㉗わんわんお
3日目。
昨日と同じ20時30分にログインして、二度目の活性化が発生する。
サクッと3体の魔物を倒し、東雲鈴音と試練の扉を出て直ぐの事。
突然音声通話に割り込むようにアナウンスが入った。
『近くで扉の入場権が開放されました』
どうやら誰かの優先入場権が切れたらしい。
SNSで攻略困難と言われる難易度NORMALの試練の扉でも出ない限り、優先入場権を取ったプレイヤーが扉に入るのが普通だろう。
故にこんな事は今まで一度も無かった。
操作無しでウインドウが開き、周辺マップと扉までの道順が表示される。
どうやらすぐそこの角を曲がった所みたいだな。
「一度も引けてない白の扉か…。PKの撒き餌って可能性もあるか…?東雲さん、どうする?」
「私は行きたい。大丈夫。私達の近所にPKする様な人はいないよ」
確かにエリア内にいるプレイヤーって、見ず知らずの人も自転車圏内には住んでる人達なんだよな。
NOT THE GAMEは他のゲームと違って顔も現実の自分と瓜二つだし、日本人なら少々加虐思考があっても、PKする快感よりPKして現実世界で恨まれるリスクを考える人は多そうではある。
お隣の国とかでは関係無しにPKしまくってるプレイヤーもいるらしいけど。
エリア内にいる殆んどのプレイヤーとNPCをキルして、魔物を独占してる強者がいるらしいってSNSで又聞きした。
「よし、行ってみよう」
「ありがとう。私の意見を尊重してくれて嬉しいよ」
東雲鈴音は些細な事でもこうして礼を言うんだ。
礼を言われて悪い気はしないけれど、礼を言われる程かなってむず痒くなる。
半裸になって胸の間を掻き毟りたくなる気分だよ…。
マップに沿って向かってみる。
念の為、角を曲がる前に物陰から目視で扉の確認。
こちら向きの白い扉はあるが、人影はない。
「プレイヤーが何処かに隠れているのか、放置して行ってしまったのか…」
時間的に強制睡眠に入ってるって事も無い。
「一応警戒しながら進もう。…東雲さん?」
俺の言葉に反応すらなく、東雲鈴音がふらふらと物陰から出た。
刀に添えられていた手も放し、何故だか手をわきわきさせている。
「いるよ…。成木原君、確かにいる…」
まるでゾンビの様にゆるりゆるりとした歩み。
何がいるって言うんだ?
もう一度目を凝らして見てみると、それは確かにそこにいた。
扉と同じ真っ白な毛並みの小型犬だ。
特徴的なアフロヘアーは、最近調べた知ったビションフリーゼという犬種。
小さくて丸っこい毛玉が爪で扉をカリカリ掻いているのだが、あのキュートなわんわんおは魔物なのだろうか?
「ふあぁ…。可愛い…」
犬の可愛さにやられてしまったのか、東雲鈴音の歩幅が広がる。
カモシカの様な足の回転が上がり、競歩並みのスピードが出ている。
「待て待て、東雲さん!」
「止まらん。誰も私を止められないぞ!あのわんわんを最初に抱っこするのは私だ!」
「別に先に抱っこしたいから止めてる訳じゃないんだが?」
競歩の東雲鈴音と、小走りの俺のデッドヒート。
確認すべきは、あのわんわんおが安全かどうかだ。
東雲鈴音は完全に我を失っている。
間合いに入る前にどうにかして俺が確認するしかない。
あのわんわんおを先に抱っこするのは俺だ―――。
犬まであと3歩の距離。
間もなく手を伸ばせば届く距離まで接近して、気付いた犬がこちらを向いた。
「そこの人間、これを開けるんだぞ!おいらのキュートな前足じゃ開けられないんだぞ!」
急ブレーキで立ち止まり、東雲鈴音と視線を合わせる。
東雲鈴音は目をパチクリさせているが、きっと俺も同じだろう。
もう一度目を向けてみると、犬はこちらを見上げて吠えていた。
「おい、早くしてくれ!おいらの声が聞こえないのか?」
ワンワンと吠えている様に見える。
しかし聞こえてくるのはスマートでスウィートを感じさせる男の声。
これってまさか…?
「犬が…」
「喋った…?」
よく見ればNPCでもENEMYでもなく【オイラ】ってプレイヤー名が表示されている。
「人間、おい人間、おいらを無視するんじゃあないんだぞ!」
確信した。
完全に犬が人語を喋っている。
NOT THE GAMEのプレイヤーには犬もいるのかよ…。




