だろうと思った。


そこで全部取り出し、一気に燃やしてしまった。


さらに小間使いに街へ行かせ、春本や禁書をたくさん買わせて本棚に並べ、当てつけにした。


もちろん、そんなことを李公公に話すわけがない。春本を読む罪は全部謝崧になすりつけた。


「彼は私に責められるのが嫌で、女と会う時はいつもこの隠し通路を使っていたんです。それなのに、こんな恥知らずなものまで用意して楽しんでいたんですよ。陛下がお咎めになるなら、私が代わりに認めます!」


李公公の顔は赤くなったり青くなったりした。そばの小宦官の耳をつかみ、甲高い声で怒鳴った。


「手紙はどこだ! 隠し通路にあると言ったではないか!」


「太子殿下の腹心が移した可能性もあります。ほかの場所も捜してみましょうか?」


小宦官はおどおどと答えた。李公公は私を憎々しげに睨むと、足早に隠し通路を出ていった。


その夜、彼らは東宮を隅々までひっくり返したが、いわゆる謀反の証拠は何も見つからなかった。


私はあくびをしながら寝床へ戻り、二度寝した。


目が覚めた時には、また外が暗くなっていた。


足元に何か硬いものが当たった。


鎧すら脱いでいない謝崧だった。


私の寝台のそばに座り、何も言わない。顔もよく見えず、ただ彼の身にいつもまとわりついている沈香の香りだけがした。


私は寝返りを打って寝たふりをした。謝崧が淡々と言った。


「起きているなら起きろ。白花花だって太子妃ほどは寝ない。」


白花花は、私が飼っている豚だ。


私は勢いよく起き上がり、先手を打った。


「梦无端とはもう会わないって約束したじゃない!」


責められたくなければ、先に相手の落ち度を見つけて責める。これは私の経験則だ。


謝崧はあっさり従った。


「私が悪かった。今後はしない。」


「前回も、その前も同じことを言ったわ。」


謝崧は話をそらした。


「腹は減ったか。先に食事にしよう。」



3



夕食には、私の好物ばかりが並んでいた。


最近、淮揚料理を得意とする料理人が来たばかりで、旬の料理ばかり作ってくれる。蟹は肥えて卵もたっぷり、鴨は柔らかく肉も鮮やかだった。


最後の蟹粉獅子頭を取ろうとした時、私の箸と謝崧の箸がぶつかった。


私は素早く先に取った。謝崧は何事もなかったように箸を引っ込めた。


がっかりしたでしょう。ふふん、私はずっと観察していたのだ。謝崧はどの料理も少しずつ取るので一見偏りがないように見えるが、獅子頭を取る時だけ、ほかの料理より動きが少し大きい。


私は獅子頭を自分の碗へ運びながら、横目でずっと謝崧を見ていた。碗に置く直前、突然それを謝崧の碗へ落とした。


いつも動じない謝崧の顔に、ついにわずかな困惑が浮かんだ。


やっと私の楽しみが戻ってきた!


「太子妃、目があまり良くないのではないか?」


謝崧は卓の下から、その獅子頭を箸で拾い上げた。


私は固まり、彼の脚を見た。


淡い色の袍に、丸く濃い色のたれの染みがついていた。


こういうことは何度も起きているので、対処にはもう慣れている。


第一段階、責任転嫁。


「太子殿下がそんなに遠くに座っているからです。妾が料理を取って差し上げたくても届きませんもの。」


次は、ただちに証拠を消す。


私は料理を給仕していた宮女に振り返った。


「手巾をちょうだい。」


ところが宮女はもじもじして、自分は手巾を持っていないと言い張った。


私は睨んだ。


「見えたわよ。袖の中にあるじゃない!」


宮女は跪いた。


「奴婢の手巾は汚れております。太子殿下は尊いお体でいらっしゃるのに、奴婢の汚れた手巾などお使いになれません。すぐに新しい手巾をお持ちします……」


彼女が立って去ろうとすると、謝崧が口を開いた。


「出せ。」


謝崧の声は冷たく澄んでいて、それだけで人を怯ませる。ましてや無表情な顔つきまで加われば、なおさら怖い。


すると宮女は跪いたまま震え出した。


「殿下、奴婢はわざとではございません。初めての過ちに免じて、どうか命だけはお助けください!」


彼女は震える両手でその手巾を差し出した。そこには小さな楷書で数行の文字が書かれていた。


ざっと目を通すと、あの手紙を燃やしたのは私だという内容だった。


私は腕を組み、冷ややかな顔を作って謝崧をからかった。


「この東宮、どこからでも風が入ってきて、本当に寒いですね。


「南方には、家の中に一匹でもゴキブリが出たら、もう家の中には十万匹いるという虫がいるそうです。本当かしら、嘘かしら?」


謝崧は手巾を脇に置き、宮女に尋ねた。


「誰に情報を渡していた? ほかに仲間はいるのか?」


「宮中のある公公です。奴婢に銀十両をくださいました。ほかの者にも渡したかどうかは、奴婢には分かりません。」


宮女は連れ出され、見せしめとして杖刑三十回を受けた。宮中の下人は全員、それを見なければならなかった。


せっかくの食事だったのに、私はたちまち食欲を失った。


私だって、いつも太子の家をひっかき回したいわけではない。だが皇后は三日に一度と言わんばかりに私を宮へ呼び、報告をさせた。満足すれば、家にあれこれ褒美を下さる。


一文の銭にも英雄は困るものだ。父は諫官で、清廉潔白どころか貧乏そのもの。そもそも不正な収入を得る手段がほとんどなかった。


父も私と一緒にこの泥舟に乗ってしまい、時々太子を弾劾する上奏文を出さなければならなかった。私はその材料を提供する役で、たとえば朝寝坊して勉学を怠ったとか、歓楽街の女と付き合ったとか、そういうものだった。


だが、太子が裏切り者を容赦なく処分するのを見ていると、自分の将来が心配でたまらない。


私がしていることは、この宮女よりずっと悪い。いざその時になったら、尻を打たれる程度では済まないだろう。


遠くからかすかに聞こえる悲鳴を聞きながら、私は食事が喉を通らず、米粒を数えるしかなかった。一粒、二粒……。


謝崧は鴨の腿肉を一切れ私の碗に入れた。


「怖くなったか? 杖で打たれたのはお前じゃないだろう。」


これは私を脅しているの? そうよね?


「いい気にならないで。言っておくけど、今回の『弱み探しゲーム』はあなたの負けよ。決まり通り、一回私の言うことを聞いてもらうから!」


私は腹を立てたまま、逆に彼を脅した。



4



『弱み探しゲーム』は、私たちが結婚して間もなく始めたものだ。


謝崧の心には、白月光のような存在である梦无端がいた。書斎には彼女の小さな肖像画まで何枚もあった。私はそれを口実に何度か騒ぎを起こし、ついに謝崧も我慢できず反撃してきた。


「お前だって私の皇弟とは幼なじみで、子どもの頃から一緒に育っただろう。今も心の中で彼を想っていないと、誰に分かる?」


私と谢翊の関係が、彼と梦无端の知己の情と同じなわけがある? 私は谢翊が裸ん坊だった頃まで見ているのよ。


私は誓った。


「私と谢翊の間に男女の情なんて絶対にないわ。」


謝崧は薄く笑った。その顔がなぜか、策がうまくいって獲物を盗み食いした猫のように見えた。


「ではゲームをしよう。お前が谢翊を想っているところを私が見つけたら、お前は一度私の言うことを聞く。逆に、お前が私が梦无端を想っているところを見つけたら、お前も私を一度好きに使える。どうだ?」


こんなの勝つのは簡単だと思い、私は考えもせず二つ返事で承知した。


そして今、ついに一度、彼の弱みをつかんだのだ。


「私に何をさせたい?」


「まだ思いついてない。先に取っておくわ。」


万一、謝崧が皇后との争いに勝ってしまったら、これを使って命だけは助けてもらえるかもしれない。


翌朝起きると、屋敷がまた騒がしくなっていて、私は不安になった。


莲笙が水を持ってきて私の身支度を整えながら、私が尋ねる前に言った。


「太子殿下が女と密通するためだけに隠し通路を造ったと聞いた多くの大人方が、今日は次々と美しい女たちを贈ってこられました……」


なんてこと!


一人追い払ったのは、大勢を呼び寄せるためだったの?


