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ふたりの旅路 - ふたりの想い -

ベッドに横たわりながらアルフォンスは天井を見上げた。


薄暗い部屋の中、

窓の隙間から差し込む月明かりだけがわずかに照らしている。


「俺は……本当に変わってしまったな」


記録のなかであった筈の左手を目の前にかざす。

そこにあるはずの腕はなくただ空間が虚ろに広がっている。


カズマによって切り落とされアリシアに焼かれた左腕。

左顔と左目を焼き尽くした炎。騎士として誇り高く生きていた自分が、

こんな姿になるとは想像もしなかった。


「だが……俺を救ってくれたひとがいる」


銀髪の可憐な少女リーン。

聖女として女神の啓示を受けた彼女はアルフォンスの抱える闇に

光を差し伸べてくれた。彼を真の勇者として支え導く存在になってくれた。


「彼女がいなければ……俺はとっくに壊れ、くたばっていただろう」


宿場町オルデン、今まで彼女と回った村々の人々を思い出す。

「解放者」「救済者」として彼らは自分達を迎えてくれた。

あの頃なら想像もつかなかっただろう。アルフォンスの心に暖かいものが広がる。


「だが……果たしてそれでいいのか?」

自問する。リーンから受けた告白を思い出す。


『私は……魔族との戦いが終わった後もあなたと一緒にいたいと思っています』


『今すぐお答えいただかなくても結構です。

 ただ……私の気持ちを知っておいてほしかったので……』


あのときアルフォンスは答えることができなかった。

それはまだ終わっていない戦いがあるから。魔王討伐という使命が残っているから。


「すべてが終わったら……必ず答えを出そう」

そう心に決めている。


しかしアリシアへの気持ちが完全に消え去ったわけではない。


彼女との長い時間を共にした想い出。

初めて出会った時から互いに支え合い成長してきた日々。


「彼女は本当に変わってしまったのだろうか?」


カズマに騙されているのではないのか?

召喚勇者の何かしらの能力の影響を受けた結果なのではないのか?


「あのアリシアがあんなことをするだろうか……」


アルフォンスの中で微かな疑問から、確信に変わりつつある仮説。

それは自身が女神の勇者として特別なチカラを宿していたと知ってからだった。


「だが……もしもすべてが真に彼女自身の意志だったら?」


そうだとしたら許せるはずはない。


互いに最愛と思っていた婚約者であり戦友に裏切られたのだ。

壊れた心が治った今、蘇った怒りと悲しみは消えるものではない。


「どちらにしても……まずは生き延びなければならない」


勇者として世界を守るため。そしてリーンを守るため。

全ての答えを出すのは戦いが終わってからだ。


「……ん…」


ベッドから起き上がり窓辺へ歩いて行く。

冷たい空気が肺を満たし頭が冴えてくる。


「リーン……君への想いも確かにある」


だがそれを今表すわけにはいかない。

最後の戦いを前に心が乱れるのは避けなければならないからだ。


「すべてが終わったら……必ず伝えよう。君への答えを」


静寂の中アルフォンスはそっと呟いた。


---


隣室ではリーンも窓辺に佇んでいた。

窓ガラスに映る自らの姿を見る。


白銀の長い髪と淡い青の瞳。

今は聖女らしく整えられた清楚な装いは今宵も変わらない。


「アルフォンス様……」


そっと名前を呼ぶ。返答がないのは分かっていても呟いてしまう。

あれからずっと胸の中で疼いている想い。


最初に思い出すのは、魔王軍幹部シャドウナイトとの激闘の後。

疲労困憊のアルフォンスに思わず告白してしまった時。


『私は……魔族との戦いが終わった後もあなたと一緒にいたいと思っています』


この時は言葉を紡いだ瞬間、リーン自身も驚いていた。

だが、それは心から溢れた確かな想いだった。


「あの時は仕方なかった……でも、この想いは今は……」


窓の外を見つめながら思考に沈む。

魔王……そして召喚勇者との対峙は近い。それは間違いない確信。


「私がアルフォンス様の代わりに……」


リーンは自分の弱さに気づき唇を噛みしめた。


「結局……私は……まだ迷っているんですね」


そう呟いて窓辺から離れると思い立ったように扉へ向かった。


---


窓辺から離れベッドへ潜り込んだアルフォンスは、

疲れた身体を休ませようと目を閉じた。


しかし眠りに落ちる前に微かな音が耳に届く。


コンコン……


控えめなノック音だった。

アルフォンスは眉をひそめながら体を起こし慎重に声をかける。


「誰だ?」


扉の向こうから返ってきたのは聞き慣れた声だった。


「リーンです。……少し……お話よろしいですか?」


予想外の訪問者にアルフォンスの鼓動が速くなる。

今までの野宿ではすぐ側で休んでいたというのに何故か意識してしまった。


「ああ……構わない。入ってくれ」


声に若干の動揺が滲んでいるのを感じつつも冷静さを装う。


ドアが静かに開きリーンが部屋に入ってきた。

月明かりだけが頼りの薄暗い室内で、彼女の白銀の髪が淡く輝いている。


「夜遅くに……ごめんなさい」


リーンの声は普段より低く小さく、その表情は緊張と戸惑いが入り混じっていた。



さあっ次回はラブコメかっ⁉ ここで引くのかっ⁉ ふざけんなっ⁉

と思った方、すいませんでした。

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