第十四話 才能の世界
ルメアの死から二年が過ぎた。
あれから自身のジョブについて、理解を深めるために色々とアビリティを試してみたり、稽古をし直した。
魔法関連のものは一切出来ないが、幾つか面白い要素を見つけた。
まず、「星運アップ」
これは場面に応じ確率が変動するが運気が上がるらしい。
だが、なぜ「星」というものが入っているのか分からなかった。
そして残り二つが特に面白い。
「汚名払拭」。
これは勇者という汚名(世界で嫌われていること)を振り払うと、いい事があるらしい。
具体的な利益はその場その場で報告が上がるらしい。
オレの予想では運気アップ、あわよくば身体機能回復などがあると思う。
最後の一つ。
「聖剣」。
先代勇者が扱ったとされる『聖剣』を世界で唯一、オレのみが引き抜くことができるアビリティだ。
その剣の行方は依然として不明だが近々捜索に出るつもりだ。
『聖剣』の能力について、父に尋ねてみた。
返答は無いと思っていたが、父は以前と異なり話してくれるようになった。
『聖剣』ハバギリ。
名前はあんまり好みでは無いが、能力が強いらしい。
魔王を倒せる剣で、魔属性に強く、あらゆる概念を断ち切ることが出来るチート武器らしい。
先代勇者はこの剣を用いて単独で魔王を撃破したとか、してないとか。
だが、その剣の効能が強すぎて封印されたとか、どこかに隠されたと言われている。
その剣が現れるのは次世代の勇者が現れる時、らしい。
自ずとやって来てくれるのなら助かるが……流石に無理だろう。
ちなみに、父が持っている杖のような剣について聞いても返答は帰ってこなかった。
いわく付きに違いない…………!!
ともかくオレは一つの目標を立てた。
「貧民街をいつ出ようか」
そう、旅立ちの時が来たのだ。
この三ヶ月、ルメアの死と向き合い、今後の自分についてよく考えた結果が貧民街を出ること。
父は特にこれと言って口出しするつもりはないようで、「頑張れ」の一言だけくれた。
しかし、一つ問題が生じた。
貧民街を出れば、恐らくオレは二度と帰っくることはないだろう。
良いも悪いもあるこの地に、度々帰って来ることなんてないからな。
故にここでもやることをやってから飛び立つ。
まず一つ、仲間を集める。
流石に単独行動は心もとない。
それに、勇者には仲間が必要不可欠なのをオレは知っている。
何より、外の世界で仲間を募るのは難しいと思う。
二つ目、カリスティア王国内に『聖剣』があるかどうかを確認する。
旅立って、実は『聖剣』が王国内にありました、なんてバカにならん。
そして、『聖剣』を手にした後は、勇者の汚名を払拭しながら魔王を倒す。
この世界には「マオウ」というふざけた国が存在する。
そこに腰を据える魔王を倒す。
魔王討伐が一番の汚名返上になるだろう。
加えて、魔王は実力ランク上位に位置している。
オレが討伐すれば、そのランクにはオレが居座ることになる。
「てなわけで、行ってきます」
「貧民街の者を仲間にしても意味が無いと思うが……」
「大丈夫、ちゃんと考えがあるから」
怪訝そうな顔をする父をよそにオレは丘を降りた。
仲間集めと言っても、父の言うようにロクな連中がいないだろう。
加えて、オレは勇者になってしまった。
殺されるか、逃げられるかのどちらかだ。
ならば、どうするか。
きっとルメアには思いつかない手段だろう。
「圧倒的な何かで、無理やり配下にすれば良い。その上で慈愛を注げば自ずと仲間になるはず」
暴力はやめておこう。
恨みを買って死ぬのはごめんだ。
ならば、恐怖が良いか。
はたまた、行き場のない奴隷状態にして、唯一の拠り所をオレに塗り替えるか。
この世界に綺麗事は通用しない。
力が無い人間には権利が無いと、散々言われた。
ならば、オレもそれを利用するまでだ。
