掬い上げられた魂と啓示
聖女リーンによる治癒を受け一命を取り留めたアルフォンスであったが、
失われた左腕と潰れた左目は元に戻ることは無かった。
ただ彼の心に僅かながら正気が戻っていたのがリーンにとっては幸いだった。
その理由は彼の心が壊れたままならば、真実を知っても意味がないからだ。
そして彼が正常な判断力を保っている限り、
リーンにはやらなければならない事が残されていた。
「これからの話をする前にまず自己紹介をしましょう。私はリーンと言います。
女神フィリアに選ばれた勇者を導く存在……聖女らしいのです」
(女神に選ばれた……聖女? どういう事だ?)
アルフォンスの頭に疑問符が浮かぶ。
その表情を見たリーンは丁寧に説明を続けてくれた。
「この世界の人々が信仰する女神フィリアは確かに実在します。
そして女神の加護を持つ者は二種類居ます……つまり勇者と聖女です」
リーンの説明によれば、アルフォンスは女神から本物の勇者として選ばれ、
女神の啓示として人々に伝わるはずだったのだと言う。
勇者カズマはあくまでも国に召喚された存在。
システムは判明していないが、召喚時に何かしらの能力を得るとされている。
それは本人の意思に依存するが、大抵は勇者として有用な能力だった。
帝国を含む各国の歴史に残されている"今までの魔王"に対する対抗手段として、
"召喚勇者"こそが本当の勇者と考えられ敬われていた。
現在の世界の歴史以前には女神フィリアの定める"本物の魔王"がいた事を知らず、
今回の魔王が"ソレ"だとは世界各国も気付かなかった。
何故なら、女神の啓示前に和馬を召喚して、本物の勇者となるアルフォンスは
勇者のチカラが目覚める前に勇者カズマによって切って捨てられてしまったからだ。
「俺は……俺こそが女神から選ばれた"本物の勇者"だと?」
「そうです。アルフォンス様が魔王討伐に必要な存在なのです。
そしてそれを私と一緒に果たすというのが女神の意志のようです……」
信じられない言葉が並ぶ。
だが、今のアルフォンスにとってリーンの言葉は救いでも希望でも無い。
(俺があの偽物勇者よりも上位の存在だというのは胸がすく思いだ……だが)
アルフォンスの視線はリーンへと向けられた。
聖女リーンは本物の勇者……アルフォンスが抱えた闇に気付いていた。
「ですが、貴方は大切な人を奪われ、隻腕隻眼にされてしまわれた。
その身で勇者様としての万全のチカラを振るうのは難しいかもしれません。」
「何より……アルフォンス様にとっての災厄の遠因である、この世界の国々を
救うという意思を持てるのかについても……」
アルフォンスは唇を噛み締めた。
理性を捨て、その身を獣に墜とす事で考える事を放棄していられた絶望。
アリシアを奪われた屈辱と怒り、そして自身が受けた傷の痛みの絶望の記憶。
皮肉にも女神と聖女によって、僅かに正常となった彼の中に怒りと憎しみが蘇る。
(そうだ……俺が守るべきだったもの全てをアイツに奪われた
俺はもう騎士ではない。国のために戦う義理もない……)
そう考えてしまう自分自身にも嫌気がさす。
しかし同時に心の片隅ではこうも思う。
(だけど……あの偽物勇者カズマが世界を救えるとは到底思えない)
かつての正義感や責任感が疼いている。
そして聖女リーンとの出会い。彼女は自分を必要としていると言う。
「……俺は……」
言葉を探し続ける中で一つだけ確かなことがあった。
「俺はもう誰も信用しないと思っていた。
なのに君を信じてしまっている自分に気づくと情けなくなるよ……」
「当然だと思います。貴方は辛い経験をされていますから……。
でも私の役割はきっとこれなのでしょう。
女神の意志もアルフォンス様を信じています……きっと大丈夫です」
聖女リーンの優しい微笑みを見ると不思議と気持ちが落ち着いた。
まるで母親に諭される子供のように安心感を覚えてしまう。
「ありがとう……君のおかげで少しだけ冷静になれた気がする」
それでも胸中に渦巻く怒りや憎しみは消えない。
だからといって全てを投げ出すわけにもいかなかった。
「女神フィリアの危惧する魔王もカズマも放置されて良い存在ではない。
このまま放置して、この世界の人々が苦しむのならば……俺は……」
「そうですね。貴方の苦しみは全て理解は出来なくとも伝わっては来ます。
それはもう痛いほどに……そして、貴方が決意された思いもです」
聖女リーンは静かに同意してくれた。
二人の間で新たな決意が芽生え始めていた……
真・テンプレ発動
しかし……プロット無しなんで収拾つくのか不安です(-_-;)