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⑳お裾分け

 イギリスに留学中の妹、心晴もNOT THE GAMEに登録したと言っていた。

 兄妹で少しでも情報共有をと思ったが、チャットは既読スルーで、通話は無視。

 日本とイギリスの時差は9時間あるので、まだ寝ているのかもしれないな。


「もう一回掛けてやろう」


 結局通話は繋がらず。

 しかしチャットの返信は届いた。


『お兄ちゃんI LOVE YOU♥

 可愛い妹は徹夜明けです♥

 次やったら絶交だからね♥』


 もう一回掛けたら、1コールで拒否された。

 これ以上は怒られるので止めておく。


 冷房を利かせ過ぎた。

 ちょっぴり寒いので窓を開ける。

 NOT THE GAMEで家の前の道路を這いずっていたスライム。

 始めた時より伸びた今の射程だったら届くだろうか?


「家と柊の家の間ぐらいにいたから、こう狙って…」


 窓から身を乗り出して指銃にした指先を、記憶の中のスライムに向ける。


「裕ちゃん?」


 声のした方に向いてみれば、隣家のベランダに柊がいた。

 無地の濃灰(のうかい)Tシャツに着替えていて、手には食べかけの棒アイス。

 下は見えないが、多分部屋着のショートパンツでも穿いているのだろう。


 何せ今の季節は夏。

 とっとと梅雨が明けた7月1日の気温は、36度まで上がると言っていた。

 燦燦と日差しが降り注ぐ時間ではないが、横殴りのソーラーレイは、十分以上に皮膚を焦がして熱い。


 NOT THE GAMEでは暑さを感じなかったが、ここは現実。

 半ズボンでも穿いていなければ、暑くて干上がってしまうだろう。


「柊か。クソ暑い真夏のベランダで食べるアイスは旨いか?」


「美味しいよ。裕ちゃんは、暑い中わんちゃんに銃口を向けてどうしたの?」


「わんちゃん?」


 指の先に視線を戻すと、ふわふわもこもこの白い毛玉がそこにあった。

 俺の角度からだと、あれを犬と判断するのは困難だ。

 と思ったら、毛玉はくるんとこちらを向いて、小憎たらい笑みを浮かべて去っていった。


 後で何て犬種なのか調べてみよう。


「あーあ、行っちゃった。そうだ!裕ちゃん、ちょっと待ってて」


「おう?」


 柊が部屋の中に消えて、1分経たずに戻ってきた。


「どうぞ、お裾分け」


「お裾分け?おっと」


 柊が投げた何かをキャッチする。

 無色透明の袋に包まれたそれは、黄緑色に黒い粒々が疎らに入った棒アイス。

 どう見たってチョコミントアイスだな。


「私しか食べないのよ。チョコミントアイス。だから遠慮しないで食べてね」


「ああ、ならお言葉に甘えて頂きます」


 包みを開けた瞬間にすぅっとするミントの香りが広がった。

 日本の植物にとっては厄介者以外の何物でもないミントだが、この香りは素晴らしいし癖になる。


 既に薄っすらと汗を搔いくアイスを口に入れてみてば、存外滑らかな食感。

 清涼感溢れるミントの香りが鼻に抜け、化学的なミントアイスの味わいが口に広がる。

 噛めばパリパリしたチョコチップの濃厚な甘さが顔を出し。

 噛む度に混ざり合い、体温で溶け合ったアイスを飲み込めば、爽やかな後味が次の一口を欲しくさせた。


 チョコミントとは、何とも魔性なるフレーバーである―――。


「美味しい?」


「不味いぞ」


「不味いと思ってる人は、大好きな人を見つめるみたいな目でチョコミントを見ないの」


「世界で8番目に好きなアイスのフレーバーだよ」


「あははっ。それは高いの?低いの?因みに1位は?」


「塩雲丹」


「絶対に嘘じゃんっ。食べた事あるの?」


「無いぞ。そうだったら良いなって理想の自分を語っている。柊の1位は何なんだ?」


「うーん、それなら私は松茸かな?鮑と迷っちゃうけれど」


 松茸と鮑だって…?


「それ、絶対他の奴には言うなよ?誘ってるんじゃないかって勘違いされるから」


「どうして…?まあ、うん。わかったよ」


 どう考えても狙ってるとしか思えない組み合わせなのに、心底不思議だって顔をしているぞ。

 どうやら俺の幼馴染は、まだまだお子様であらせられるらしい。


「話は変わるんだけど」


「うん」


「柊はNOT THE GAMEの登録しなかったのか?」


「近頃話題だよね。私はちょっぴり怖かったから、しなかったんだ」


「そっか」


 柊は未登録と。

 柊のおじさんとおばさんも、忙しいだろうからしてないだろうな。


「やってみたけど面白かったぜ?実在する人にそっくりなNPCが出てさ、母さんも普通にいて…」


 柊にNOT THE GAMEの話をしていたら、肌にしっとりと汗を掻いてきた。

 全身外にいる柊なんか、Tシャツに汗染みが出来ている。

 ちょっぴり長く喋り過ぎたか。


「悪い、暑いのに盛り上がり過ぎた」


「あははっ。楽しかったから大丈夫だよ。危なくないなら次の機会に登録してみようかな?」


「ああ、それが良いかもな。またな。柊は水分補給しておけよ」


「心配してくれてありがとう。お水でも飲むよ。またね」


 換気し過ぎで部屋が暖まってしまうから、急いで窓を閉じて…。


「裕ちゃん!」


「どうした?」


 完全に閉じ掛ける前に柊の声。


「えっと…。あのね…?L*NE(エルニー)のID…?教えて欲しいなぁ…って」


「全然良いけど。ちょっと待ってろ」


 一旦窓を閉じて、学習机の引き出しからある物を取り出した。


「これでいけるか?」


「えーと…。何それ…?」


「こんな事もあろうかと、用意しておいたQRコードのコピーだぞ。漸く日の目を見たな。A3サイズまで引き延ばすの大変だったんだぜ?」


「もうっ、馬鹿みたいっ!どうしてそんなの作ってるのよっ!はぁー可笑しいっ…」


 IDは電話番号で交換した。

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