白銀の誓い - 帝都への報告 -
北部の寒村で一夜を過ごしたアルフォンスとリーン、
エリック率いる騎士団の一行。
翌朝、灰色の雲が厚く空を覆う中、
アルフォンスとリーンは雪の降り積もった宿屋の前に立っていた。
エリックと数名の騎士たちが整列している。
「本当に……ここで別れるんですね」
エリックの声には名残惜しさが滲んでいた。
「ああ」
アルフォンスは頷いた。「帝都への報告任務、頼んだぞ」
「アルフォンス様も……お気をつけて」
リーンが騎士たちに軽く会釈する。
「皆様もご無事で」
騎士たちは敬礼で応えた。
エリックは一歩踏み出し、アルフォンスに革袋を差し出した。
「団長……これを」
受け取るとずしりとした重さがあった。中には金貨と干し肉などが詰まっていた。
「こんなものを……」
「必要なものは持って行ってください。我々からのささやかな支援です」
アルフォンスは感謝の眼差しを向けた。
「ありがとう……助かるよ」
「それと……これも」
エリックが馬舎の方に視線を送る。
そこには美しい青鹿毛の軍馬が引かれてきた。
アルフォンスがこれまで見たこともないほど立派な馬だ。
「我が騎士団の誇る駿馬です。北方の厳しい地形でも問題ありません」
「助かるよ……ありがとう」
アルフォンスは馬を労うように鼻を撫でた。賢そうな瞳が彼を見つめ返す。
「名前は"セレスト"。北風のように速く駆ける勇敢な馬です」
「セレストか……大切に使わせてもらうよ」
リーンが嬉しそうに馬の首筋を撫でる。
「素敵な馬さんですね。これから宜しくお願い致します」
雪が再び強く舞い始めた。別れの時間が近づいている。
「それでは……」
エリックが敬礼し、他の騎士たちもそれに続いた。
「アルフォンス様の旅路に祝福あれ!」
アルフォンスとリーンも答礼する。
「エリック、君たちにも神の加護があらんことを」
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「急ぐぞ!」
エリックの号令のもと疲労困憊の馬たちを鞭打って進む。
彼らは通常なら数週間かかる道のりを、わずか五日間で踏破しようと試みていた。
アルフォンスの警告—真の魔王の出現—が彼らの背中に重くのしかかっていたのだ。
吹雪の中での行軍は過酷だった。何度か吹き飛ばされそうになった仲間もいたが、
彼らは互いを支え合いなんとか前進を続けた。
「皆……あと少しだ。帝都の灯りが見えてきたぞ」
エリックが先頭で叫ぶ。
彼の言葉通り前方には巨大な城壁都市の輪郭が見え始めていた。
エイリュシオン帝国の首都—華麗にして堅牢なる栄光の都。
五日目の夕刻。ついに彼らは帝都の正門に到着した。
馬は息絶えだえに足を震わせ騎士達も疲労困憊している。しかし……
「停まれ!」
門番が槍を構えて制止しようとするが
「緊急要件だ。至急陛下にお伝えしたいことがある!」
エリックは血相を変えた。
「どなたか?」
「騎士団副団長エリックだ!」
「エリック副団長様……!?失礼致しました……」
「通してくれ」
「ハッ……!」
門が開かれ馬蹄の音が石畳を叩きつける。
疲弊した馬達は最後の力を振り絞るように石畳の上を走り抜けていく
帝都の中央区画に近づくにつれ街の活気が増してきた。
どこからか聞こえる歓声や拍手の音。
そして通りを行き交う群衆が次第に多くなっていく。
「なんだ……これは?」
エリックが不審げに眉をひそめた。彼の記憶にある日常とは明らかに違っていた。
「エリック副団長。あれは……」
一人の兵士が指差す方向を見ると、そこには大きな看板が立てられていた。
『万歳!召喚勇者カズマ殿!凱旋!』
『我等の希望!魔王軍四天王ヴェイン討伐!』
『カズマ様バンザイ!!』
興奮した市民たちが集まり声高に叫びながら祭りのように騒いでいた。
通りには色とりどりの旗や垂れ幕が掲げられ街全体が祝祭ムードに包まれている。
帝都中が召喚勇者の功績を称賛していた。
「やはり……カズマは本当にヴェインを倒していたのか……」
エリックは愕然とした。アルフォンスの予想通りだった。
(だが……カズマの姿はない)
