4 ひとり反省会
愛称についてです。
リリアーナ・セレステイア・クラリア・アストレス→リリア
アレクシス・ジュナン・セルヴィアン→アレク
ふぅ……。
モミザが淹れてくれたダージリンティーを一口飲み、私は大きく息を吐いた。夜の自室。柔らかなランプの灯り。お茶会を終え、ようやく一人の時間だ。
わ、私の行動……おかしくなかったよね?変なこと言ってないよね?誰かに目をつけられてないよね???
思い返す。
優雅な所作。完璧な笑顔。無難な受け答え。
……うん。たぶん大丈夫。
というか何より。
アレクに惚れなかった!!!!りりたまも暴走しなかった!!!!!!
よくやった私!!!!!!
思わず両手を握ってガッツポーズ。まじ頑張った。
これで断罪エンド回避の未来に、一歩近づいた。
しかも、かなりびっぐな一歩。
……じーーーん。
胸に込み上げる達成感。よくやった、今日の私。
だが。
感傷に浸っている場合ではない。私はカップをソーサーに戻し、真顔になる。
やらなくてはならないことがある。
――情報整理。
紙にメモ? 却下。万が一見つかったら終わる。日本語の読める転生者なんていたら最悪だし、モミザに見られても危険。全部、脳みそで頑張る。
まず一人目。
言わずもがな、アレク。
アレクシス・ジュナン・ゼルヴァイン。
ヒロインの攻略対象の一人。そして、ヒロインにゾッコン。というか攻略対象は基本そう。
原作では、私――リリアーナは無理やり彼に婚約を迫る。そして、領主夫人としての教育もろくに受けず、ヒロインに嫉妬し、悪口を言い、感情をぶつける。
その結果。
アレクはリリアーナを心底嫌う。というか、嫌悪を通り越してあれはほぼ殺意。
まあ、今の私にアレクに対して好感があるかと言われたら微塵もないのだが。
なんてったって、アレクはリリアーナの人生の敵だ。
原作では平民から急に聖女としてチヤホヤされてるヒロインはいじめられる。
それをしていたのは、
”平民のヒロインが攻略対象にチヤホヤされることを妬んだ貴族令嬢たち”だ。
リリアはたしかに横暴だったが、直接手を下していたのは、知らない人たちだ。でも、アレクはすべて「リリアーナが悪い」ろ断じて処刑台へ送った。
まあ、リリアーナの素行は日本人の美咲から見ても最悪的だったし、恋は盲目っていうからしょうがないよね!改善、改善!
気を取り直して二人目!
筋肉担当。単細胞。脳みそスカスカ。忠犬タイプ。王国騎士団団長の息子。
レオルド・ヴェルナー・グランベ。
原作では私が断罪される頃には、若き英雄として国中に名を轟かしている。
こいつは厄介だ。
一度「敵」と認識したらどこまでも追いかけてくる。
そして、原作では「ヒロインの敵=リリアーナ」と認識していた。
もし、今回もそうなったら?
...処刑台まで髪を掴んで引きづられていく未来が見える。
恐ろしい。単純な正義ほど怖いものはない。
つまり結論。
私はーー
清廉潔白な第三王女になればいい。
悪口を言わない。横暴にならない。大人しく、目立たず、ひっそりと。
ただそれだけ。
...それだけ、なのだけど。
「ふぁ〜〜〜...」
大きなあくびが出た。
今日はもう限界だ。
お茶会もあって、精神力もゴリッゴリに削られた。
まだ私は8歳。子供なのだ。
ベッドに潜り込み、ふっかふかの枕に顔を埋める。
断罪回避計画は、まだまだ時間がある。
今日はもう疲れた。
まぶたがゆっくり閉じていく。
静かな夜。
まだ何も運命は変わってないかもしれないけど。
まだ、始まったばかりだ。




