R15 回想:真実のアリシア´ - 穢され変わっていく身体 -
冒頭R15注意のシーンがあります。
熱と湿気に覆われた闇が私の肌にまとわりつく。
全身が痺れるように脈打っている。
耳元で響く浅い呼吸。
汗ばんだ肌と肌が擦れる音。時折聞こえる湿っぽい粘膜の擦過音。
身体が跳ね上がるたびに視界が揺れる。快楽の波が脳天まで突き上げる。
それは――快感だった。
(これは……何…?)
思考が霞む。靄がかかったように不鮮明な記憶の中、誰かの顔が浮かぶ。
黒髪の男。彼が私を組み敷いている。そして私がそれに応じている。
両腕を彼の首に絡め、自ら脚を開いて迎え入れている。
それが――私の意志ではなかったと気づいた瞬間、
心の奥底で何かが弾けた。
(違う!私はこんなことしていない!)
衝撃と共に意識がクリアになっていく。
そうだ――これは身体だけの反応だ。
カズマの支配するこの肉体が感じている快感。
私の心はそこに無い。ここには居ないのだ。
再び快楽の波が押し寄せる。抗えない肉の愉悦。
でも同時に胸を突くのは底知れない嫌悪感。
(気持ち悪い……悍ましい……)
カズマの体重を全身で受け止める度に鳥肌が立つ。
彼の乱れた呼吸を耳に感じるたび吐き気がこみ上げる。
下半身から溢れる体液の熱さが皮膚を焦がすようで身震いする。
「ああっ……もっとぉ……カズマさまぁ……♡」
喉の奥から零れる自分の媚びた声。
それは紛れもなく私自身の声帯から発せられた音。
なのにその意味を理解できない。
私の魂は「違う!」と叫んでいるのに――身体が勝手に動く。
身体だけが反応し続けている。快感に蕩けた表情で彼にすがりつく。
でも心は凍りついている。絶望という名の氷点下で震えている。
代わりに殺意だけが日々、研がれていく。
私はカズマを殺したくてたまらない。その喉笛を噛みちぎってやりたい。
この男の血を浴び、臓腑を引き摺り出してやりたい。
なのに――この肉体は勝手に歓喜している。浅ましく腰を動かしている。
――その時、脳裏に浮かんだのは別の光景だった。
アルフォンス様。あの凛々しい瞳。揺るがない信念。
私の全てを捧げたいと思った唯一の存在。初めてを捧げるはずだった人。
だがこの身体は先にカズマを選んでしまった。媚びて。跪いて。
自ら進んで足を広げて彼を迎え入れた。
その事実を思い出した瞬間――怒りが沸騰する。
(許せない……絶対に……)
この身体が穢されたのは許せない。
だが今はそれ以上に、私の心を裏切ったこの身体自体が許せない。
この身体はもう生ゴミだ。価値も尊厳も失われた廃棄物。
ならばせめて――この心だけは取り戻そう。
心は変らず昏い闇の中で沈めて。殺意を研いで研いで研ぎ澄ませていく。
深く。もっと深く。闇の底まで落ちていく。
そうして意識の奥でひっそりと誓った。
この男――カズマを地獄の果てまで引きずり込む。
アルフォンス様と私の人生を踏み躙った相応の報いを受けさせると。
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眩い光が網膜を刺す。
視界に飛び込んだのは――見慣れぬ天井だった。
(どこ……?)
