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チリリン、チリリン、チリリン…
風鈴が奏でる涼し気な音色がだんだんと大きくなるにつれ、帰路が狭まっていることを俺に知らせてくれているようだった。
遠くからじいちゃんが庭で水撒きをしている様子が見えたので、俺は驚かせないように大きく手を振りながら、大声で帰宅を告げる。
「じいちゃんー、ただいまー」
「おー、おかえり冬馬。暑かっただろう?アイス買っちゃるぞ、冬馬の好きなソーダのやつ」
「ありがとう、じいちゃん。でも俺が好きなのはソーダじゃなくてラムネだってば」
(ま、俺も正直違い分かんねーけど)
「同じじゃろ。ソーダはラムネで、ラムネはソーダじゃ」
「はは、なんだそれ」
じいちゃんのくだらない冗談にお互い軽く笑いあったあと、俺は玄関の戸に手をかけた。ガラガラと昔ながらの音を立てる障子戸を開け家に入ると、中は外よりひんやりとしていて、クーラーはついていないはずなのにどこか涼しい。玄関から台所の窓までが一直線に伸びているからか風通しがよく、心地よい温度の風が髪をなでる。
(涼しー…)
この風に乗って運ばれてくる、ほんのり香る木材とカビ臭いカーペットのにおいが俺は好きだ。そのまま玄関をあがり、少し長めの廊下を歩く。廊下の突き当りにある台所、その端にある年季の入った緑色の冷蔵庫を開け、じいちゃんが買ってきてくれたソーダ味のアイスを袋から取り出し、俺は大きな一口で頬張った。
キーンと、冷たさが頭に響く。やばい、これは
「うま…」
思わず言葉に出てしまう。これだ、これぞ俺の求めていた涼しさだ。ああ、夏のいいところはこれだな。アイスがより一段においしく感じる。むしろそれしかない。ラムネ味じゃないのが残念だが、まあ及第点だ。
(あとでじいちゃんにお礼言わないとな)
俺はアイスをかじりながら、密かにじいちゃんに感謝の手合わせをした。