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そして帝国は終幕に。第一幕の帳(とばり)はおりた。

ガルドムの転移が完了し静寂が支配する謁見場大広間――

ただ無数の四肢の無い身体だけ者達が散乱し、呻き声と啜り泣いている光景がそこにある。


その中にあってなお異彩を放つのは二人。


一方は皇帝グレゴリウス。玉座に半ば埋もれながら、残った頭部と胴体だけを震わせている。

一方は和馬が令嬢の華奢な四肢を生やした姿で、何かを考えるように令嬢の指を口元に当てていた。


そんな和馬を普段と変わらず恍惚とした瞳で見つめる、四肢の無いアリシアとミリア。

魅了の術が彼女たちを縛り付け、感情すらも麻痺させているようだった。



その静寂を切り裂くように――


「アルフォンスだぁぁぁぁッ!!」


呻き声と啜り泣きが支配する空間に突如、皇帝グレゴリウスの絶叫が大広間を震わせた。


頭部と胴体だけになったその姿のまま、

玉座に身を任せ悶えながら憎悪に燃える両目を魔王に突き刺す。


「"解放者"! アルフォンス=クラウゼヴィッツだ! 奴が来る!!」


何をもって彼が――アルフォンスが自分達を助けてくれると思えるのだろうか。


しかし希望に縋る彼の面影は……かつての威厳に満ちた皇帝のそれでは無かった。

今のグレゴリウスは理性を失った獣の如く咆哮し暴れている。


「そうなんだろうッ!? お前は奴が怖いんだろう!?

 アルフォンスは二体の四天王を斃した……英雄だ!我らの国の英雄なのだッ!!

 異世界から召喚した勇者カズマなんかとは違う……真の英雄!

 だからお前は臆病風に吹かれ……我が国にっ私に対して卑怯極まる事を仕掛けてきた!!」


支離滅裂な叫びが周囲の空気を凍りつかせる。その叫び声はまるで断末魔にも似ていた。

その狂態を目の当たりにし和馬は辟易した様子を見せた。

(いや……何言ってんだコイツ……?)


「我を殺し我が民を殺し……そして召喚した勇者も殺して……」


皇帝の叫びは止まらない。もはや自身の言葉すら耳に入っていないかのようだった。


「そうすればアルフォンスは我らの協力が得られず不利となるっっ!

 お前は……お前は卑怯者なんだ!!」


「だが、残念だったなっっ お前は我々を殺すどころかカズマに追い込まれいるっっ!

 それ程ボロボロにされた上に、アルフォンスが私を救いにここに来るのだからっっ!」


その憐れな叫びに魔王ガルグリムは嗤った。

そして何を思ったのか……ゆっくりと頷きながら肯定する。


『そうだな……』


魔王の返答に皇帝グレゴリウスが固まる。

和馬もまた呆然とした。この状況下で魔王が認めるとは思わなかった。


「ハ……ハハハ……そうだろうがっ!!」


我が意を得たりとグレゴリウスが再び気炎をあげようとした——


その刹那。


魔王ガルグリムが軽く手を翳す。同時に周囲の空気が重くなった。


『……"解放者"アルフォンスという者をが怖いと思っているのは認めよう』


グレゴリウスの歓喜が、よりいっそう極彩色の如く色付いていく。


『依り代である私が……人間たちの希望の象徴たる女神の狗と対峙するのだ』


ガルグリムの赤い瞳が鈍く輝いた。


『ここからは余興も終わりだ』


魔王は大広間に集う者たちを見渡す。


『本当の闘いが……始まる』


謁見場の空気が張り詰める。全ての者が次の言葉を待った。


『魔の創造神ガルグリムの依り代たる私と女神フィリアの勇者……アルフォンス』


ガルグリムの冷笑が浮かぶ。


『そして依り代としての私と……女神が使う聖女との戦いだ』


その言葉が広間に重くのしかかる。


『だが』


魔王……魔の創造神から漏れる闇がより深く濃くなった。


『邪魔なゴミは処分しておかなければな』


全ての者が凍りついた。


『音楽隊にも及ばない呻きや啜り泣き……もう聞き飽きた』


その言葉が意味することはただ一つだった。


和馬の身体が硬直した。貴族や騎士団長たちの顔が青ざめる。

のかなりの数の貴族令嬢は気を失ってた。宰相ラファエルは既に諦めている。


流石に愚王グレゴリウスも魔王の真意を悟った。


「奴が女神の勇者……アルフォンスが……勇者だった……

 そして私を……アルフォンスが来る前に殺すつもりか……なのか……?」


四肢を失い玉座に埋もれる躰で――

グレゴリウスの声にようやく絶望が灯る。しかし直後には……


「奴が勇者なら……ならばっアルフォンスが貴様を許すと思うのかっ!?」


支離滅裂な叫びが広間に木霊する。あまりに哀れで惨めな姿だった。


宰相ラファエルが目を閉じた。もはや見ていられぬといった表情である。

貴族令嬢の四肢になっている異形の和馬もまた混乱していた。


(俺はどうなる……? この場の連中が殺されるってことは……俺も……?