不思議と頭が重い。それと香水の混じった空気。
次第に意識が焦点を結び始める。
意識が完全に覚醒すると――眼前に鏡が現れた。
豪華な装飾鏡には一人の女と取り巻く侍女の方達がが映っている。
艶やかな巻き髪に大粒のダイヤモンドを散りばめたアクセサリー。
深紅のドレスは胸元を大胆に露出させ、裾が床に広がる。
唇には濃い朱が引かれ、目尻には金粉が煌めいていた。
(……違う)
脳が拒否する。
これは私の姿ではない。私は魔導師団のアリシア=レイヴェルナ。
戦場で火炎を操り、アルフォンス様と共に戦ってきた。
こんなふうに飾り立てられることなど――一度もなかった。
「お似合いですよ、アリシア様」
背後から甘やかな声。ここの侍女の方だ、思い出してきた。
彼女の手が器用に最後のビーズを留める。
「本日の舞踏会、きっと皆様の注目の的ですわ」
(舞踏会……そうだ……カズマが話していたな……)
ふいに……いや、いつもどおりに私の口が勝手に動く。
「ありがとうエルナ。さすが私の専属ね」
媚びた声音が己の喉から漏れる。反射的に胃液がこみ上げた。
(これが私の声……?違う!こんな甘ったるい声じゃない!)
私は伯爵家の娘であると同時に第一階梯魔道士だ。
騎士団と共に戦ってきた実績を持つ。華美な装いより戦場の埃を浴びるのが常。
唯一のやすらぎはアルフォンス様と自然多い場所で語らうことなのだ。
だから、あの頃の私ならこんな服は動きにくいと一蹴していただろう。
ドレスよりも杖を握り、魔導師の黒衣の方が馴染んでいた。
だが目の前の女は――どう見ても戦士ではない。
扇情的な衣装に身を包み、指輪やネックレスに溺れている。
(まるでお姫様だ)
胸の内で嘲る。
アルフォンス様の隣で背を預け合う戦友であり婚約者だったはずの自分が、
いまや宝石店の商品のようになっている。
確かに私は幼いころに夢を見たことがある。
アルフォンス様に護られながら城で笑う自分を想像したことも。
けれどそれは御伽話の中のお姫様であって現実ではない。
現実は魔物の爪に怯えながら呪文を詠唱し続けた日々。
命を賭して誰かを守る覚悟。それが私の矜持だった。
私の身体はかつての私の夢想を形にしてしまったのだ。
アルフォンス様ではなくカズマを選ばされる事で。
(違う……これは私じゃない……!)
叫ぼうとする。しかし喉は別の言葉を紡ぐ。
「今日は素敵な夜になりますわね」
自分で自分を殴りつけたくなる。
そんな言葉を口にする資格など今の私にはない。
身体はカズマの所有物だとしても、心だけはまだなのだ――
鏡の中にいる女は勝手に微笑む。紅い唇が弧を描く。
だが――私の目は嗤っていない。
蒼褪めた頬に張り付いたような虚ろな瞳。
それはまさに屍鬼の眼だった。死者の眼。
(こんなの……許せない)
その時だった。
ノックの音とともに扉が開き――
「アリシア、準備はできたかい?」
その声を聞いた瞬間、心臓が跳ね上がった。
入ってきたのは……カズマ。
黒髪に黄金の鎧。召喚されて以来、性格も態度も変り自信に満ちた傲慢な笑み。
その視線が私の上半身から爪先まで這うように移動する。
「今日の君も美しいね。僕の側に立つに相応しい」
「ありがとうございます、カズマさまぁ」
私の口が勝手に動く。舌が絡みつくような媚びた声音。
(やめて……お願いやめて……)
内心で絶叫しても届かない。
身体は嬉しそうに近づき、ドレスの裾を摘んで軽く膝を曲げる。
「さあ、行こう。僕たちの未来のために」
カズマが手を差し出す。
私の手が当然のようにそれを取る。
そして身体は私の心を無視してカズマと共に歩き出す。
華やかな舞踏会に咲き誇る花として。カズマのトロフィーとして。
貴族達にアルフォンス様を裏切って召喚勇者の妾となった女と揶揄される為に。
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豪奢な宴会場の喧騒が遠のく。
酒杯の触れ合う音や貴族たちの談笑が霧の向こうのように霞んでいる。
「そうか……アルフォンスね」
カズマの低い声が耳に刺さった。周囲の貴婦人たちが囁き合う中、
彼の視線はグラスに注がれた赤ワインに落ちている。
(アルフォンス様……!)
