㉛犬と猫
『戻ったにゃ』
扉の外に出た招木猫との回線が復帰。
事後報告になってしまうが、オイラが仲間になったと伝えておく。
「実はオイラを仲間にしたんだ。貴重な治癒スキル持ちだから戦力になると思うんだが、構わないか?」
『大歓迎にゃ。オイラは気紛れな犬だからにゃ。あんまり言うこと聞かないかもだけどにゃ』
「可愛い可愛い!もふもふだぁ!」
「ヤバい人間、放すんだぞ!暑苦しいんだぞ!」
世紀末が来る前ぐらいジタバタして東雲鈴音から逃れようとするオイラ。
タシンと頬に肉球パンチを見舞うと、東雲鈴音は膝から崩れ落ちてオイラを手放した。
まさか一撃で東雲鈴音の意識を刈り取ったのか…?
だとしたら、オイラのステータスって一体どれほど高いって言うんだ…。
「ぷ…ぷにぷにだぁ…。成木原君…。私は今、猛烈に感動している」
全然違った。
単に肉球の魅力を知っただけの変態だった。
『何が起きているにゃ?』
「ああ、それはな…」
招木猫に状況を説明する。
エリア外だと仲間でも別々に行動しなきゃならないのは不便だな。
安全性度外視で魔物を狩るなら、単独で動く方が効率が良いのはそうなのだが。
『リンリンは動物好きだからにゃ。動物には好かれないけどにゃ。オイラが普通に接してくれてるみたいで何よりにゃ』
オイラへの対応を見ていると、東雲鈴音が動物に嫌われるってのは理解出来てしまう。
ちょっと引く程のテンションだからな。
その辺は動物の方が敏感だろうし。
「おいらの話をしているんだぞ?誰と話しているんだぞ」
「誰って…招木猫って女の子だ。あっちはオイラの事を知ってるみたいだけど、わかるか?背がこれぐらいで、猫みたいな髪型で」
ジェスチャーを使って特徴を説明してやると、オイラは発情した犬みたいに俺の脚に掴まった。
腰は振っていない。
「もしやそれは姉さんの事なんだぞ?」
「姉さん?」
姉さんって、招木猫が?
「姉さんは、ここいら一体の野良動物を仕切ている姉さんなのだぞ」
「にゃんにゃんってそんな事やってんの?」
話を聞くと、招木猫は月に一度市内に住む野良犬や野良猫を集めて集会を開いているそうだ。
そこで行われるのは躾と配給に、必要であれば予防注射まで。
招木猫が音頭を取り、胡散臭くない方の動物愛護者を集めているらしく。
対象の野良犬野良猫は全員参加が基本、だそうだ。
何してんの招木猫。
そもそも動物の言葉がわかるの?
そもそも動物に言葉が伝わるの?
『事実にゃ。けどそれは今は良いにゃ。それよりオイラに伝えて欲しいにゃ』
「にゃんにゃん…姉さんからオイラにありがたいお言葉があるってよ」
「何なのだぞ?早く教えるんだぞ」
尻尾ブンブンブンじゃないか。
招木猫の事が余程好きなんだな。
まあ、ガッツリ動物向けの慈善活動やってるみたいだから理解は出来るけれども。
『成木原君の言う事を聞いて、我が儘は言うんじゃないにゃ』
「だってさ」
「何だぞ…?おいらがこの下僕の言う事を聞くんだぞ…?」
「今さらっと下僕って言ったな?主従の従の立場に俺を置いているな?」
『それからにゃ…』
招木猫は回線の向こう側で、慎重に言葉を選ぶように、じっくりと時間を掛けて、続きの言葉を口にした。
『決して無茶はするんじゃないにゃ。あたしはオイラを心配してるにゃ』
「だってよ」
「姉さぁぁぁん、なんだぞぉぉぉ!」
千切れるぐらいに尻尾を振りながら感動の涙を流すオイラ。
こういう感動の場面って、当事者は良いけど傍観者ポジだと引いちゃうよね。
東雲鈴音は泣きながら拍手してるけど。
俺が薄情なだけなのかな?
こうしてオイラは仲間になり、『おいらの下僕になるんだぞ』という正式オファーは拒絶した。