 っていうか、アルフォンスが女神の勇者ってなんだよっ!? )


焦燥が全身を駆け巡る。この状況で自分だけが生き残れる保証などない。


魔王ガルグリムは冷笑を浮かべる。


『経緯は知らぬが……お前たちはアルフォンスとやらをこの国から追い出したのだろう?』


貴族たちが固唾を飲む。


『この国の騎士団長の一人だったのだろう?……奴は?』


騎士団長たちが俯く。誰も否定しない。


『そこな召喚勇者を優遇してな?』


和馬も押し黙る。今更言い訳のしようもない。


『お前たちは女神の真の勇者という存在を知らなかったわけだが……』


魔王の声が徐々に凍る様に冷え込んで彼らの耳に届く。


『奴が真の勇者だと知ったからといって縋るのは烏滸がましいと思わんのか?』


沈黙が流れる。もはや反論の余地もない。


『それとも勇者なら助けて当然だと思ったか?』


ガルグリムの哄笑が広間に響くと同時に、

大広間全体を支配していた呻きや咽びの音量が跳ね上がる。


貴族たちの多くは恐怖に顔を引き攣らせ失禁してしまう者までいる。

騎士団長たちは互いを庇い合うことも出来ず、ただ震えるしかなかった。

皆が四肢を失い床や壁に転がったままの姿で。


宰相ラファエルは机に伏したまま一瞬、

アルフォンスの元婚約者であるアリシア=レイヴェルナを見て涙を流す。


アリシアとミリアはいまだ黙り込む和馬の心配をしていた。

その和馬は怒りなのか絶望なのか分からない表情で唇を噛み締めていた。


---


あろうことか魔王ガルグリムに己らの罪をつきつけられた皇帝グレゴリウス。

玉座に半ば埋もれた彼の喉から、嗄れ果てた声が零れ落ちた。


「私はっ知らなかった! 知っていればっあんなっ追放などっ!!」


「……いやっそもそもアリシアを奪ったのはカズマだっ!

 奴が魅了の能力で……! 私は悪くないっ!」


「アルフォンスは私を助けてくれるっ! 皇帝の騎士だぞっ!