私は顔の水さえ拭かず前庭へ向かった。案の定、甘い香りが漂い、色とりどりの衣装をまとった艶やかな女たちがずらりと並んでいた。


謝崧は私より早起きしていて、その女たちの前に立ち、まるで妃選びでもしているようだった。


私の足音を聞くと、彼は慌てることもなく振り返った。私は近寄って警告した。


「一人でも受け入れたら、弱みをつかまれると思いなさいよ!」


謝崧が突然、手を上げた。


私は驚いて目を閉じた。


まずい。泥人形だって怒る。男は何より面子を重んじるし、とりわけ女の前で恥をかかされるのは嫌うものだ。謝崧、怒って私を殴るつもりじゃないでしょうね?


顔に絹の柔らかな感触が触れ、濡れた水滴が一つ一つ拭われていった。


私は大根みたいに、その場で固まった。


謝崧は自然に手を離し、ちょうど皆に聞こえるくらいの声で言った。


「太子妃が家を取り仕切っている。彼女たちは好きに処分すればいい。私は勉強に戻る。岳父殿に、また勉強していないと言われないようにな。」


謝崧がようやく去り、私はその場で気持ちを落ち着けてから、並んでいる美女たちを見た。


「あなたたちは何者なの?」


「殿下に申し上げます。民女は云韶坊の楽妓で、尚書の張大人がお買い求めになり、こちらへ……」


彼女たちの自己紹介が一通り終わると、私は大きく手を振った。


「分かったわ。あなたたちは全員自由よ。もしあの面倒な大人たちが何か言ってきたら、太子妃が嫉妬深い女だから追い払ったって言いなさい!」


冗談じゃない。昨日、東宮で一人の間者を捕まえたばかりなのに、今日はこんな大人数を送り込んでくるなんて。問題があると気づいてほしくて仕方ないみたいじゃない。


私は莲笙に尋ねた。


「今、あの子たちが言っていた大人たちの名前、全部覚えた?」


莲笙はうなずいた。


「ならいいわ。名簿にして太子に渡して。注意するように言って。」



5



秋風は強く、秋の狩りにはちょうどいい季節だった。


謝崧が狩場へ一か月行くと聞いた途端、私は焦った。


「あなた、この前だって三か月もいなかったでしょう。私はもう退屈で死にそうなの。だめ、今回は何があっても私を連れていって!」


謝崧は本の頁をめくる手を止め、顔を上げて私を見た。


「以前はこういうことに興味がなかっただろう?」


私は一瞬言葉に詰まった。自分でもなぜそこまで行きたいのか分からず、意地を張って答えた。


「昔は昔、今は今よ。人は変わるものなの!」


謝崧は長い睫毛を伏せ、淡々と言った。


「谢翊も行くと知って、私に頼みに来たのかと思った。」


お奉行様、冤罪です。本当に谢翊も行くなんて知らなかった。


今の陛下は子に恵まれず、成人した皇子は谢翊と謝崧しかいない。二人とも陛下の側妃の子だが、谢翊は生まれつき体が弱く、その後も病気がちだった。


数年前、狩場で一人で鹿を追っていた時に落馬し、片脚を折った。今も歩く時には足を引きずり、しばしば車椅子を使っている。


だから謝崧が太子に立てられたのは、谢翊よりどれほど優秀だったからというより、谢翊がいかにも病弱で、あと何年生きられるか分からないように見えたからだ。


私は謝崧のそばに腰を下ろし、両手で彼の本の頁を押さえた。読めなくなった謝崧は、仕方なく顔を上げて私を見る。


謝崧の生母が三か月も陛下の寵愛を一身に受けたというのも納得だ。謝崧は本当に整った顔をしている。眉はくっきり、目は目で美しく、近くで見るととりわけ迫力がある。


「何だ?」


しばらく待っても私が何も言わないので、彼が静かに尋ねた。


「連れていくか、いかないかだけ言って。この宮、本当に退屈なの! 私を連れていけば、楽しみを作ってあげられるわ。『殿下はもう十年も笑っておられません』って、私が来たばかりの頃に孫嬷嬷が言っていたの、まだ覚えてるもの。」


「楽しみなのはお前か、それとも私か?」


謝崧は私の犬みたいな手の下から本を引き抜いた。私は懲りずにまた手を載せる。


「結局、連れていくの、いかないの!」


「連れていく、連れていく。それでいいだろう?」


謝崧はため息をついて立ち上がり、去り際に言った。


「次に私に何か頼む時は、その腕輪をつけるな。」


その口調は、少し怒っているように聞こえた。


私は右手首の玉の腕輪をくるくる回し、何度見ても、この腕輪の何が謝崧の気に障るのか分からなかった。


この腕輪は、私が満一か月の時に姑母から贈られた祝いの品で、十四歳の頃からずっと身につけ、もう何年も一緒に過ごしてきたものだった。


谢崧は、私の姑母が谢翊の生母だということを気にしているのだろうか?


でも、この腕輪の由来を私は彼に話したことがない。


なぜか妙に後ろめたくなり、私は腕輪を外してしまっておいた。


食卓で謝崧は何度か私の何もついていない手首を見た。翌日、もっときめ細かな玉でできた別の腕輪を持ってきて、私の手にはめた。


「太子妃には、これくらいの品でなければ似合わない。」


私はようやく分かった。結局、自分にはもっと上等な玉があると見せつけたかっただけで、前の腕輪では彼の身分に釣り合わないと思っていたのね。


今日は玉、明日は人。これは遠回しに、狩場で余計なことをするなと私に警告しているのだ。


ふん、銅銭の穴より心が狭い。



6



狩りへ向かう一行は実に壮観で、前後十里にもわたって続いていた。


私は馬に乗ると脚が擦れて痛くなるのが嫌で、輿の中へ潜り込んだ。簾を上げると、謝崧の馬・追風が横でぱかぱか歩いていた。


この音を長く聞いているうちに、外がどれほど騒がしくても、追風の足音だけは正確に聞き分けられるようになっていた。急ぎもせず遅れもせず、ずっと隣を歩いている。


行宮に着いて落ち着く間もなく、謝崧は皇帝に呼ばれていった。


この父子は以前と同じように接していて、少し前の宮の捜索など私の妄想で、最初から何も起きていなかったかのようだった。


謝崧が何も言わないなら、全部片づけたのだと思うことにした。どうせ私は足を引っ張ることしかできない。梦无端のように助言までしてやれるわけでもない。


謝崧は人を寄こして、先に食事を取るよう伝えてきた。私は食欲がなく、外へ出てぶらぶら歩いた。


今夜は月がとても明るく、灯りがなくても道が見えた。下人たちを避けて歩いているうちに、いつの間にか道を外れていた。


どこへ曲がり込んだのか分からないが、ふいに車椅子の車輪が泥をねっとり踏む音が聞こえた。


「葵儿、どうしてここに?」


振り返ると、谢翊が自分で車椅子を回しながらこちらへ来ていた。咳までしていて、なんとも物寂しい姿だった。


周りを見渡したが、人影はない。


「従者はどこ? 夜は外の風が強いんだから、早く宮室に戻って休んだ方がいいわ。


「それから、私のことは嫂子と呼びなさい。もう幼名で呼ばないで。」


谢翊は口元を引いて笑った。月明かりの下、その顔は透けそうなほど白かった。


「父上と太子が話し合っていて、私はよく休めと言われた。だから少し散歩に出てきただけだ。」


「長旅で疲れてるし、体も弱いでしょう。休めって言うのは、あなたを気遣っているからよ。」


谢翊の視線が私の顔から手へ移った。私は右手を背中に隠したが、谢翊は冷笑した。


「今ではすっかり、あの偽善者の味方か。幼い頃から一緒だった私たちの情は、もうどうでもいいのか?」


この人、鷹の目でも持ってるの? 二つの腕輪なんて、よく見なければほとんど同じでしょう?