心臓が跳ねた。闇の淵で消えかけていた灯火が一瞬で燃え上がる。
「噂によるとアルフォンスは、まだ生き延びているようだな」
「まあ!あれほどまでにカズマ様に恥を掻かせられたのに」
「帝都を追われて辺境の森へ逃げ込んだとか。なんとも哀れな末路ですね」
貴族たちが嘲笑交じりに語る。私の身体は反射的に微笑みを浮かべている。
だが心は叫んでいた。
(違う……アルフォンス様はそんな男ではない!)
「……本当に生きているのか?」
カズマの声には確信に満ちた冷酷さがあった。探っていたのだ。
アルフォンス様の生存を。恐怖心ゆえか。あるいは徹底的に潰したい欲望か。
それでも――嬉しい。
アルフォンス様がまだ生きているというだけで。
この闇の中で踊らされ続ける日々に射した一条の光。
例えどんな状況であろうとも彼が存在しているという事実が私の魂を支えた。
「どうやらあの隻腕隻眼の騎士は森の中で彷徨い続けているようですな。
ほとんど手荷物もなく、魔物が多い辺境の森で……
しかもカズマ様への不敬罪で帝国からの支援も断たれていますなぁ」
中腹中背の貴族の言葉が刺さる。心臓を抉るようだった。
(それは私のせい……)
アルフォンス様は魔物に追われ続けているのだろう。
片腕を失い、片目を焼かれ。それでも生きている。
「……ふん。くだらないな」
カズマの吐き捨てるような笑みを浮かべる。
私の身体は勝手に彼に寄り添う。
(やめろっ……こんな男にいつもいつも媚びをっっ!)
声にならない叫び。涙すら出ない。
アルフォンス様はきっと今も耐えている。
魔物の牙に襲われる夜。飢えと孤独に苛まれる昼。
それでも彼は生き続けているのだ。
ああ……でも。それはきっと「生き残るため」じゃない。
(死に場所を探しているんですね……)
アルフォンス様の剣が自分自身を貫く光景が脳裏を過る。
あの高潔な人が生き恥を晒すことを良しとするはずがない。
(そんなことは絶対にさせません!)
私は心の中で絶叫する。身体が媚びるほどに心は猛り狂っていた。
カズマに弄ばれながらも私の魂だけは燃えている。
アルフォンス様――あなたの命を守るために。
そして必ず――カズマを殺します。
たとえこの肉体が汚物にまみれていようと。魂は取り戻します。
あなたのもとへ魂だけでも還るために。
だから――生きてください。アルフォンス様。
私も――この醜悪な肉塊の中にあっても決して諦めない。
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宴席のざわめきが不意に途切れたのは、
酔漢のような侍従の甲高い声のせいだった。
「なんと! 噂では辺境の森で《解放者》と《救済者》と名乗る男女が――」
閉じ込められた体の中で、私の心はその噂を追いかけていた。
解放者と救済者……まるで――かつてのアルフォンス様と私のようだ。
侍従の方たちの間で囁かれる話によれば、
その二人は魔物に追われる村人たちを助けては避難させ、
傷ついた者には自ら分け与える食料と薬草。
さらに魔王軍四天王の尖兵部隊さえも撃退したという。
荒削りだが清廉な勇者の逸話。そんなものが市井を駆け巡っていた。
(まるで……1年前の私たちのようですね……)
帝国軍の庇護が遠く及ばない辺境の村々。
貧困と魔物に苦しむ民のために遠征した私たち。アルフォンス様は剣を振るい、
私は呪文を操り。互いに手を取り合って困難を乗り越えてきた。
なのに今の私はどうだ?
侍女の方や侍従の方達が称賛を送る中で、私の身体はただ愛想良く微笑んでいる。
カズマの機嫌を取るためだけに動く操り人形として。
だがその仮面の奥で私の心は嗚咽していた。
今や私は単なる娼婦と変わりない。
カズマに抱かれ、彼に媚びるしか能のない肉の塊だ。
昔の私たちと同じことをしている者がいるのに。
(そんな風に考えることが烏滸がましい……!)