 アルフォンスはっ! アルフォンスはぁぁああッ!!」


深夜の帝都宮廷、謁見場大広間に響き渡るその叫喚は、おそらく今夜最大の絶叫であったろう。


その刹那——皇帝の口から飛び出した「魅了の能力」という単語に、

四肢のみとなり肉塊と化した和馬の取り巻きの貴族たちと騎士団長たちが反応した。


そして数瞬の後に理解した。

彼らの絶望の顔はいまだ先があったのかと思うくらい更なる絶望の顔となる。

自身たちのアルフォンスへの所業をようやく実感した。

そして如何に自分達が媚びへつらった召喚勇者カズマがクズだったのかを知ったのだ。


しかし当の和馬はといえば……この修羅場の中心にありながら、

ただただ不貞腐れた表情で虚空を見つめていた。


アリシアとミリアはといえば、魅了の影響のおかげできょとんとしている。


宰相ラファエルは机に伏したまま、もう何度目かわからない涙を流していた。

彼の脳裏には遠い日の……

アルフォンスの元婚約者であったアリシア=レイヴェルナの姿が浮かんでいた。

その絶望と諦観が混じり合った涙は止まることを知らないようだった。


そこに——


『——さて』


魔王ガルグリムが静かに口を開いた。

その言葉はまるで剣の一振りのように、広間に充満していた混乱と絶望を一刀両断した。


『思いのほか時間がかかったようだが……

 女神の勇者が近づいている。私も準備をしないとな』


そう呟くと同時に先の和馬との戦いで傷ついていた筈の黒衣も……身体さえも、

そのダメージだと思っていた全ての傷が消え去り、万全な魔王の姿に戻る

ここに至ってようやくこの場にいる者全てが理解した"遊ばれて"いたのだと。


『では……この余興の幕をそろそろ下ろすとしようか?』


ガルグリムの深紅の瞳が煌めいた。その眼差しはまさに魔の神のそれであり、

周囲の全てを射抜くように鋭く貫いた。



ガルグリムの言葉がトリガーとなった。


これまで虚脱感に浸っていた者たちが、突如として咆哮を始めたのだ。


「うぐああああっ!! もっと……もっと生きたいぃぃぃ!!」

「死にたくねぇえええええっ!!」


貴族や騎士団長たちの喉奥から怨嗟の唸りが。

四肢の無い躰であっても生命への原始的欲望を爆発させていた。


それは先まで魔王と戦っていた和馬も同じであった。


ガルグリムに遊ばれていた事実に怒りはある。

だが――その絶大な魔王の力の前には命の心配のほうが大きい。

その内心では聖女がくれば、自分の身体を魅了で元に戻せる……

という打算があった。


アリシアとミリアは魅了により恐怖を感じず、

既に気を失っている貴族令嬢らはある意味幸せと言えただろう。


そして――この中でも最も激しい感情を露わにしたのは皇帝グレゴリウスだった。

先ほどまでの絶望と命乞いは一変し、怒号となって噴出する。


「貴様ァッ! 我々を玩具にして弄んでいたのかッ!?」

「アルフォンスを……勇者を待つための時間稼ぎだったのかァッ!?」

「なぜだ……なぜ我々をこんな目に合わせる!?」


怒りと屈辱に顔を歪ませたグレゴリウスが玉座から転げ、四肢を失いながらも

可能な限り身を乗り出して吼えた。その声はもはや理性を失った獣の雄叫びにも似ていた。


だが魔王ガルグリムは冷ややかな表情を崩さずに嘲笑うように吐き捨てる。


『だって……面白いものなぁ』


初めて感情らしい感情を乗せたその声音。愉悦に満ち満ちた貌。


『女神が創ったヒト共の踊る姿を眺めるのは』


嘲りを隠さない声音で放たれる一言。それこそが全ての真意だったのだ。


ガルグリムは無造作に黒衣の袖から片手を上げ、



そして――乾いた音と共に指が弾かれた。



ガルグリムの合図と共に謁見場大広間にいた四肢を失っている全ての者の、

四肢のあった個所を綴じていた闇のような膜が身体全体に広がり――身体が飲まれていく。


それは地面に転がった氷のように、四肢の四方から胴体に広がって溶け込まれていく。


魔王が和馬の失った四肢の代わりとして、広間にいる者達の四肢を

付け替えてやっていたのはこの仕込みの意味もあった。


つまり皇帝や和馬を含めた全ての者達が魔王が"指先一つ"鳴らすだけで……

死に至らしめる呪いを与えられていたのだ。


魔王の余興のフィナーレに相応しい幕引き——


皇帝はまだ叫び続けた。「こんな事で……私が……私は……ッ!!」


しかし次の瞬間——


彼の四肢のあった切断部から黒い闇が波紋のように広がり……

その絶望の叫びごと皇帝を包み込んでしまった。


それと同じ現象が謁見場大広間全体で同時多発的に起こった。


貴族たちの悲痛な絶叫も、騎士団長たちの最後の足掻きも、

全てが無慈悲な闇に飲み込まれていく。


それはまさしく呪いの具現化だった。


宰相ラファエルも例外ではない。

机に伏せていた彼の身体からも暗闇が滲み出し、

「……どうして……こうなってしまったのか……」という呟きも途絶え。


そして――


和馬の四肢として貴族令嬢の白く気品のある右手指先が握っていた聖剣――


レヴァティーンが床に落ちる音が広間に響いた……



ああっっ反応が怖いっっ! でも楽しみっっ!

そして魔王に「面白いものなぁ」の台詞を言わせることが出来ました。

知らない方多いと思いますが、ゼ〇ブレイドのとある方のセリフです。CV:大塚明夫氏


いや、悪ふざけはしてないです。舞台が帝都と決めたときから描いていたラストです。

四肢欠損は2日前の夜に思いつきましたが。多分……国側への扱いは良いとして、

「えっ?」と思っている方が多いでしょう。だから分けました。


次回。ようやっとアルくんとリーンちゃんが大広間に入ります。

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― 新着の感想 ―
やはりこの展開だとアリシアとミリアが一番ひどい目に遭ってて、皇帝や和馬ももちろん絶望緒しているんだろうけど、アリシアやミリアが正気に戻った場合のそれと比べると格段に弱い... なんなら和馬や皇帝の味わ…
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