2 重大イベ発生!!!
今のリリアーナは8歳です。
流石に二度も気絶した上に、一週間も寝かされたら状況は飲み込めた。
いや、まあ、正確には「寝かせられた」だ。
目が覚めた途端、活動しようとすればメイドたちが血相を変えて止めに入るし、モミザに至っては「またお倒れになったら本当に死んでしまいます……!」と涙目で訴えてくる始末。
あんな顔で言われたら、さすがに逆らえない。どうやら私は三日前、突然の高熱を出し、そのまま三日三晩生死をさまよっていたらしい。
……そりゃあ、メイドたちの過保護にも納得だ。
その一週間で体力もかなり回復し、ようやく頭も冷静に回るようになった。
結論。
ここはやっぱり『ロゼリア・クラウン』の世界だ。
そして私は、悪役令嬢ポジ、第三王女。
リリアーナ・セレスティア・クラリア・アストレア。
……改めて字面が強い。
そしてもう一つ。
リリアーナはすっっっっごくかわいい。
ふわりと波打つ、絹糸のような金髪は光を受けてきらきらと輝いている。シミひとつない陶器のような肌。すっと通った鼻筋に、形の整った唇。そして少し吊り目がかったルビーのような瞳。
まるで気高いペルシャ猫。(※自画自賛)
ゲームをプレイしていたときのリリアーナは、ヒロインに嫉妬して怒り狂う顔ばかり見ていたせいで、正直「怖い女」という印象が強かった。
だが違う。
冷静に見ると、とんでもない美少女だ。
さすが王族。顔面偏差値がエグい。
これで性格さえまともなら、普通に人気キャラだったのでは?
いや、待て。
だからこそ嫉妬イベントが映えたのか?
……と、分析している場合じゃない。
今日は、ちょ~~~~~~重要なイベントがあるのだ!!!!
これで今後の人生、八割は決まると言っても過言ではない。
それは――
将来この国を担うであろう名門貴族の御子息たちとの、王宮主催お茶会。
公爵家、侯爵家、伯爵家。次世代エリート勢の顔合わせ。
つまり、未来の権力者候補大集合パーティーである。(だからこそ鏡の前で気合いを入れていたわけだが。)
そして、なぜこれがそんなに重要か。
理由はひとつ。
悪役令嬢リリアーナは――
ここで恋に落ちる。
しかも相手は、宰相の息子。ゼルヴァイン公爵家嫡男。
アレクシス・ジュナン・ゼルヴァイン。
青みがかった紺色の髪にエメラルドのような瞳。正統派王子様系。
文武両道、次期宰相最有力候補。
誰にでも優しく、隙がない。
原作では、リリアーナが彼に一目惚れし、
無理やり婚約者になる(権力乱用)。
そして。
彼はヒロインに惹かれる。
はい、詰みルート確定。
……まぁ?今の私には?推しの?ルーカス・エーヴェルト・ノクスがいるんですけど???
なので関係ないと言えば関係ない。
ない、はず。
でも。万が一。
私の魂の奥底にいる(かもしれない)“本来のリリアーナ”が叫び出したら?
「アレクシス様ぁぁぁ!!」とか暴走したら?
それに、こういう物語には“修正力”というものがある(かもしれない)。どれだけ抗っても、イベントは起きるべくして起きる(かもしれない)。
つまり。
このお茶会は、最初にして最大級の分岐点。
ここを乗り切れるかどうかで、断罪エンド回避の未来が決まる(かもしれない)。
――よし。
覚悟を決め、もう一度鏡を見る。
……うん。
やっぱり可愛すぎる。
金髪が映える白地に金色の刺繍が繊細に施された、上品と華やかさを兼ね揃えたドレス。腰はきゅっと締まり、スカートはふわり何重にも広がり、中には赤い生地。まるで白い薔薇のよう。
そして悪役令嬢の象徴、縦ロール。くるん、と完璧に巻かれたそれは、もはや芸術。クロワッサンのような黄金の螺旋。
可愛い。可愛すぎる。
これなら。
推しの方から惚れるんじゃね?
いや、待て。
今の目的はルーカスに惚れさせることではない。
今日はまず、アレクシス・レオンハルト・ゼルヴァインに惚れないこと。
それが最優先ミッション。
深呼吸。
――悪役令嬢リリアーナ・セレスティア・クラリア・アストレア。
優雅に、完璧に、そして何より。
暴走せずに。
いざ、戦場へ参る!