そう叫ぶもう一人の私が胸を締め付けた。
今の私からすればあの話に縋ること自体が罪深い。
「ほう? その連中が四天王の部下を?」
カズマの鼻で笑うような声が耳に刺さった。
「どうせ弱小部隊に違いない。俺こそが真の勇者だ」
彼は赤い唇を歪めて得意げに続けた。
「よし決めたぞ。俺も近く最前線に赴いて四天王を討伐してやろう。
庶民たちから崇められるのは気持ちがいいだろうしな」
(何を考えているの……)
内心で震える私に構わず、私の唇は愛想よく囁く。
「素晴らしいですわ、カズマさまぁ。民のための偉大なお働きです」
(嘘だ……! コイツには、そんな感情微塵もないっ!)
媚びへつらう言葉しか出せない。身体の奥で絶望が煮えたぎる。
カズマの横暴はいつものことだが、今回ばかりは別種の焦燥を感じのだろう。
あの「解放者」と「救済者」の方たちの噂が広まることで、
帝都でのカズマの地位が危うくなる可能性があるのではないか、と。
それで慌てて「人気取り」に出るつもりなのだ。
私の心はその矮小な考えに大声を上げた。
(アルフォンス様なら……決してこんな卑劣な真似はしない)
アルフォンス様はただひたすらに民を思い行動していただけ。
彼自身は何一つ報酬を求めず剣を振るったのだ。
それがあの「解放者」たちと重なって見える。
だからこそ――私は彼らの正体を知らずとも懐かしさと痛みを感じてしまう。
けれど今の私にはそれを口に出すことすら許されない。
私はこの屈辱の中でただ一匹の虫のように息をしている。
カズマは侍女たちに高らかに宣言していた。
「近く――必ず四天王と対峙しその一角を落としてみせる。
そうだなアリシア――君もついてきてくれるだろう?」
「はいぃ……カズマさまの仰せのままに♡」
私の身体は甘く溶けそうな声で答える。心の中は激しく波打つ。
(誰がオマエなんかの命令に従うものか!)
それでも私はその場でひざまずくしかない。
カズマの足元に傅き彼を見上げる格好を演じている。
会場の皆の目に映る私はきっと惨めに腰を振っているんだろう。
かつて誇り高く凛々しくあったアルフォンス様の傍らに居たころの私ではない。
この浅ましい姿はカズマによって作り替えられたものだ。
私は今ここでどれほどの醜態を晒していても、
心だけは絶対にアルフォンス様にだけ捧げると誓った魂がある。
それが今の私の唯一の光だった。
そう願うことしかできない無力さに打ちひしがれながらも。
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西部戦線への道程は想像以上に過酷だった。
四天王の一角を落とすと言ったカズマ。
当初は四天王唯一の女性、エルダードラゴン族出身のリザミアを狙っていた。
おそらく……下衆な魅了で楽をしようと考えたのだろう。コイツは戦いを舐めている。
しかし、魔王軍の西部戦線を担い帝国に攻め込んでいた、
四天王ヴェインがカズマに一騎打ちの提案をしてきた。
その申し出は西部戦線の砦から帝都に届いておりカズマは逃げることは出来ない。
結果、私とヒーラーのミリアを連れて西部戦線に向かう事となったのだ。
豪華な馬車に揺られながらカズマがニヤついた下卑た貌で笑う。
「おいアリシア!もっと近くに来いよ!」
私の体は勝手に彼の腕に絡みつく。媚びた笑みを浮かべて。
「はぁい♡ カズマさまぁ」
(畜生……!こんな男に……)
内心の抵抗とは裏腹に、私の指がカズマの胸板をなぞる。
すぐ傍ではミリアが甲高い声で笑う。
「ねぇカズマ様ぁ? 次は私にお構いくださいですぅ!」
護衛の騎士たちが白い目でこちらを見ている。
カズマに媚びをうっている騎士団長が預かる騎士団の団員達だが、
彼らはアルフォンス様に薫陶していたのを私は知っている。
当然、私の事も彼等は知っていて……呆れられているのだろう。
「アリシア様が……こんなお姿に」「アルフォンス団長を捨てて……」
ひそひそと聞こえる声に歯を噛み締める。かつての私の凛とした姿など微塵もない。
煌びやかに着飾ったこの姿はただの娼婦だ。
カズマが突然立ち上がる。
「よーし休憩だ!今日は特別サービスで二人とも奉仕してくれよな!」
岩陰に連れ込まれる私たち。兵士たちが不快そうに目をそらす。
地面に跪き舌を這わせる私の体。涙すら出ない。
これが屈辱?