「そういう言い方はよくないわ。夜中に大勢が家へ押し入って捜索し始めたら、誰だって怖いでしょう。」


昔のことを持ち出すのは彼だけの特権じゃない。


谢翊は突然、私に手招きした。


「葵儿、こっちへ来い。もう一度よく顔を見せてくれ。」


その言い方はどうにも不吉に聞こえた。祖母が死ぬ前に私へ言った言葉みたいだった。


私も軽々しく近づく気にはなれなかった。どこかに謝崧が立っていて私の弱みをつかむのではないかと怖くなり、適当に谢翊をあしらって、ほとんど逃げるようにその場を離れた。


宿へ戻ると、謝崧はすでに帰っており、低い卓の前に跪座して茶を淹れていた。


「莲笙が、夕食も取らずに外へ出たと言っていた。外の景色は良かったか?」


謝崧は私に一杯の茶を差し出した。


表情はいつも通りなのに、どうも含みがあるように聞こえた。私は正直に話すことにした。


「さっき偶然谢翊に会って、少し話したの。何か企んでいる気がする。とにかく、すごくおかしい。」


謝崧は茶を一口すすり、茶碗を持ち上げて軽く揺らした。茶の表面に揺れる緑の波を見つめたまま黙っているので、私は落ち着かなくなった。


仕方なく続けた。


「彼と何を話したか、全部あなたに話すから。私の弱みをつかんだことにはしないでよ。」


謝崧は私の話を聞き終えると、勝手に歩き回るなと言い残し、慌ただしく出ていった。


その夜、謝崧は一晩中戻ってこなかった。



7



翌日は狩猟競技があった。ところが謝崧と谢翊が一緒に入ってきて、しかも笑いながら話しているのを見て、私は目玉が飛び出しそうになった。


この兄弟はずっと表面上は仲良く、内心では反目し合っていた。礼儀だけは崩さなかったものの、こんなふうに笑い合う姿は長いこと見ていなかった。


最後にこんな光景を見たのは五年前。謝崧がまだ太子になる前で、谢翊もまだ脚を折っていなかった頃だ。


当時の谢翊はいつも薬の匂いをまとっていたが、誰もが豆腐でも扱うように大切に守っていたせいで、性格はまるで手のつけられない暴れん坊だった。誰かに逆らわれるのが大嫌いだった。


一方、謝崧は十歳になるまで宮中では存在感のない子だった。生母の純妃が陛下と仲違いし、宮を出て寺で修行するようになったため、謝崧だけが宮中に残され、皇帝から意図的に冷遇されていた。何をするにも慎重で、びくびくしていた。


けれど谢翊は謝崧を気に入り、この兄を連れてあちこち遊び回っていた。


谢翊が一人で遊びに行く時は、謝崧を私のところへ置いていった。私は最初、皇帝が谢翊につけた新しい護衛だと思い込み、あれこれ命令して、どこまで我慢できるのか試していた。


谢翊が戻ってきた時、私は嬉しそうに言った。


「この護衛、とてもいいわ。何をさせても嫌がらないの。」


谢翊は大笑いした。


「護衛じゃない。俺の皇兄だ。」


今思い返すと、本当に遠い昔のことのようだ。


でも私はその頃から謝崧を顎で使っていた。もし彼がいつか仕返しする気になったら、新旧まとめて全部精算されるんじゃないだろうか?


私は不安になり、謝崧のそばへ移動した。謝崧は横目で私を見て、谢翊との距離を取った。


「大丈夫?」私は小声で聞いた。


「大丈夫だ。」


向こうで谢翊が鼻を鳴らし、そのまま激しく咳き込んだ。


そばの下人たちは、外套を掛ける者、水を持ってくる者、手巾を差し出す者と、慌ただしくも手際よく動いた。


私たちの後ろに座っていた皇帝はそれを見ると叱った。


「翊儿の今の体は、少しの風にも耐えられぬ。お前たちはどうやって主に仕えているのだ? 端王に万一のことがあれば、ただでは済まさんぞ!」


谢翊は皇帝に礼をし、病を理由に自分の寝殿へ戻って休んだ。


そのため今日の狩猟競技に参加するのは、謝崧とほかの貴族の子弟だけだった。


謝崧が騎乗服に着替えて馬で出発すると、私はたちまち退屈になった。


しかもその場には王侯貴族ばかりが集まっているので、礼儀を欠くわけにもいかず、何をするにも気を遣う。


何とか夫人だの、何とか小姐だのが次々に挨拶に来るので、笑顔を作って相手をしなければならない。家にいる時の退屈よりよほどつらかった。


皇后は高い席から私をじっと観察していた。その視線で全身に冷や汗が浮かび、私はなんとか目を合わせたが、皇后の口元には意味深な笑みが浮かんでいた。


その笑みのせいで私は落ち着かず、何か起きる気がしてならなかった。


案の定、侍衛が駆け込んできて、太子が林の中で矢を受けたと報告した。ただし刺客は、太子が放った矢で木に縫い付けられたという。


その時も皇后は私を観察していた。私は内心の焦りを押さえ、いかにも慌てているような顔を作り、皇帝と皇后について謝崧を見に行った。


心の中では火で焼かれるように焦っていたのに、謝崧は何事もなかったように寝台の端へ座り、弓弦を拭いていた。隣では太医が彼の肩に包帯を巻いていた。


皇帝が尋ねた。


「太子はどうだ?」


太医は答えた。


「急所には当たっておらず、皮膚が少し傷ついただけでございます。陛下、ご安心ください。」


皇后は一瞬顔色を変えたが、すぐに笑みを戻した。


「崧儿は本当に福のある子ですね。天まで味方してくださるのですから。」


それから何度か体裁のいい言葉のやり取りが続いた。見ている私の方が疲れてきたが、幸い太医が静養が必要だと言ったので、ようやく皇帝と皇后を帰すことができた。


部屋に私と謝崧だけが残ると、私は眉を上げて聞いた。


「また『大丈夫』なの?」


「今のところ、これが一番いい結果だ。」謝崧は寝台から下り、弓を掛けた。


謝崧はどうしても謎かけ男を貫くつもりらしい。私もそれ以上聞かず、寝台へ転がり込んで布団に潜った。


謝崧が私を見下ろした。


「疲れたのか? だから無理に来るなと言ったのに。」


心配して損した!


私は背を向けたが、彼の手が近づき、蝶のように髪の間を行き来して、頭いっぱいにつけていた簪や髪飾りを一つずつ外していった。


全部外した後、彼は身をかがめて私の耳元で聞いた。


「面白いことを探しに連れていってやろうか?」


「いらない!」私は布団を頭まで引き上げた。


その後の日々は特に何事もなく過ぎた。谢翊がたびたび病を理由に宴へ出なくなった以外は、ほかの催しも順調に進んだ。


私も退屈の中から楽しみを見つける術を覚えた。たとえば、皇后と皇帝のほかの妃たちの間にある、表には出ない争いを観察することだ。


皇帝に子が少ないのは、皇后が妊娠を潰すのが上手だからだという噂があった。悪事を重ねた報いなのか、皇后自身には実子が一人もいない。そのため私の姑母の子を養子にし、その子を煽って謝崧と太子の座を争わせていた。


残念ながら、谢翊は競争相手としてはあまりにも頼りなかった。



8



秋の狩りの後、谢翊は太子の座を争う気をなくした。だが皇后はまだ諦めるつもりがないようだった。


誰が皇帝に何を吹き込んだのか、皇帝はなんと謝崧に側室を迎えさせる勅命を出した。鎮遠侯とかいう人物の娘らしい。


謝崧は事前に何もかも私へ隠しておき、側室を迎える当日になって初めて知らせた。私は反応する暇もなく、東宮は提灯を飾り、側妃を華々しく迎え入れてしまった。


理由の分からない怒りが胸につかえて、私は婚礼にも出ず、謝崧とも口を利かなかった。


さらに私の部屋の前を通る下人には、全員葬式みたいな顔をさせた。笑う者がいたら、ただでは済まさないつもりだった。


翌日、側妃が私に茶を捧げた。彼女が顔を上げた瞬間、私はうっかり茶碗を倒してしまった。


熱い茶が彼女の衣に飛び散った。彼女は委屈そうに「あっ」と声を上げ、わざと甘ったるい声で言った。


「无端が姐姐を不快にさせていることは分かっています。でも、どうして姐姐はいつも无端を嫌っていらっしゃるのですか? 私も姐姐も殿下のお方です。殿下への想いなら、姐姐に負けてはいません。」


彼女は歓楽街の女じゃなかったの? どうして突然、私も聞いたことのない侯爵の娘になったの?


