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①弱さ

『第1回イベント開催のお知らせ。NOT THE GAME第1回イベント【スライム大氾濫】が7月9日より開催されます。プレイヤーは過酷なイベントに備えて準備をして下さい』


 現実時間で7月8日の20時30分。

 いつもの様に時間を合わせてNOT THE GAMEにログインすると、いきなりウインドウが開いてイベント詳細が表示された。

 内容はこうだ。


 イベント期間:7月9日0時~7月10日23時59分まで


 イベント名:【スライム大氾濫】


 イベント詳細:エリア内で大量に増殖したスライムを駆除して、大氾濫の原因となっているスライムキングとスライムクイーンを討伐、貢献度1位を目指せ。


 目標:エリア内討伐達成率100%


 ペナルティ:討伐未達成率〇%に応じて貢献度の下から〇%のNPCまたはプレイヤーが死亡


 報酬:エリア達成率に応じた【エリア報酬】、世界討伐数に応じた【全体報酬】、個人貢献度に応じた【ランキング報酬】あり。


 明日からイベント開催。

 それは良いとして、現実世界が大混乱に陥っている状況でのイベント開催は阿鼻叫喚だろう。


 イベントウインドウが表示されている間、どうやらNOT THE GAME内の時間が止まっているらしく、東雲鈴音の姿もオイラの姿も無い。

 10分からカウントダウンする数字を眺めながら、思考を巡らす時間として、存分に有効活用させて貰うとしよう。


 NOT THE GAME内で死んだ人間は、数日のタイムラグの後に死亡する。

 俺が想定した中でも最悪中の最悪が当たってしまった。


 NOT THE GAMEのサービス開始から丸7日。

 時間にすると168時間後。

 日本時間の正午。

 NOT THE GAMEに起因する【死亡事件】が発生した。


 死亡者数は明らかになっていないが、億単位の人間が同時に死んだのではないかと言われている―――。


 今、世界のトレンドはNOT THE GAMEに支配されている。

 世界中の報道機関がNOT THE GAMEを取り上げ、お偉い教授様からインチキ電波雑誌の編集長まで。

 嘘か真か推測推論暴論を正論として垂れ流す状況が戻ってきた。


 世界中で最も多くの死者を出したと言われる某国では、今回の事件を地球上全てに影響を及ぼした人為的な大災害だと断定した。

 必ず犯人を見つけ出すのだと息巻いていたが、いつもの報道官とは別人になっていた。

 もしかすると、あの憎たらしい報道官も犠牲になったのかもしれない。


 そんな状況だ。


 多くの人々は、次に死ぬのは自分なのではないかと恐怖する―――。


 何せNOT THE GAMEという仮想世界には自分と瓜二つ…もう一人の自分とも言うべきキャラクターが存在していて。

 仮想世界でそのキャラクターが死ねば、現実世界の自分までもが死亡するのだ。

 特にプレイヤーではない者からすれば、あずかり知らぬ場所で自分の命運を握られている状況。

 途轍もない恐怖と、途方もない心労に襲われているのではなかろうか。


 決して広いとは言えないエリアの壁に隔てられているとは言え、近所に住む人間の恨みを買えば、NOT THE GAME内であっさり殺されてしまうかもしれないのだ。

 自分の命が、自分のコントロール下にないってのは、死を求めていない人間にとって、きっと怖い。

 なんてプレイヤーの俺には想像だけしか出来やしないが。


【死の瞬間】を目撃した人達にとって。

 その死に方が、あまりにも異常であった場合において。

 または死に方は異常でなかったとしても。

 目の前で人が死ぬってのは、マトモな精神に、これ以上なく最悪な衝撃を残した。


 特に串刺しやスライムによってドロドロに溶かされた場合の死の光景は印象が強く、食事が喉を通らないというポストをSNSで頻繁に目にした。

 それでなくても、通り魔事件に遭遇した人が、大量の血液を目にして精神的な負荷を受けるってのは、普通の反応だろう。


 俺だって、目の前で同級生が死んだのだ―――。


 まあ、俺の場合は死んだ鮫島凌に対して自業自得って気持ちもあり。

 NOT THE GAME内とはいえ、鮫島を殺した齋藤慎吾に対する同情心もあり。

 突然目の前で人が死んだのに、意外過ぎるほど落ち着き払っていた。


 そうなる可能性を想定していたのも大きいが。

 俺は自分が思うよりも、よっぽど薄情な人間なのかもしれない。

 大事な何かが欠落しているのかもしれない。


 恐怖を持てば、時として力になる。


 臆病さを持てば、時として大胆になれる。


 虚勢を張れば…そう、今の俺は、無意識に虚勢を張っている状態なのだろう。


 虚勢を張れば、時として勇気を抱ける。


 俺がしっかりしなければ。

 俺がブレずに立たなければ。

 俺が指針にならなければ。


 招木猫から拝命したリーダーという役職。

 俺みたいなモブには分不相応と言うしかないが。

 あの重荷は、絶対的に俺に必要な重荷だ。


 重い荷物は油断を消し去る。

 迂闊な自分に重心を与えてくれる。

 俺に決意を固めさせる。


 俺はNOT THE GAMEという理不尽が過ぎるサバイバルで、より多くの大切を守りながら生き抜いてやる―――。


 残り時間は10秒を切った。


 さあ、どんよりと薄暗い未来に向かって歩きだそうか。 

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