幕間:勇者カズマ・アリシアside2 - 油断しない(つもりな)クズ勇者
窓から差し込む柔らかな光がシルクの寝具を照らしている。
俺の隣では、金髪の美女が裸で気持ち良さそうに眠っている。
元騎士団長の婚約者だったアリシアだ。
俺の魅了スキルによって、アリシアの心は俺好みに染め上げられ、
昨晩のアリシアは元の彼女とはかけ離れて俺に従順で淫乱だった。
「カズマさまぁ……もう少し寝ましょう……?」
寝ぼけ眼で俺の腕にしがみつくアリシア。その豊かな胸が押し付けられる。
(これだよこれ……異世界召喚ものの醍醐味だよなぁ)
日本の高校では女子とまともに話したこともなかった俺が、
今やこんな美少女と好きなだけイチャつけるなんて夢みたいだ。
ただし気を抜いちゃいけない。
俺はこれまで読んだラノベやアニメから学んだ。
テンプレ主人公が堕落して破滅するパターンは山ほどある。
特に魅了やハーレム系能力は敵を作る原因にもなるんだ。
(アルフォンスみたいな正道な主人公タイプは特に危険だ……)
魅了スキルの確認のつもりで何気なく、俺がアリシアを奪ったことは仕方ない。
何よりもアリシアの事は気に入っているし、魔導士としての能力も高い。
まあ……アルフォンスも俺やかつての婚約者にあれだけ傷つけられれば、
歯向かう気力も出ないとは思うが……後は魔王と手を組むくらいか?
「おいアリシア。今日の予定を聞かせろ」
俺が少し冷たく言うと、彼女は慌てて飛び起きた。
「あっ、申し訳ございませんカズマさま……!
今日は午後に国王陛下主催の壮行会パーティーがあります。
それに各地の有力貴族たちが挨拶に来られますね。
後は……魔王軍の小規模な侵攻部隊を迎え撃つ作戦会議も……」
「了解だ。貴族どもは適当に相手してやればいい。肝心なのは魔王軍戦だな」
俺が異世界召喚の際に求めた能力『勇者システム』は確かに強力だ。
でもレベル上げや装備集めみたいな地道な努力をしないと
いつか絶対ピンチに陥る気がする。
(テンプレでよくある「実は弱い勇者でした」なんて展開も困る)
そんなことを考えてるうちに王宮の侍女が朝食の用意ができたと告げた。
アリシアは急いで身支度を始めている。
「今日も一日頑張りますからね、カズマさま♡」
鏡越しにこっちを見る彼女の瞳は熱っぽい。
その姿に満足しつつも、油断は禁物だと自分に言い聞かせる。
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華やかなシャンデリアの下で貴族たちが談笑している。
俺は国王の横に立ち、次々と挨拶に訪れる人々に頷いていた。
みんな口々に俺を褒め称え、献上品を持ってくる。
「さすがカズマ殿、あの"元騎士団長"アルフォンスさえ一太刀で打ち破ったとか」
「勇者様のお力があれば魔王軍など恐れるに足りません!」
国王までもが俺に敬語を使う始末だ。この世界の連中は自分たちで召喚したくせに、
俺みたいな召喚勇者を神様みたいな存在だと思っているらしい。
(まあ、悪い気分じゃないけどね……)
だがここで調子に乗っちゃダメだ。俺はテンプレ勇者が油断してる時に出てくる
「実は裏切り者が……」的な展開が一番怖いんだ。
アルフォンスを排除したのもそのためだし、
他の国の英雄や魔王軍の幹部にも注意が必要だ。
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翌日、国境付近に出現した魔王軍の侵攻部隊を
迎え撃つ作戦が始まった。
報告によればゴブリンとオークの混成部隊。数は五千ほどか。
「カズマ様! 敵主力が接近しています!」
「よし。まずは俺が見せつけてやるよ」
俺は自ら前に出てスキルを発動させた。
『勇者システム』にはいくつかの特殊攻撃がある。
その一つが『神罰の雷』だ。
「雷撃よ! 邪悪を貫け!」
手を掲げると同時に空中から巨大な稲妻が降り注いだ。
ドオォォォンッ!!
轟音とともに地表が爆ぜ、敵陣の中央に深い穴が開く。
煙が晴れるとそこには数十匹の魔物が黒焦げになっていた。
「ひぃっ! あれが勇者様の御力なのか……!?」
「すげぇ……!」
騎士団の連中が驚愕の声を上げる。
これで士気も上がるだろうし、敵側の指揮系統も乱れてるはずだ。
(まあ……こんな派手な技を使えば目立ってしょうがないんだけどね)
でもこれは必要なデモンストレーションだ。
俺の力を知らしめておくことで敵にも味方にも牽制になる。
そして数時間後――
無事に戦いは終わった。
こちらの犠牲は最小限で抑えられたようだ。
凱旋パレードのような雰囲気の中、俺は馬車に揺られている。
隣にはアリシアがぴったり寄り添い、
「カズマさま凄かったですぅ~」なんて甘い声を出している。
(これでまた「勇者様」の株が上がったな……)
そう思いつつも心の中では警戒を解かない。
明日からはまた政務や訓練に励まなきゃならないだろう。
(とりあえずテンプレ破滅エンドだけは避けたいな)
アリシアが俺の腕に頬ずりしながら言う。
「カズマさま……私、一生ついていきますからね……♡」
俺はその言葉に曖昧に頷きながら
これから起こるであろう試練について思いを巡らせていた――。