まあ、それもそうか。謝崧は私に本当のことなんて話さない。真実を言う時でさえ半分隠して、私に推理させる。


私は半分上の空で、梦无端の悲惨な身の上話を聞いた。一家は陥れられ、男たちは流刑、女たちは教坊司へ送られた。彼女は十代の頃、宮中でまだ誰にも重んじられていなかった謝崧と出会い、互いに支え合い励まし合った。やがて謝崧が太子になり、彼女の家の冤罪を晴らしたので、ようやく東宮へ嫁いできたのだという。


なるほど、想い人で白月光なわけだ。謝崧が十代の頃、私のところでは私に使い走りにされ、彼女のところでは互いに慰め合っていた。その深い情が、途中から誰かの思惑で割り込んできた私なんかと比べられるはずがない。


私は急に何かをする気を失い、自分から十数日部屋に閉じこもって反省した。謝崧も一度も会いに来なかった。


毎日雑書を少し読み、静かに部屋で丸一日過ごしていても、意外と退屈ではなかった。やっぱり人は甘やかされるから我儘になるのだ。少し苦労すれば大人しくなる。


次に謝崧に会ったのは、一か月半後だった。


私は扉に鍵をかけて寝ていた。誰かが扉を押しても開かなかったらしく、なんと泥棒のように窓から入ってきた。


ただし身のこなしは少々悪く、私の机の上にあった銅の燭台を倒した。


私はたちまち目を覚ました。叫ぼうとした瞬間、口を塞がれた。


その人からは沈香と酒の匂いが同じくらい強く漂っていた。両腕で私の腰を締めつけ、強く抱きしめて離さない。


私は腹を立てて押し返したが、熱い雫が肩や首に落ち、寝間着の中へ滑り込んでいくのを感じた。


太子妃になってからこんなに長いのに、私は初めて太子が泣くところを見た。


「葵儿、私は彼女に機会を与えた。でも彼女は受け取らなかった。私はどうすればいい?」


涙を浴びて混乱していた頭が一気に醒め、私はもっと強く彼を押し返した。ほかの女との感情問題を解決するために、私のところへ来るなんて。私を本当に賢妻だとでも思ってるの?


私は「刺客がいる!」と大声で騒いだ。謝崧も私の口を塞がなかったので、すぐに大勢が駆けつけ、灯りで部屋中が明るくなった。


謝崧が急な明かりに怯んだ隙に彼を押しのけ、私は偏殿へ逃げて寝た。扉も窓もきっちり閉めた。


それでも私は一晩中目を開けたまま、眠れなかった。


寝返りを打ちながら、窓の外で揺れる木の影をぼんやり見つめていた。



9



昼になって謝崧が酒から醒めると、人を使って私を外へおびき出した。私が部屋を出た途端、彼は私を寝殿へ引き戻し、寝台に座らせた。


「何を言いたいの?」私は首をかしげて彼を見た。


「梦无端が来てからこれだけ経つのに、お前は一度も私の弱みをつかんでいない。一日一回と数えれば、私にかなりたくさんのことをさせられるぞ。」


「興味ない。そのゲームは彼女とやれば。」


自分でもどうしてしまったのか分からない。何も考えずに腹立ちまぎれの言葉ばかり口にして、謝崧が折れて、私を喜ばせる何かを言ってくれるのを期待していた。


でも謝崧はそれ以上何も言わず、立ち上がって黙って出ていった。去る前に、明日は自分の誕生日の宴があるから、宮へ来て一緒に出席するのを忘れるなとだけ告げた。


つまり、こんなに長い間私に会いにも来なかったのに、今日わざわざ優しいことを少し言いに来たのは、明日の宴を無事に終わらせ、私が余計な騒ぎを起こさないようにするためだったのね。


莲笙は、私が部屋で長いことぼんやり座っているのを見て言った。


「殿下は以前、他人を苦しめてもご自分を苦しめることだけはなさらなかったではありませんか。今はいったい何をしていらっしゃるのです? この件はどう見ても太子殿下が悪いのに、なぜご自分を責めるのですか?」


まさに当事者は迷い、傍観者はよく見えるというやつだ。莲笙の一言で私は目が覚め、机を叩いて立ち上がった。


明日、謝崧をぎゃあぎゃあ言わせるほど懲らしめられなかったら、私は許葵心じゃない!


尚服局が太子の新しい衣を届けてきたのは翌日になってからだった。以前作ったものに少し問題があったため、新しいものを急いで仕立て直したのだという。


小宦官は俯いたまま、私が衣に問題がないか確認しないと戻って報告できないと言った。


私は衣を広げて見た。色、刺繍、模様はどれも規則通りだったので、莲笙に銀を渡させ、小宦官を帰した。


太子の誕生日くらい、古い衣を着ても問題ないでしょう?


私はこの新しい衣を隠すことにした。


ところが新しい衣を持って部屋へ戻る途中、梦无端が私の前を塞ぎ、へりくだった様子で道を示した。


「姐姐、どちらへ行かれるのですか? 殿下は今、寝殿で沐浴なさっています。遠回りが面倒でしたら、私にお渡しください。」


私は梦无端と一言も余計に話したくなかったし、得意にさせるのも嫌だった。衣を抱えたまま、謝崧の寝殿へ向きを変えた。


梦无端はなおもぴったり後ろからついてくる。まったく、しつこい小鬼だ。


私は突然振り返って彼女に噛みついた。


「ついてこないで! これ以上ついてきたら、ただじゃおかないわよ。」


梦无端は仕方なく、その場から私が寝殿へ入るのを見送った。


どうやら隠すのは無理そうだ。でも今日の空が曇っているのを見て、私はある考えを思いついた。


道に水たまりがあった。私はわざと足を滑らせたふりをして、完璧な弧を描くように新しい衣一式を水の中へ投げ込んだ。


私の悲鳴を聞いた謝崧は、慌てて立ち上がって私を見た。


「どうした? どこか打ったか?」


私の心配なんかしてないで、自分の新しい衣を心配した方がいいんじゃない?


私は慌てたふりをして、あちこち衣を探した。


「さっき尚服局から届いた新しい衣が見当たらないわ!」


謝崧は水の中から、びしょ濡れになった袍を拾い上げ、ため息をついた。


すると突然、何かに気づき、私を呼んだ。


「この衣は、本当に尚服局から届いたものか?」


私が見ると、その袖口の内側には、なんと金糸で五本爪の金龍が二匹刺繍されていた!


でも、さっき私が衣を受け取って確認した時には、模様はちゃんと四本爪の蟒だった。どうして水に濡れただけで、大不敬の品になったの?


太子はあくまで太子だ。勝手に龍袍を着るのは大罪になる。


尚服局はぎりぎりの時間にこれを届け、わざわざ私自身に問題がないと確認させた。誕生日の宴で誰かに暴かれたら、無事で済むはずがない。


「じゃあ、今どうするの?」


「裁縫はできるか?」


私は謝崧を睨んだ。いくら私がふざけてばかりでも、何も学んでいないわけじゃないんだけど?


謝崧は寝衣を羽織り、古い礼服を取り出した。


「これに一つか二つ、継ぎを当ててくれ。目立ちすぎてもだめだが、まったく分からないのもだめだ。」




10



午後、宴へ向かう時、私と謝崧は古い衣を着ていたものの、身なりはきちんと整えていた。二着は形も模様も実際ほとんど同じで、ただ誰かに気づかれて聞かれるのが心配だった。


さっきまでは慌てていたせいで、謝崧と喧嘩中だったことも忘れていた。今こうして二人で静かに輿に座っていると、あの気まずい気持ちがまた湧いてきた。


私は何食わぬ顔で窓際へ少しずつ移動した。なのに空気の読めない謝崧は、車の揺れでこちらへ寄ってきても元へ戻ろうともせず、ぴったり私の隣に座ったままだった。


しばらくすると、膝の上に置いていた私の手が取られた。


細長い指が一本ずつ、閉じていた私の指の間へ入り込み、そのまま手を絡めた。


「どうしてあの腕輪をつけていない?」


「言われて思い出したわ。帰ったら姑母にもらった方をつける。何年も一緒だったから、外すと体中が落ち着かないの。」


謝崧は考え込むような顔をし、最後の一言をゆっくり繰り返した。


「何年も一緒だったから、外すと体中が落ち着かない。」


人の言葉を真似しないでよ。鳥肌が立ったじゃない!


何が言いたいのか分からず、私は横を向いて窓の外を見た。そのせいで、手を引き抜くのも忘れていた。


謝崧は私の手を引いたまま席へ着いた。私は主座にいる皇后の薄い笑みを一目見ただけで、ぞっとした。


謝崧の生母はとうに亡くなっている。皇后は本当なら何もしなくても皇太后の座に就ける。


謝崧が即位しても、谢翊が即位しても、皇后の地位は同じだ。それなのに、どうしてこんなに手間をかけて何度も謝崧を陥れ、どうしても太子の座から引きずり下ろそうとするのだろう?


本当に分からない。謝崧が皇帝になったら嫡母である自分を認めないと恐れているとか? まさか母殺しまでやるとでも?