「結局、どんな人物にも闇はある。純白のまま上に上がった人間は存在しない」
この百年分の叡智がそう語っている。
オレは仲間第一候補として、思い当たる人物がいたため、訪ねることにした。
※※※
こんな時、ルメアならどうするだろうか。
「やだ」
「そこをなんとか、ならないかな」
「むり」
「何でもする。土下座するから」
「いらない」
バタンと扉が閉められた。
とほほ……フラれたぜ。
関係がある人物とはラナのことだ。
久しぶりに会ったが、やはりキレイな子だった。
ルメアが以前、彼女はなるべく家から出たくないホームシックな子だと言っていた覚えがある。
ともなれば、なんとか引きずり出したいのだが……一時期引きこもりを経験した当時のオレがやめろと言っている。
「彼女は魔法使いだ。勇者パーティーには必要不可欠なんだよな」
白羽の矢が立ったことを名誉に、とか言っていたら水を掛けられた。
相変わらずオレは嫌われているのか、汚いからなのか、訝しむような表情を返された。
ともかく、彼女の手立ては後にしよう。
だが、彼女は何としても引きずり出す。
あんな風に過去に囚われた人間は──嫌いだからな。
その後オレは一人で、貧民街の奥の方へと向かった。
我が家は市井の入口から近い方にあるらしく、思えば貧民街の奥の方へと行ったことがなかった。
出会いを求めて、と思い足を踏み入れたのだが──。
「うぉ……こりぁ、ひでぇな」
自分が住んでいる場所がまだマシなことを思い知った。
貧民街の奥地は、飢餓に喘ぐ声が止まなかった。
明かり一つもない、まさに路地裏。
ゴミがあちこちに転がり、ネズミのようなげっ歯類が小さな鳴き声出しながら無数に走っていた。
そんな場所にはオレが貧民であることを知っているにも関わらず恵んでもらおうと受け皿を差し出してくる者が多かった。
心が痛い。
こういうもの達を無くすためにもオレは成り上がらなければいけない。
道中生気の無い子供の死体を幾つも見た。
ハエが集り、生々しい傷口にはウジが集っていた。
中には外傷を見受けられない子供もいた。
その大抵がやせ細っていたため、恐らくは……栄養失調だろう。
だが、時折体に奇妙な斑点が浮かんでいる子供もいた。
こんな場所だ。
感染症や、病気にもなりやすいだろう。
ロクな者がいない、どころか健康体の人がいない。
困ったなぁ。
「おらぁ! 大人しくしやがれ!」
「うぅ、誰か! 助けて!」
「お?」
とぼとぼと肩を落としているところに助けを呼ぶ声が聞こえてきた。
オレはすぐさまその声の方へと向かうため、正面の角を曲がった。
「父さん! 母さん!」
豚の丸焼きのようにして、矮小な少年を運んでいる大人が二人。
どちらも、ザンバラ頭に目が血走っている。
少年がこちらに気がつくと、何かを目で訴えてきた。
すぐさまオレはマナを右拳に集約させた。
あれから、マナの稽古をし直し、かつてほどでは無いが少し循環速度が速まった。
「あん? んだこの、ぐぁっ!」
「おい、どうし、がぁ!?」
二人とも顔面を殴りノックアウトした。
木の棒に絡められている少年の縄を取ってやると、彼は礼も言うことなくどこかに走り出した。
「え、ちょ」
有無を言わず、少年は走り出すと地面に倒れている大人二人の元へと駆け寄っていた。
一人は男性、もう一人は女性だ。
どうやら両親が死んでしまったらしい。
「またか……」
また両親が死んだ子だ。
また人が死んだ。
良くないことなのだが、オレは他人の死に慣れすぎているのかもしれない。
貧民街で暮らしてもうすぐで四年になる。
毎日誰かの絶叫が木霊することはもう、日常の一部になってしまった。
恐ろしいものだ。当たり前とは。
「今日はもうダメそうだ。明日にしよう」
そう思ってオレは踵を返した。
「──アレがムミョン、か」
オレの背中を誰かが興味深そうに見ていることにも気が付かずに。




