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㉜飼う

 3日目も間もなく強制睡眠に入る。

 オイラは招木猫の言いつけを守って、半分ぐらいは行動を共にした。

 やはり野良犬だけあって、協調性はあまり無いと言って良い。

 それでもフレンド登録もパーティ登録もしてパーティ通話が可能だったのと、オイラだけじゃ扉を開けられないから10分圏内からは離れていなかったように思う。


「そう言えば、オイラはどうやってNOT THE GAMEのゲーム機を着けたんだ?」


 NOT THE GAMEのゲーム機は、一人一人の頭のサイズに完璧に合っていると言われている。

 故にオイラのサイズに合ったゲーム機だってのは想像出来るのだが、犬の前足で頭に載せるってのは現実的じゃない。

 誰か人間に手伝って貰ったか。

 将又犬でも着けられる特別仕様になっているのか、ちょっぴり気になる所である。


「気になるんだぞ?だったら教えてやるんだぞ。まずゲーム機を地面に転がすんだぞ。そして自分も転がるんだぞ。ゲーム機を転がしながらコロコロ転がっていれば、運が良いとピッタリ頭に嵌るんだぞ。おいらは溢れんばかりにコロコロする才能があるからたったの3日で着けられたんだぞ。素晴らしい快挙なんだぞ」


「見たい。想像しただけで鼻血か出そうだよ」


 いや、既に鼻血は垂れているが?


「コロコロする才能って何だよ。人間様は長いお手々があるから一瞬だけどな」


「何だぞ?おいらの頑張りを踏み躙るなら事を構えるんだぞ?」


「事を構えるってまた…まあ、それはいいや。毎度毎度コロコロするのは大変だろう。ってな訳で相談なんだが、誰かがオイラを飼うってのはどうかな?そうすればログイン時間も合わせられるしさ。どうだろう?」


「それは名案だね。だがとても、本当に残念な事に、うちは父がアレルギー持ちだから飼えないんだ」


『あたしはペット禁止のマンションだから無理にゃ。飼うならナルキンにお任せするにゃ』


「え…?俺…?うちだって…。まあ、不都合は無いけれども…?」


 母親は専業主婦だし、これだけ頭の良い犬だったら躾の大変さも皆無だろう。

 見た目だけはトップオブトップだし、飼えばモフり放題だし。

 うちで飼うのもやぶさかではないな。


「話を勝手に進めるんじゃないんだぞ!おいらは誇り高き野良犬なのだぞ!保健所職員という追っ手を掻い潜って生きてきたおいらを飼えると思ったら大間違いなのだぞ!」


「何で保健所に追われてんだよ…でもそうか…」


 オイラの言う事も一理ある。

 犬を飼うのなんて、犬の意志を無視した人間のエゴでしかないからな。

 人間に手厚く扱われて何不自由無く一生を終えたい犬も少なくない数いるのだろうけれども。


 犬の真意とかわからんけど。


「だったら折衷案だ。うちを宿代わりに使うってのはどうだ?朝俺が起きたら外に出してやって、夜暗くなったら帰ってくる。飯はこれまで通り好きに食べて、足りなきゃ出してやらんでもない。丁度ログイン時間を合わせたいから、夜だけでもいてくれると都合が良いんだよ」


 自由を愛する野良犬の生態なんてわからないが、行動範囲は限られているだろう。

 野晒しで寝たり、冬なら寒さを凌ぐ為に寝床を探すぐらい、オイラぐらい知能があれば過不足無くやるんだろう。

 だがそれをNOT THE GAMEで意思疎通の取れる俺の家にするってのは、オイラにとっても大きなメリットになる筈だ。


 うちの親は妹が留学行ってて寂しいとか言ってるから、オイラが来るのは大歓迎だろう。

 と思いたい。


「そうなんだな…」


 即座に拒否しないって事は、検討に値する提案が出来たって事だろう。

 これで断られたら、何か別の手段を考えるとしよう。


「納豆なんだな」


「納豆?」


 唐突に粘り気強めの発酵大豆の話を口にしたが、どんな真意があるんだ?


「毎日納豆1パックを献上するのならば、下僕の家を宿にしてやっても構わないんだな」


「下僕って呼ぶの止めろ。交渉成立だな。改めてよろしく頼む」


「都合良く利用してやるんだぞ」


 こうして東雲鈴音に心底羨ましがられつつも話がまとまり、強制睡眠から自動ログアウトする運びとなった。


「ふぅ…。さて、まずはオイラの事を家族に説明しなきゃ…ん?」


 何だか外がキャンキャン騒々しい。

 うちの近所に犬を外飼いしてる家庭は無い筈なんだけどな。

 気になって窓から覗いてみると、メカニカルな機械を頭に載せた白毛玉が、こちらを見上げて吠えていた。


 お前、ゲーム機装着したままよくぞうちまで辿り着けたな―――。


 オイラは途轍もなくあざと可愛く振舞い、大歓迎を受けてうちの親から受け入れられたのであった。

 納豆買ってないって言ったら脛に齧りつかれた。


 齧るなら、親の脛のが良いんじゃね?

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