㉘だぞ
『ただいまにゃ。リンリンがはあはあ言ってるけど、何かあったにゃ?』
「ああ、何かプレイヤーの犬がいてな…」
オイラという犬を抱き上げて頬ずりしまくっている東雲鈴音に目を向けながら、招木猫に経緯を説明する。
オイラは可愛そうなぐらいされるがままだ。
東雲鈴音からは、もう絶対に離したくないって強い意志を感じる。
「人間、おいらに気安く触るんじゃあないんだぞ!噛み殺すんだぞ!」
「魔物がいて怖かったんだね。もう大丈夫。わんわんは私が守るよ」
「話が通じないんだぞ!?この人間は何なんだぞ!?」
俺がさっきまで持っていた抱っこしたい欲は消え失せた。
人語を喋る犬と東雲鈴音の燥ぎっぷりに軽く…割と…結構引き気味で冷静になってしまったからだ。
この犬、一体何者なのだろうか。
『その犬、どんな見た目してるにゃ?』
招木猫も興味があるみたいだな。
声色に変化は見られないけれど。
「白い毛玉みたいな感じだな。多分ビションフリーゼって犬種なんだけど」
特徴を伝えると、招木猫は『ああ』と得心がいったように呟いた。
『もしかしてオイラかにゃ?』
「知ってるのか?」
『知ってるにゃ。色んな所で見掛ける野良の室内犬にゃ』
「野良の室内犬…?」
その二つって同居出来るものなの?
『オイラって名前を付けたのはあたしにゃ』
「何たる独特なネーミングセンス。その心は?」
『自分の事おいらって言いそうだったからにゃ』
「大正解だけどテキトーだな。おっと、ちょいすまん」
相変わらずの東雲鈴音から視線を外して周囲に目を向けると、遠目に人の姿を確認した。
タイミング的に白の扉を目指しているプレイヤーだろう。
「東雲さん、まずは扉に入ってしまおう。他のプレイヤーが来てる」
「そ、そうだね。早速中に入ろう」
「早くしするんだぞ!この扉はおいらの縄張りなんだぞ!」
「室内犬が縄張りを語るなよ。という訳だから、ちょっと回線が途切れるから」
『わかったにゃ。あたしは狩りしながら待ってるにゃ』
白の扉の中に入ると、他色の扉と同様に白い宝箱が置かれた6畳ぐらいの部屋だった。
床に敷かれた絨毯は白い。
「下ろすんだぞ!おいらはこのキュートな前足でもって宝箱を開けるんだぞ!」
「近付くだけで開くから前足の出番ないけどね?東雲さん、下ろしてあげなよ」
「むぅ…仕方がないな…」
おいらが地上に降り立ち、トコトコと宝箱へ向かう。
ふりふりと揺れるお尻が可愛い。
心の底から思ってしまうが、喋らなきゃ良いのに―――。
「おお…前足の出番がないんだぞ…」
それは俺が言ったやつ。
NOT THE GAMEの人感センサーは犬にも反応するらしく、宝箱は自動で開いて光の演出が入った。
光が収まると、オイラは前足を伸ばして宝箱の中を覗き込んで…。
覗き込んで…?
「くっ…届かないんだぞ…。人間、おいらを抱き上げるんだぞ!」
「任された!」
東雲鈴音に抱き上げられて、ようやく宝箱の中身を確認するオイラ。
元からキランとしたクリクリお目目がキランキランだ。
やはり宝箱とは犬の気持ちすらも爆上げする魔性の四角いやつらしい。
中身は白のオーブと絹の足袋。
初級回復薬が2つと硬い枝だった。
「おいらと同じ色の綺麗な石なんだぞ…」
白のオーブに見惚れるオイラ。
この様子じゃ、宝箱を開けるのもオーブを見るのも初めてだよな?
そもそも扉を開けれてなかったし。
ついでにこれ、自分じゃ付けられないよな?
「オーブは武器に装備して使うんだよ。よかったらこっちで付けてやろうか?」
「うーん、そこまで懇願するなら任せてあげても良いんだぞ」
「別に懇願はしていないが?そういえば、オイラの装備って何処にあるんだ?」
腰に小さなポーチは巻かれているが、見たところ何処にも装備は見当たらない。
まあ、聞くまでもなく確認する手段はあるんだけどな。
オーブを手に取り、治癒ってスキルを確認しながら、オイラの前足に触れさせる。
するとオイラの口の中が白く光った。
「オイラの武器は、この自慢の牙なんだぞ」
あーんと小さな口を開くと、確かに牙の一部が光って点滅しているのが見える。
「小さっ。牙にオーブって嵌るのかよ」
結果から言うと、牙の光にオーブを触れさせたら適当なサイズに変化して装備された。
見た目には牙に小粒の宝石を付けたお洒落仕様。
成金仕様とも言える。
「鏡、鏡を見たいんだぞ」
宝箱から入手したアイテムに使用方法が謎な手鏡があったので貸してやると、オイラは色んな確度から牙を見てご満悦。
犬なのにナルシストで人間臭い奴だな。
「こっちの足袋は履けないだろう?装備出来そうなアイテムと交換してやろうか?」
「ふむ…その白も魅力的だが、交換してやっても良いんだぞ」
「小さい図体で偉そうな犬だな。それならこういうスカーフとかはどうだ?」
白い犬には何色のスカーフでも似合いそうだが、〇色なんて似合いそうだ。
「悪くないんだぞ。人間、それをおいらに巻かせてやっても良いんだぞ」
「お前、俺の事を完全に下に見てない?ちゃんと躾けない飼い主は舐められるって事実なんだな」
「成木原君、その役目、是非とも私にやらせてくれないだろうか?」
久しぶりに奇声以外を発した東雲鈴音がやりたいと言うので、スカーフを手渡す。
オイラを下ろして、三角に折ったスカーフを首元に巻いて端を縛り。
キュッッッ
「く…苦しいんだぞ…。人間…助けて欲しいんだぞ…」
「東雲さん、きつく縛り過ぎだから。そのまま固結びしたら死んじゃうから」
「す、すまない。あまりの可愛さで力加減を忘れてしまって…」
結局俺が結び直してやると、オイラは東雲鈴音を恐れて、俺の背後に身を隠した。
わざとじゃないんだから、そんなに嫌わないでやってくれよ?




