㉙野生の嗅覚
オイラに警戒されてしまって、東雲鈴音ガックリな件。
入場した時間から考えると、外で見掛けたプレイヤーは既に白の扉に辿り着いている筈。
とどのつまり扉は他のプレイヤーが入場している間他のプレイヤーは入れない仕様になっているのだろう。
試練の扉はまた別仕様かもしれないが、少なくとも色付扉で他プレイヤーの介入を心配する必要は無くなったと見て良さそうか。
日本人だから列に並ぶ感覚でご丁寧に待っている可能性はあるが、可能性としては低いだろう。
外に出る時には警戒必須となるだろうが。
さて、これから扉を出る訳だが、どうにかしてクリアしたい事案が発生した。
それはオイラの勧誘だ。
NOT THE GAMEに似たMMOでは治癒系のスキルを持つヒーラーの存在は大きい。
NOT THE GAMEの場合は入手したオーブによってスキルを自在にカスタマイズ出来るので、オイラが純粋なヒーラーとなるとは限らないが、現時点で治癒のスキルを持っているのは事実。
加えてこれは仮説だが、宝箱から排出されるオーブと装備は、武器種や装備、手持ちのスキル。
若しくはプレイヤー個々人の適性…裏ステータスの様な物によって少なからず補正が加わっている気がしてならない。
俺が遠距離アタッカー、東雲鈴音が近距離アタッカー、招木猫がデバッファーの道を着々と進んでいるのと同様に、オイラもヒーラーやバッファー方面に伸びていく可能性は十分にあり得る。
実際ここで東雲鈴音は絹シリーズの3セット効果を得られたしな。
更に大きな要素の一つだが、オイラは喋らなければ可愛い。
マスコットキャラクターとしても過ぎるぐらいに優秀だし、絵面的にもオイラは欲しい。
絶対に仲間にしたい。
そうは言っても、まずは扉から安全に出るのが優先だ。
逃げるオイラを追い掛けている東雲鈴音は問題ないが、招木猫にも相談しなければならない。
名付け親だから断る理由もなさそうだけれど。
「東雲さん、じゃれ合いはその辺にして、一旦外に出よう」
「む…。そうだね。そうしよう」
「じゃれ合ってなどいないんだぞ!おいらは嫌がってるのに追い掛けられてただけなんだぞ!」
「それにしては楽しそうだったけれど?っと、それは良いとして。扉の外に誰かがいるかもしれないから、警戒しておこう。開けた瞬間に攻撃されないとも限らないからね」
出た瞬間に不意打ちを食らわせるなんて悪意を向けるのは人間以外考えられないが、敢えてここではプレイヤーと断定しない。
キルまでしなくても、叩いて脅して装備やアイテムを奪おうとする輩はいるかもしれない。
これならキルするよりは随分とハードルが低い。
レアな白の扉だけに、お試しや出来心でPVPを仕掛けるプレイヤーがいたって不思議じゃない。
善人とは言えないプレイヤーにとって、検討に値するだろう。
俺は人の善意と悪意を7対3で信じているが、東雲鈴音は10対0で善意を信じるってタイプだ。
あまり口うるさくプレイヤーを警戒しろと説いても、価値観がぶつかるばかりで仲違いしかねない。
まだ意見をぶつけ合って仲を深めるタイミングじゃない。
「魔物がいるかもしれないからね。わかった。警戒しておこう」
やはりプレイヤーって意識は抜けているな。
「俺が扉を開けて、ジャケットを被せた鞘を外に出す。東雲さん、鞘を貸してくれるかな?」
「勿論さ。構わないよ」
「そんな事しなくたって問題ないぜ」
いつの間にか部屋の隅まで避難していたオイラがトコトコと足下まで来ると、自信に満ちた表情でふふんと鼻を鳴らした。
「おいらは鼻が利く。扉さえ開けば近くに誰かいるか足に取るようにわかるんだぞ」
「犬だけあって足なんだな。全面的に信じるぜ、オイラ」
「任せるんだぞ。御ミルクの子さいさいなんだぞ」
「犬はカフェイン摂れないからな。あと野良なのに水よりミルクが好きなんだな。一々解説させるな、面倒臭い」
この犬、ちょいちょい会話に諺を挟んでくるのだが、少しばかり頭が良過ぎやしないか?
だからNOT THE GAMEのプレイヤーにも選ばれたのかもしれないけれども。
ヘッドセットのゲーム機をどうやって着けたのか滅茶苦茶気になる…。
気になって夜しか眠れる気がしない…。
「それじゃあ、開けるぜ?頼むぞオイラ」
「任されたんだぞ」
扉を開けると、オイラがスンスンと鼻を鳴らした。
「人間が通った後なんだぞ。近くには誰もいないんだぞ」
そう口にしてトコトコと扉の向こうへ出たオイラ。
俺、東雲鈴音と後に続けて、外に出た所で、無警戒なオイラを抱き上げた。
「は、離すんだぞ!おいらに何する気なんだぞ!」
「何ってそりゃあ…」
仲間に引き入れる為の勧誘に決まってるじゃないか―――。