彼は周囲を見回した。あの男がこんな状況を放っておくはずがない。
きっと街の中心部で民衆に手を振っている光景が想像できたが……
「副団長!まだカズマ殿は南部戦線から到着されてないようです」
エリックは一瞬安堵した。
「良しいいぞ……とにかく陛下にご報告しなければ……」
彼は馬の腹を軽く蹴り宮殿への道を急いだ。
群衆を避けつつ石畳の坂を駆け上がる。
宮殿に到着すると門衛が素早く扉を開けた。
「緊急案件だ!陛下に直ちに面会したい!」
彼は迷うことなく謁見の間へ向かった。
長廊下を早足で進むエリックの表情は緊迫していた。
「失礼致します!」
扉を開けると玉座には皇帝グレゴリウス13世の姿があった。
驚く事に左右に居並ぶ筈の側近の姿はない。宰相ラファエルすらもだ。
「エリック……例の件だな?」
皇帝が静かに尋ねる。エリックは深く頭を下げた後
顔を上げてまっすぐ皇帝を見た。
「ハっ! 恐れながら陛下。団長……いえアルフォンス様を見つけました」
皇帝グレゴリウス13世の待ち望んだ報告であった筈だ。
しかし皇帝は落ち着いた様子で……
「奴を連れては……来れなかったのだな?」
「ハっ! アルフォンス様は単独で魔王軍と戦うと……」
「だから連れて来れなかったということか?」
「はい……しかしながら時間を掛ければ説得は可能かと思いました。
ですので、先ずは陛下に発見のご報告をと思いました
この後に再びアルフォンス様の元に伺い説得をしたいと考えております」
「ふむ……断る理由は無いな……よかろう」
「ハっ! では我らは再び出発したいと思います」
「いや……待て……」
皇帝がしばし考え込んでからエリックに問いかけた。
「アルフォンスは……魔王軍の事で何か言ってなかったか?」
「魔王軍について……ですか?」
エリックは一瞬だけ言葉に詰まった。
皇帝の鋭い眼差しを感じながら慎重に言葉を選ぶ。
(四天王二体の事は秘密だ……アルフォンス様の指示を守らねば……)
「特に……これといった事はありませんでした」
皇帝はしばらくエリックを観察した後、深いため息をついた。
「まあ良い。引き続きアルフォンスを説得するのだな」
「はっ!全力を尽くします!」
冷や汗を掻きつつも表情には出さずに謁見を終えたエリックは宮殿を後にした。
冬の帝都に流れる冷たい夜風が彼の頬を刺す。
「まずは……全員に休息を与えねばな……」
彼は兵舎に戻ると全員を集めた。
「諸君!よくぞ任務を完遂した!
今日から三日間の休暇を許可する。家族のもとで英気を養うがいい。
その後、改めてアルフォンス様の説得に向かう」
兵士たちの間に安堵の空気が広がった。
数週間の強行軍の疲れを癒し、家族との時間がとれた事を知り肩の力を抜いた。
「副団長!」
一人の若い騎士が前に出た。
「私はまだ行けます。すぐにでもアルフォンス様のもとへ……!」
エリックは若者の肩に手を置いた。
「気持ちは分かる。だが今は休むべきだ。
我々の仕事はこれからもっと厳しいものになるだろう。
万全の体調で挑まなければならない」
若い騎士は渋々納得したように頷いた。
「分かりました……」
「よし!解散!」
エリックの号令とともに兵士たちはそれぞれの家路についた。
兵舎には静寂が戻り、エリックは一人窓際に立った。
窓の外には帝都の夜景が広がっていた。
遠くに見える祝祭の明かりがぼんやりと浮かんでいる。
「カズマの凱旋……か」
アルフォンスの警告が彼の脳裏をよぎる。
(四天王ヴェインを倒したか……確かにヤツは強いのだろう。
しかしアルフォンス様はグラヴィウスとリザミアを倒したのだ)
「そして魔王は……アルフォンス様を狙っている……」
エリックは拳を握りしめた。
早急にアルフォンスと合流して彼の楯となり剣となり共に戦うのだ。
決意を新たにしたエリックは窓から離れ自室へ向かった。
本当はここから小さい段落の場面転換を繰り返して
盛り上げてくのですが無理でした。すいません。
この話しだけで3,000文字になるとは……。
次もまだ似た感じの話しが続きます。
つまらないと思いますがお付き合いください。
なんかタイトルが疾風アイアンリーガーみたいだ……




