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松野冬馬、十五歳。現在、高校一年生。
中一の冬、両親が離婚した。
その日は珍しく、真っ白な雪が降っていたことを、俺は鮮明に覚えている。
その日の朝、目が覚めた俺は、初めて見る真っ白の雪景色を妹に見せてやりたくて、母と妹が眠る寝室に行ったんだ。しかしそこには、母の姿も妹の姿もなかった。状況が飲み込めず唖然とする俺に、父親はたった一言、「昨晩離婚した」とだけ告げた。別れの言葉も無く、音もたてず、ただただ降りしきる雪のように静かに、母と妹は家を出ていった。
俺は父親に引き取られ、妹は母親に引き取られることになった。「ことになった」というが、俺が知らない間に母親と妹が出ていったので、必然的に父親と二人で暮らすことが決定しただけだ。離婚の話はいつ相談していたのか、どちらが俺たちを引き取るのか、そんな話は聞いたこともなかった。なんにせよ、そこに俺たちの意思が存在しないのは確かだ。大人とは、全く勝手極まりない生き物である。そう、再確認した出来事だった。
思い返せば、両親が離婚するのは至極当然のことであった。寡黙で放任主義な父と、こだわりが強く癇癪を起しやすい母。まあ、うまくやっていけるはずもなく、両親は離婚したのだろう。直接理由を聞いたわけではないが、聞かずとも想像がつく。それ程までに、松野家の家庭事情は透けて見えた。
母親と、もう二度と会えないかもしれないことについては、俺は特に何も感じなかった。というのも、母親が酷く俺のことを嫌っていたからだ。俺と妹が遊んでいるときも、「そいつから離れろ!私の子供に近ずくな!」と間に割りいってきたり、「気味が悪い」と俺のことを罵っていた。そんな母親のことを俺も自然と嫌うようになり、いつからか言葉を交わすことをやめた。なので、母親と会えなくなったことに関しては、俺は特に何も感じなかった。問題は、妹のほうだ。
妹の名前は、松野雪乃。今年10歳の誕生日を迎える予定で、離婚した当初は5歳だった。俺とは6歳差のまだ幼い妹だ。
両親が離婚する前は、妹の面倒はすべて俺が見ていた。おむつだって俺が変えていたし、食事も俺が与えていた。お風呂ももちろん一緒に入っていたし、寝る前の絵本の読み聞かせも欠かしたことはなかった。
日々、俺を蔑む母と、それを見て見ぬ父。そんな日常の中、まるで太陽のような雪乃の笑顔を見るたびに、俺は何度も救われた。俺にとって雪乃の存在は、この腐敗した家庭内での唯一の温もりであり、光だったのだ。ここまでの話で検討がつくとは思うが、俺は雪乃を愛している。はっきり言おう、大好きだ。今でも、この俺の人生すべてをかけてもいいとまで思っている。
それだけ雪乃のことを想っている俺だが、雪乃とはあの日以来、一度も会っていない。
何故かはわからないが、父親は雪乃についての詳細を一切話してはくれなかった。どこに引っ越したのか、今どのように生活しているのか、住所も連絡先も何もかも、父親は教えてはくれなかったのだ。だとしたら、自力で調べるしかない。俺は様々な方法で妹に会おうとした。人探しサイトを使ってみたり、遠い親戚に片っ端から電話をかけてみたり、警察にひとりで情報を聞きにいったりしたこともある。今思えば、これらは全て、無駄な努力だった。
ある日のことだ。
普段、滅多に感情を表に出さない父親が、俺に言った。
「雪乃の話は今後一切するな!いいか⁉二度と俺の前でその名前を口にするんじゃない!」
そう、言われて以来、父親にとって雪乃の存在がどういうものか悟った俺はいつしか、雪乃について詮索することをやめた。それから現在まで、約三年間もの間。俺は妹に会っていない。