謝崧の古い衣はきれいに保管されていたので、その場で古着だと気づく者はほとんどいなかった。歌や舞が次々披露され、皆くつろいで楽しんでいた。


秋の狩り以来、病気を理由に朝廷へ出ていなかった谢翊まで、謝崧に三杯酒を勧めた。


謝崧はかなり飲んでいた。私は袖を引いて、もうほどほどにするよう合図したが、彼は私の手の甲を軽く叩き、大丈夫だと示した。


酒が三巡した頃、ついに誰かが本性を現した。


一人の宮女が謝崧に酒を注ぐ時、手を滑らせて彼の袖にこぼした。


彼女はすぐ跪き、頭を下げて謝罪した。わざと大きな騒ぎにしようとしているようで、私たちが立つよう言っても、ひたすら頭を下げて詫び続け、ひどく怯えているふりをしていた。


高い席の皇后が口を開いた。


「今日はめでたい日なのに、どうしてそんなに不注意なの。早く太子の袖をきれいにしなさい。」


その宮女は膝で進み、謝崧の袖をつかんで手巾で拭き始めた。


拭きながら何度も裏返して見るが、どこにもおかしな模様が見つからない。額にはだんだん汗が浮かんできた。


私は冷ややかに、動かなくなった彼女を見た。親切心で逃げ道を与えてやった。


「もういいわ。今回はここまで。下がりなさい。殿下の気分を悪くしないで。」


皇后は左右を見ても、まだ何が起きているのか分からないらしく、さらに煽った。


「どうして手を止めたの? まさか何か恐ろしいものでも見つけたのではないでしょうね?」


宮女は青ざめた顔で首を振った。


これには皇帝まで不審に思った。


「何を見た? なぜそんな顔をしている。正直に申せ!」


宮女は覚悟を決めて言った。


「り……龍が……!」


私が嘘をつく時にも、これくらい確信を持てたらいいのに。


謝崧は信じられないという顔で宮女を見た。


「何を言っている? 皇室を中傷すれば一族皆殺しの罪だぞ!」


皇后は袖でそっと口元を隠し、李公公に前へ出てよく確認するよう命じた。太子の潔白を損なってはならない、と。


李公公は陰険な笑みを浮かべて前へ出た。「殿下、失礼いたします」と嫌味ったらしく言い、謝崧の袖をつかんで何度も裏返して調べた。


だが、ないものはない。今度は彼の方が汗をかき始めた。


李公公は宮女の頬を平手打ちした。


「どこの賤婢だ! でたらめを言って人を陥れようとは。龍などどこにある! 毒茸でも食べて目が霞んだのか!」


宮女は対応が早かった。


「はい、はい! 奴婢は今夜、茸の汁物を一鍋食べました。そのせいで殿下に酒をこぼし、目まで霞んで袖の模様を見間違えたのでございます。本当に悪気はありませんでした。陛下、命だけはお助けください。殿下、お許しください!」


皇后はすぐに、この宮女を引きずり出して打ち殺せと命じた。


だが謝崧は言った。


「今日は儿臣の誕生日です。血を見るのはよくありません。それに、この宮女は故意ではない。宮から追放するだけでよいでしょう。」


皇帝は明らかに不満そうだったが、それでも言った。


「すべて崧儿の言う通りにせよ。」


宮女が連れ出された後も、宴は続いた。


皇后はようやく謝崧が衣を替えていることに気づき、笑顔で聞いた。


「さっきの騒ぎがなければ、太子が古い衣を着ていることにも気づかなかったわ。今夜を越せばまた一つ歳を取るというのに、なぜ新しい衣を着ないの?」


謝崧は予想していたらしく、慌てることなく立ち上がった。


「近頃、儿臣と太子妃の間には些細な行き違いがございました。反省していた折、府庫で妃が自ら繕った古い衣を偶然目にし、心から申し訳なく思い、感慨を覚えました。


「一針一針に、妃の深い情が込められております。本日の誕生日、儿臣があえて新衣を着ないのは、この古い衣を借りて悔いを示すためです。妃が寛大な心で前のわだかまりを解き、誤解のために共に過ごせる時間を無駄にしないでくれればと願っております。」


私はてっきり、倹約こそ家を治める基本だとか、そんな立派な話をするのだと思っていた。まさかこんな「真情あふれる」芝居を始めるとは。新しい衣に問題があったと知らなければ、私まで本気で騙されていたかもしれない。


だが、その言葉は皇帝の胸に深く刺さったらしい。


宮中の誰もが知っている。皇帝と太子の生母は誤解のせいで十年もの間、一度も会わなかった。ようやく誤解が解けた時、その妃はすでに死の床にあり、結局二人はすれ違ったままだった。


皇帝の顔には安堵と悲しみが入り混じっていた。謝崧の話を聞き終えてからもしばらく呆然とし、やがて無理に笑った。


「我が子よ、よく分かったものだ。では太子妃、お前は彼を許すつもりか?」


私はもう何を言えるだろう。無理やり涙を二滴絞り出し、感動したふりをして謝崧の手を取り、きれいな建前を一通り述べた。


宴の人々は次々に杯を上げて祝った。重かった空気はすっかり消えた。


皇帝は二杯酒を飲んだ後、ふと思い出したように言った。


「そういえば、この太子妃は朕と嫣儿の恩人でもある。彼女がいなければ、朕は死ぬまで、お前の母妃がまだ朕を恨んでいると思い込んでいたかもしれぬ。」



11



私は幼い頃、とてもやんちゃだった。大切に育てられていた谢翊まで連れ回し、鶏を捕まえたり犬を追い回したりして、一日中騒ぎを起こしていた。とうとう母を本気で怒らせた。


母は毎日、礼仏を口実に私を仏堂へ預けた。でも私はそこでも大人しくできず、あちこち歩き回った挙げ句、髪を下ろさずに修行していた純妃と出会った。


純妃は私を大人しくさせるため、物語を聞かせてくれた。この世で最も尊い男が、一人の歌女と激しく愛し合いながら、深い情があるのに縁は薄かったという話だった。


後の上元節の灯会で、天子も民と共に楽しんでいた時、私は一人の中年男が花灯の前で足を止めているのを見た。純妃の話にも花灯が出てきたことを思い出し、その物語を彼に話して聞かせた。


後で母から聞いたところ、その夜、皇帝はすぐ寺へ純妃に会いに行き、翌日には宮へ迎え戻す勅命を出したという。だが純妃は突然重い病に倒れ、治らないまま亡くなった。宮へ戻ることすらできなかった。


皇帝は宴の席で、その話をゆっくり語った。目には涙が浮かんでいた。


だが私ははっきり見た。謝崧の手は強く拳を握りしめ、青筋が浮かび、必死に何かを耐えているようだった。


考えてみれば、謝崧は実の母を一日たりともまともに見たことがないようなものだ。そのうえ両親の愛の不幸のせいで、ひどく無視された幼少期を過ごした。


皇帝がこの大皇子を狂ったように溺愛し始めたのは、純妃が亡くなってからだった。十歳で王に封じ、自分の府まで与えた。


なるほど、だから今日の謝崧は感情に訴える方法で窮地を抜けたのだ。これでは皇后も作り笑いをするしかなく、何も言えない。


謝崧は芝居を最後までやり切るつもりらしく、人前では二度と私の手を離さず、そのまま手を引いて東宮まで戻った。


ところが門を入るなり梦无端が迎えに出てきた。酔い覚ましの汁物を用意してあり、酔った人の世話には慣れているから私に苦労をかける必要はない、と言った。


そう言って彼女は手を伸ばして謝崧を引こうとした。だが謝崧は彼女が見えていないかのようにその横を通り過ぎ、私の手を引いたまま部屋へ戻った。


梦无端が悔しそうに唇を噛むのを見て、私は胸がすっとした。そのまま気づけば謝崧と同じ寝台に横になっていた。眠りに落ちる時、四更の太鼓を聞きながら、少し腹立たしく思った。


後になって私たちはあの宮女を探し、黒幕を吐かせようとした。だが関係者は李公公を除いて皆きれいに死んでおり、何の痕跡も残っていなかった。


誕生日の宴の後、私はまた東宮のあちこちで悪さをする日常へ戻った。


寒さが過ぎ、暑さが来て、また一年が経った。


だが今年は雨季が早く始まり、しかも長く続いた。江南では三か月も日が差さず、川や湖が氾濫して広大な田畑を壊した。少し前には大水で堤防まで決壊し、多くの民が家を失った。