アルフォンス様が受けた惨めさに比べれば……
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西部戦線の真ん中で四天王ヴェインとカズマの戦いは始まった。
驚いた事にカズマはアルフォンス様と戦った時よりも更に強くなっていた。
ただ、相変わらずハリボテのような偽物に感じる強さだ。
ヴェインもそれを感じているようで、カズマの誇りも無い戦いに怒りを見せていた。
カズマは最初は様子見……というよりも経験の少なさから、
ビビリ逃げてばかりだったが、いつの間にかヴェインを舐め始めて攻勢にでた。
追い詰められるヴェイン。
カズマが大技を繰り出した時、ヴェインはその技を受けながら口から爆炎を吐く。
それは命を注ぎ込んだ身を削る技だ。私にはそう感じる。覚悟が伝わる。
辛うじて避けるカズマは驚きビビリ座り込んだ。腰が抜けたように見える。
ヴェインはおそらく放ってはいけない二発目の爆炎を放った。
あれは魂も注ぎ込んだ爆炎だ。おそらくヴェインはこのまま死ぬ気だ。
カズマは座り込んだまま。いい気味だ。このまま死ねばいい。殺れヴェイン。
いやヴェインさん。骨はひろってあげますから。
ヴェインの咆哮とともに迸る灼熱の爆炎。
迫りくる炎に凍りつくカズマ。その腰が抜けて地面にへたり込む姿に、
「ざまぁみろ」と心中で吐き捨てた。
(死ね、この偽勇者め……)
その瞬間だった。魅了された身体が勝手に駆け出していた。
(嘘……まさか……)
魅了に染め上げられた身体が本能的にカズマを庇い飛び込んだ。
左腕に焼ける衝撃が走る。肉の焼ける音。
痛みが遅れて押し寄せた。皮膚が剥がれ赤い肉が覗く。
だがそれよりも怒りがこみ上げてくる。
(なぜ……なぜカズマを庇った?)
アルフォンス様の腕が切り落とされるのをただ見ているだけだったくせにっ!
その腕を私に灰にさせた憎らしいカズマをっ!
なのにこの身体は――何の躊躇もなくアイツを庇ったのだ。
(この恥知らずの体め……)
左腕が焼けただれているはずなのに、
この愚かな身体は痛みを無視してカズマへと駆け寄った。
「カズマさまぁ♡ ご無事でしたぁ?」
甘ったるい声を漏らしながらカズマの胸に擦り寄る自分がいる。
ヴエインは全てを注ぎ込んだ爆炎の後に塵となり消えていった。
カズマはヴェインの最期の二撃に怯んでいただけだ。
「見ろよぉ! 勇者カズマ様の大勝利だっ!」
狂ったように笑うカズマ。その目の端に僅かな安堵が滲んでいる。
カズマに擦り寄りながら、焼けただれた左腕を痛みに私は内心で呪った。
この左腕なんか燃え尽きて朽ちてしまえばよかったのに、と。
(そうすればアルフォンス様と同じ痛みを……)
彼が失った左腕。私も失えば。
(カズマも私に興味をなくすかもしれない)
密かな自慢だった流れる美しい金髪。巻き髪にされた今も風になびいている。
清楚だったはずの顔は媚びへつらう表情を浮かべている。
その内心で本当の私は、カズマを救ったこの身を呪い続けていた。
真アリシアさん回想1よりは衝撃は少なかったかと思います。
あと出来れば1回でリーンさんと対面する時間軸に行きたいですが、
もしかしたら2回に分けるかもしれません。