朝廷は救済用の食糧を出し、謝崧が流民の救済を担当することになった。


母は金陵に住んでいる。私は心配でたまらず、無事を知らせる手紙も届かないので、謝崧に同行させてほしいと頼んだ。


私は幼い頃から南北二つの都を行き来していた。姑母は妊娠してからずっと寒さに弱く、冬になると耐えられなかったため、南京の旧宅で養生しながら出産を待っていた。


その頃、母も私を妊娠していた。二人の妊婦は一緒に暮らし、互いに面倒を見られるようにしていた。


だが姑母は谢翊を産んで間もなく亡くなった。太医は二皇子の体が弱く、都へ戻るのは難しいと言ったため、彼は私と一緒に金陵で五歳まで育った。夏は北京、冬は少し暖かい南京へ戻って体を養わなければならなかった。


だからこの二つの都を結ぶ道なら、私は謝崧よりずっと詳しい。どの道が平坦で、どの道なら山賊や流寇を避けられるかも知っていた。


ただ今回だけは、なぜか金陵に着くと吐き気とめまいがした。謝崧は公務があるため、私を許家の旧宅へ置き、自分は役所に泊まり込んで何日も帰ってこなかった。


そんなある晩、私は口と鼻を塞がれ、そのまま山へさらわれた。




12



目を覚ました時、周りから人の声が聞こえた。皆、土地の方言で話していた。私はまだ気を失っているふりをして盗み聞きした。


どうやらこいつらは謝崧の救済食糧を奪って山へ持ち込んだらしい。謝崧は官兵を率いて山狩りをしており、彼らは人質を取って謝崧を脅そうと考え、私をさらってきたのだ。


私も幼い頃から金陵で暮らしていたことを彼らは知らない。私には方言が分からないと思い込み、鐘のような大声で、まるでわざと聞かせるように話していた。


私はそのまま気絶したふりを続けた。すると会話の中に新しい人物が出てきた。


「西山の李大が来て初めて分かったんだ。俺たち、あいつらと宦官の取引を横取りしちまったらしい! この食糧を俺たちが奪わなくても、李大の寨が奪ってたんだ!」


「李大も言ってた。食糧を奪ったことは大した問題じゃない。問題は俺たちが人までさらったことだって。太子妃を引き渡せば、太子は今回のことを追及しないってさ。」


宦官? 李大?


東廠と東宮はもともと仲が悪い。それに謝崧がこの一味の仕業だと知っていたなら、とっくに人を連れて山へ上がり、一網打尽にしているはずだ。こんなこそこそ協力を持ちかける必要がある?


私は少しだけ物音を立てた。


向こうではまだ盛んに話していたが、一人分の足音だけが私のそばへ近づいてきた。


大きな手が私の頬を二度軽く叩いた。


「起きたか?」


私は目を開けると、すぐ涙を落とした。


「大哥、私を引き渡さないで。あの王侯貴族たちはみんな狡猾で、言ったことなんて屁とも思ってないの。私たち江湖の者みたいに義理を重んじたりしない……」


目の前の髭だらけの大男が「ほう」と返した。


「どういう意味だ?」


「あなたたちがあの宦官と裏で取引して、たとえ私を返したとしても、向こうが大人しく引き下がるわけがないわ。あの宦官の背後にいる東廠は腐敗しきっている。今回の救済食糧まで見つけられたら、堂々と横領する口実を与えるだけ。そうなれば、民は苦しんだまま、一杯の粥すら飲めない。」


彼が考え込んだのを見て、私は金陵の方言に切り替えて話した。


「私は小さい頃から金陵で暮らしてきた。同郷の人たちが苦しむのは見ていられない。大哥たちもきっと生活に追われて山へ入ったのでしょう。していることは、金持ちから奪って貧しい者を助ける善行じゃない。


「義を肩に担ぐなら、私があなたたちの手元にいる限り、向こうも軽々しく動けない。その間に食糧を民へ配れば、本来の志も守れるし、あの害虫どもに民の命綱の食糧を飲み込まれずに済む。どう思う、大哥?」


大男は私の話を持ってほかの山賊と相談し始めた。今度はさすがに私から離れて話していた。私は彼らが長いこと言い争い、結局は何か起きるのを恐れていることしか分からなかった。


今になって相手が厄介だと分かったの? 食糧や人を奪う時にはどうして分からなかったのよ。


私はため息をついた。


「皆さん、災害は待ってくれない。民も待てないのよ。」


「じゃあ、俺たちが食糧を配っている時に、あいつらが兵を連れてきて俺たちを捕まえないって保証できるのか?」


本当にできる。


私は言った。


「皆さんには少しだけ我慢して、役人のふりをしてもらうしかないわね。」



13



私は謝崧に手紙を書き、宦官が朝廷の官吏でありながら山賊と結託していると訴えるよう伝えた。謝崧は西の寨へ李大を捕らえに行った。


宦官の方は証拠を消すのに忙しく、こちらへ手を出す余裕もなかった。


私は山賊たちに山を開放させ、流民を山へ受け入れた。


私たちは官府を名乗って救済食糧を配り、流民の住む場所も整えた。不思議なことに、倉を開いて食糧を配ったその日、雨まで止んだ。


一人の野医者が自ら傷ついた者のために薬を煎じていた。私は彼に粥を一碗持っていった。彼は両手で受け取ると、私の手首の腕輪を見て一瞬固まった。


「阿伯、この腕輪をご存じなの?」


「これ自体は知らん。ただ、昔やった一つの後ろめたいことを思い出したんだ。そのせいで後半生ずっと良心に責められてきた。だから各地で医者をし、無料で処方を出して、罪滅ぼしをしている。」


その野医者の話では、若い頃、ある者が彼を訪ね、大金を渡して、一人の妊婦の胎を守るよう頼んだという。


その人物は処方箋を一枚渡し、必ずその通りに薬を煎じろと命じた。だがその処方は胎を守る薬などではなく、長く飲めば体に大きな害を与えるものだった。


当時、医者自身の家で問題が起き、どうしてもその金が必要だったため、仕方なくその夫人の胎を診ることになった。ただし量だけは少し減らし、その夫人があまり早く死なないようにした。


私の腕輪を見て、彼はその夫人を思い出したのだという。彼女もいつも、よく似た腕輪を身につけていたらしい。


私は胸の中でぎくりとした。この人、まさか当時、姑母の体を診ていた府医じゃないでしょうね?


私は、当時渡された処方箋をまだ持っているかと尋ねた。


彼はうなずいた。


私はその処方箋を譲ってもらった。胸の中は複雑だった。もし当時彼が断っていたとしても、裏にいる者はきっと別の人間を探して同じことをさせただろう。


彼にまだ良心が残っていて量を減らしたからこそ、谢翊は生まれることができたのかもしれない。姑母と皇子が私の家で命を落としていたら、その責任を誰が負えただろう?


世の中の裏側というものは、本当に深く考えない方がいい。事情を一つずつたどるだけで、恐ろしくなる。


そんな取り留めのないことを考えながら、私は大きな杓子で粥をかき混ぜていた。そこへまた一人やって来たので、一碗よそって渡したが、その人はその場を動かなかった。


不思議に思って顔を上げると、ようやく謝崧が探しに来てくれたのだった。


私は緊張しながら言った。


「この大哥たちはみんないい山賊なの。今はほとんど私が招安したようなものだから、捕まえさせないで。」


謝崧は言った。


「捕まえない。」


「じゃあ今度こそ、あの憎たらしい宦官たちは逃げられないわよね? 山賊と結託して横領していた人証も物証も全部見つかった?」


「見つかった。」


胸につかえていた二つの大事がようやく片づき、私は一時何も言えず、俯いたまま黙った。


ふと見ると、彼の靴は泥だらけで、衣の裾も汚れ、元の色すら分からないほど乱れていた。


謝崧がこんなにぼろぼろな姿をしているのは初めて見た。


私は薄情にも笑ってしまい、白花花が泥沼を転げ回った時みたいだとからかおうとした。その瞬間、腰を引き寄せられ、体ごと謝崧の腕の中へ抱き込まれた。


周りに座っていた民たちは、この数日私とよく話し、冗談も言い合うようになっていたので、今度は声を揃えるように面白がって囃し立てた。


「太子妃はこんなにいろいろ心配するのに、どうして私のことは少しも心配しない?」


謝崧の声は少しかすれ、ひどく疲れているように聞こえた。


私は心が柔らかくなり、反射的に強がりを言いそうになるのを飲み込んで、素直な言葉を返した。


「では、太子殿下はご無事でしたか?」


「ああ。」謝崧の声に、ようやく少し笑みが混じった。


謝崧が私を連れ帰った後、後のことはすべて彼が引き継いだ。


母は私がまだ元気に動き回れるのを見ると、たちまち涙を流した。何も言わず、ただ私を抱きしめて背中を軽く叩いた。


少し落ち着いたのを見てから、私は昔、姑母と一緒に妊娠中を過ごしていた頃のことを尋ねた。


母は少し思い出してから言った。


「当時、あなたの姑母には専属の太医がついていたの。胎を守る薬も姑母だけ別のものだったから、私たちが特別に何か手配することはあまりなかったわ。」


「どの太医? 今も宮中にいるの?」


「たしか杨真という名前だったと思うけれど、今も宮中にいるかまでは分からないわ。」


謝崧と都へ戻る途中、私はあの処方箋を出して彼に見せた。


謝崧はその字を見た瞬間、顔色を変え、どこで手に入れたのかと尋ねた。


私は野医者の話を謝崧に聞かせた。聞き終えた謝崧は、険しい顔で言った。


「母妃の遺品を整理した時、私もこの筆跡を見たことがある。」



14



杨真という太医について、謝崧は都へ戻るとすぐ調査を始めた。


宮中の太医院には確かにその名の者がいた。しかし二十年前に江南へ行ったきり、二度と戻っていなかった。


謝崧は彼が今も江南にいるとは信じず、都中を探させた。するとついに、京郊の村で本人を見つけた。


杨真にはあまり気骨がなく、少し脅されただけですべての経緯を自分から吐いた。彼と皇后の側近の大宮女は同郷で、その宮女が太医院で彼を見つけ、仲間に引き入れたのだという。以後、皇后のために宮妃や皇子を害する手先として働いていた。


南京での一件の後、皇后は露見を恐れ、彼に宮へ戻らず京郊で待機するよう命じた。


最後に手を下したのは、皇帝が純妃を宮へ迎え戻そうとした時だった。皇后の命令はたった四文字だった。


「彼女を急死させろ。」


謝崧はすべての証拠を皇帝の前へ提出した。皇帝は激怒し、皇后を廃する勅命を出した。


謝崧は戻ると、自分を書斎に閉じ込め、誰にも会わなかった。


谢翊は少し噂を聞きつけ、何が起きたのか確かめるため訪ねてきた。私は止められず、彼はそのまま書斎へ入った。兄弟二人は日が暮れるまで話し込んだ。


谢翊が出てきた時、目は真っ赤で、ひどく泣いた後のようだった。


私は彼の車椅子を押して外へ出し、肩を軽く叩いた。馬鹿な子だ。ここ数年、嫡母が本当に自分を大切にしていると思い込み、謝崧と無駄に張り合っていたのだ。


彼が脚を折ったのは、謝崧が太子に封じられたと知った後だった。


自分は体を養わなければならないだけで、ほかのことでは謝崧に劣っていないと皇帝に証明したかった。狂ったように獲物を追い、興奮した鹿に馬の脚を折られ、自分も馬から落ちた。


それ以来、彼はますます自分の体を嫌うようになった。


谢翊は遠くを見つめた。視線はぼんやりしていたが、突然、軽く素早く言った。


「葵儿、それでも俺はお前に礼を言わなければならない。」


「どうして?」


「あの日、狩場の刺客を手配したのは俺だ。


「お前が異変に気づいて、謝崧が俺と一晩中話してくれなかったら、俺は皇后の刃になって、自分の母を殺した仇のために実の兄弟を害していた。」


私はようやく意味を理解し、後から恐ろしくなった。腹を立てて手を離し、自分で車輪を回させた。


「そんな話、聞きたくない。帰って。」


私は書斎の前へ戻った。梦无端が湯気の立つ粥を一碗持ち、心配そうな顔をしていた。


「殿下はもう一日何も召し上がっていません。私にも会ってくださらなくて。姐姐、これを持って行って差し上げませんか?」


「そこに置いて。」


梦无端は粥を置き、礼をして下がった。


私は書斎の扉を叩いた。


「謝崧、入れて。」


中の謝崧は物音一つ立てず、まるで死んでいるようだった。


私は大声で叫んだ。


「入れてってば!」


謝崧の足音が近づき、その後、扉に鍵を掛ける音がした。


さっきそのまま押し入ればよかった。


門前払いを食らい、私はあの粥をちらりと見た。見れば見るほど嫌な感じがして、まるで毒でも入っているように思えたので、莲笙に持って行って捨てさせた。


謝崧が何も食べていないので、私も食べなかった。だが私は耐えられず、目の前が真っ暗になり、書斎の前で空腹のまま気を失った。


目を覚ますと、部屋いっぱいに料理の香りが漂っていた。


謝崧は何事もなかったように私の寝台のそばに座っていた。


「腹が減ったか。先に食べよう。」


どこかで見たような光景だった。


「もう大丈夫なの?」私は彼の回復の早さに驚いた。


謝崧は鼻を軽く触り、少し照れたように笑った。


「嬉しいんだ。」


「変なの。」


どうやら謝崧は相変わらず、私に謎かけをするのが好きらしい。どうせ聞いても言わないと分かっていたので、それ以上追及しなかった。


食事の途中、莲笙が突然駆け込んできた。


「殿下、側妃が首を吊って自害しました!」


「死んだの?」


「息がありません。」


私はすぐ謝崧を見た。梦无端の死を私のせいにされるのではないかと怖かった。


だが謝崧は特に反応せず、淡々と言った。


「分かった。葬儀は決まり通りに進めろ。」


莲笙はその場から動かず、言いにくそうに続けた。


「もう一つ……白花花も死にました。」


「何ですって?」


私は急いで莲笙に案内させた。餌槽には食べかけの粥が残っていた。


銀の針を差し込むと、たちまち黒く変色した。


「誰が食べさせたの?」


莲笙は跪いた。


「奴婢は、捨てるくらいなら豚にやった方がよいと思っただけです。まさかあの者が、殿下に差し上げる粥にまで毒を入れるほど大胆だったとは……」


謝崧は私をなだめた。


「動物なら、また飼える。怒って体を悪くするな。」


「あなた、ずっと前から梦无端に問題があるって知ってたの? どうしてもっと早く処分しなかったの?」


謝崧が答える前に、私はもう答えが分かってしまった。


酒の匂いをさせながら私の窓をよじ登ってきたあの夜、謝崧が言っていた言葉を思い出した。


きっと謝崧は、若い頃に支え合って苦労した情を忘れられず、梦无端に何度も機会を与えてきたのだろう。残念ながら、彼女は一度もそれをつかまなかった。


もし今回、梦无端が罪を恐れて自害しなかったなら、これから先も謝崧は同じように機会を与え、何度も何度も彼女を許し続けたのかもしれない。



15



子どもの頃から、母には「お前は考えるのが嫌いね」と笑いながら叱られてきた。


でも私の頭は本当にそういう作りなのだ。何か深く考えなければ分からないような問題にぶつかると、私は考えること自体をやめてしまう。


嫁ぐ前、母は私に言った。宮へ入れば家にいる時とは違う。何をするにもよく考えなければならない、と。


ところが私は宮中でうっかり騒ぎを起こしても、一度も責められなかった。謝崧は何も言わず、皇后はむしろ煽って甘やかした。


私が間違ったことをしたなら、本当は誰かが代償を払わなければならない。


無実の宮女が私の代わりに罪をかぶるのを見て初めて、私は宮中の複雑な関係を少しずつ理解した。父と子、母と子、夫婦、兄弟……。


そしてようやく、私は皇后が謝崧に面倒を起こすために置いた駒だったのだと知った。気づいた時には、もう引くに引けず、そのまま続けるしかなかった。


なぜなら謝崧は、私が何のために置かれているのか、最初からはっきり知っていたからだ。


謝崧が私を許してきたのは、梦无端を許してきたのと同じだった。


彼は、そばにいる人間が自分に何をしようとしているのか全部分かった上で、冷静にそれを放置する。そして最後には互いに潰し合うところまで進ませる。


彼は岸の上に立ったまま、すべてが自分の予想通りに起こるのを見ている。


私はずっと、いつから自分の謝崧への気持ちが変わったのか考えたくなかった。


謝崧が本当は何を考えているのかも、推測したくないし、尋ねたくもなかった。


分からないまま、なんとなく日々をやり過ごしていた。


私は謝崧の説明を聞きたくなくて、扉も窓も全部閉めた。


側妃が一人死に、宮中は上から下まで慌ただしくなった。夜になって静かになったのを確かめると、私は小さな包みを一つ作り、窓から抜け出した。


さすがに父の屋敷や金陵の家へ戻るほど馬鹿ではなかった。


私は小舟に乗り、自分でも聞いたことのない名の船着き場で降りた。身につけていた宝飾品を売り払い、山野で暮らし始めた。


山の中で一か月、自力で生きてみたら、危うく餓死するところだった。


幸い、娘時代に母が何でも少しずつ学ばせてくれていた。読み書きも裁縫もできるので、本当に鍋の蓋も開けられないほど困窮することはなかった。


毎日満足に食べられないのだから少しは痩せると思っていたのに、なぜか体はどんどん丸くなり、腹は球のように膨らんできた。


そこでようやく、自分が妊娠していることに気づいた。


日数を数えると、金陵へ行ったあの頃にはもう兆候があったのかもしれない。


子が八か月になった頃、皇帝が崩御し、国中が喪に服した。


太子が即位した。民心も彼にあり、異議を唱える者はいなかった。


私は毎日、不安で仕方なかった。父を私が同じ舟に乗せてしまい、謝崧を弾劾する上奏文もかなり出させた。もし彼が私たちに報復したらどうしよう?


私は手紙を書いて人に託し、父へ渡してもらった。早く逃げれば早く楽になる、国喪が明けて謝崧が清算を思い出した時には、本当に逃げられなくなる、と。


でもまさか、父が私に黙って二股をかけ、風向きを見て立場を変える人間になっていたとは思わなかった。



16



謝崧が私を見つけて訪ねてきた時、私は油灯の下で銅銭に紐を通していた。


ここへ来たばかりの頃は金銭感覚がなく、うっかり持っていた金を使い切り、役に立たない物をたくさん買ってしまった。


ドンドンドン、と扉を叩く音がした。


私は声を張った。


「誰?」


すると、叩く音がぴたりと止んだ。


不審に思い、隙間から様子を見ようとしたその時、外の人間が突然、力任せに扉を蹴り始めた。


私は仰天し、油灯を吹き消した。窓台に一つ足跡を残し、それからすぐ、普通なら目につかない壁際の隅へ隠れた。


田舎の木戸が長く耐えられるはずもない。侵入者は灯りを一つ持って部屋へ入り、ぐるりと中を見回した。


誰かが言った。


「陛下、窓台に足跡があります!」


陛下? 陛下は亡くなったはずじゃ……。


そこでようやく意味が分かり、私はさらに体を小さくした。


終わった。謝崧は本当に、私を清算しに来たんだ。


謝崧の声は、何とも言えないほど冷たかった。


「八か月を過ぎた腹で、二階の窓から飛び降りて逃げたと言うのか?」


周りは完全に静まり返り、誰も息すら大きくできなかった。


その沈黙を、命知らずな声が破った。


「陛下が突然扉を蹴って驚かせなければ、私たちがうまく騙して出てこさせることもできたのですが。」


この声、聞き覚えがある——莲笙じゃない?


やっぱり私と長く一緒にいたせいで、度胸までついたらしい。


「追え。」


謝崧が命じると、一団はまた慌ただしく私の部屋から出ていった。


灯りがだんだん部屋から遠ざかるのを見て、私はほっと息をつき、隅から這い出した。


そして、一人の人間にぶつかった。


その身から沈香の匂いがした瞬間、私は死にたくなった。すぐに跪いて罪を請うた。


「へ、陛陛陛下、私が悪うございました——」


最後まで言い終える前に、謝崧は私を引き起こし、そのまま外へ引っ張っていった。


つかまれているのが不快で、私は反射的に我儘を言った。


「放してよ、自分で歩ける!」


「ああ、お前は自分で歩けるな。いっそ脚を折ってやりたいくらいだ。谢翊を見ろ。脚が折れていても大人しく生きている。」


私は怖くなり、一瞬で黙った。


階下では莲笙が迎えに出て、私を支えようとした。私は拒まなかった。


莲笙がこっそり耳元で言った。


「殿下、ご心配なさらず。陛下は怒り過ぎているだけで、本当に脚を折ったりはいたしません。」


どうして怖がらずにいられるの! こんな謝崧は初めて見た。


理性という糸がぴんと張り詰めていて、次の瞬間には切れ、そのまま何かとんでもなく恐ろしいことをしそうだった。


私は輿の中へ押し込まれた。幸い、謝崧は一緒には乗ってこなかった。


莲笙は何度も、謝崧が母を殺して子だけ残し、そのうえ私の一家まで皆殺しにすることは絶対にない、と保証した。父はとっくに太子側についており、それも私が太子に嫁ぐ前からだったという。


「じゃあ、私が昔やったあれこれも、彼は後から精算したりしないわよね?」


莲笙はまさかの長い沈黙の後、答えた。


「それだけは保証できません。ご自分で陛下にお尋ねください。」


今夜の騒ぎのせいで、私は輿の中で破水した。莲笙は慌てて降り、産婆を連れてきた。夜明けまで大騒ぎした末、真っ赤でしわしわの小さな子を産んだ。


その間、謝崧は何度も私を見に来ようとしたが、全部莲笙に止められた。


私は宮中へ運び戻された。意識がぼんやりしている中、突然母の声が聞こえた。温かく乾いた手が私の額を撫でた。


「馬鹿な子ね。苦労もないのに、自分から苦労を背負って。」



17



体の痛みは、母が丁寧に世話してくれたおかげで少しずつ消えていった。母が布を洗って私の顔を拭くのを見ながら、私は結局我慢できずに聞いた。


「母上、『苦労もないのに自分から苦労を背負う』って、どういう意味?」


母は細い指で私の額をつついた。


「お前は一生馬鹿なままだったのに、急に少し賢くなったと思ったら、半分しか分かっていない。ずっと馬鹿なままでも、全部きちんと分かっていても、自分からこんな苦労はしなかったでしょうに。」


どうして母まで謎かけをするの?


私は訳が分からない顔をした。


「母上、分からない。」


母は言った。


「そう、そのまま陛下に聞きなさい。分かるまで聞けばいいの。」


夜になり、母が自分の部屋へ休みに戻ると、黒い袍を着た謝崧が入ってきた。隣には、襁褓に包まれた赤子を抱く乳母もいた。


乳母はまず子を私に抱かせてくれた。私は静かに眠る小さな子を見て、歯を見せて馬鹿みたいに笑った。とうとう起こしてしまい、子は手足をばたつかせて泣き出した。


乳母が子を抱いてあやしながら出ていき、部屋には私と謝崧だけが残った。


私は言った。


「結局、あなたはどういうつもりなの? 私には分からない。」


謝崧は緊張したように唾を飲み込んだ。


「私は、お前がもう私の気持ちを分かっていると思っていた。まさか、ここまで深く誤解していたとは思わなかった。お前と梦无端に対する気持ちは、決して同じではない。


「確かに彼女と知り合ったのはお前より先だ。だが私は彼女を愛していない。男女の情など少しもない。谢翊が私をお前のところへ連れていった時、初めてお前を見た。お前は梨の花が咲く木の下に立って、私に笑いかけた。もしかすると、あの時から私はお前を好きになったのかもしれない。


「梦无端と一緒にいた頃、私たちが考えていたのは、一つの饅頭、一碗の薄い粥、一片の銀だけだった。彼女には彼女の苦しみがあり、私には私の苦しみがあった。私たちはほとんど笑わなかった。でもお前と一緒なら、使い走りにされていても楽しかった。


「後に梦无端が皇后の指示を受け、父皇への憎しみを煽るようになって、私は彼女に問題があると気づいた。彼女が提案した通り隠し通路を造ったのも、あの者たちを罠にかけるためだった。私が何度も彼女を許したのは、昔一緒に苦労したことがあり、友人だと思っていたからにすぎない。」


ただの友人だなんて、そんな話を私は信じなかった。


「じゃあ、あの肖像画は何だったの?」


「彼女を尾行していた者は、ほかの人間の顔を知らなかったからだ。お前は毎回、絵の中に彼女しかいないと思っていたが、実際にはそのそばに別の人間もいた。当然、誤解する。私はその誤解を利用した。だから皇后は梦无端を東宮へ嫁がせ、私は彼女を監視しやすくなった。」


謝崧がこんなにたくさん私に話したのは初めてだった。頭が追いつかず、私は小声で聞いた。


「要するに、どういうこと?」


謝崧は即答した。


「私はお前を愛している。彼女は愛していない。」


今度は分かった。


「だったら、もっと早く言ってよ。半年以上、私があれこれ考えて、ずっと怖がってたじゃない。


「私もあなたが好き! それならもういいわ!」




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