追われし勇者、旧知の邂逅 - 解放者の真実 -
「実は……」エリックは深刻な表情で続けた。
「帝国内で急速に広まる噂をご存知でしょう。辺境や寒村、
難民キャンプから伝わった"解放者"と"救済者"というお二方の英雄譚です」
アルフォンスは複雑な表情で静かに頷いた。
「恥ずかしいが……私とリーンのことだろう」
「ハハ、その通りですね。ですが……陛下もその事実をご存知なのです」
エリックの声が低くなる。
「噂が流れ始めた当初は私も半信半疑でしたが、
あなたの特徴や行動パターンが一致する報告が次々と。
陛下は……これがアルフォンス団長御自身であると確信されています」
「それで私を探していたと?」アルフォンスは冷静に尋ねた。
「秘密裏にですが……そうです。カズマ殿に知られるとマズい為、
あの方に悟られないよう皇帝直々のご命令でした」
村人たちが固唾を飲んで聞き入る中、エリックは真剣な眼差しで続ける。
「しかし……我々以外の騎士団は油断できません。
カズマ殿があなたを追放する際、彼に取り入ろうとした多くの者たちが
あなたの評判を貶めました。彼らがもし団長を見つければ……
きっとカズマ殿に引き渡してしまうでしょう」
村人たちが驚きの声を上げそうになるのを抑えながら、
アルフォンスは理解の色を深めた。
「だからこそ我々は早馬を乗り継ぎ強行軍で探しに……」
「それに今は好機なんです。四天王ヴェインとの戦いに出向いたカズマ殿に
他のほとんどの騎士団は同行していますから」
「……」アルフォンスは考える仕草を見せた。
リーンが彼の手を取り小さく囁く。
「アルフォンス様……どうされますか?」
「俺は……」アルフォンスは決意を固めたように顔を上げる。
「エリック……ありがとう。だが今のままでは帝都には行けない」
「なぜですかっ⁉」
エリックが戸惑ったように首を傾げる。
「カズマ殿との衝突ですか? それなら陛下が必ず……」
「違う」
アルフォンスは静かに、しかし強い口調で言った。
「問題はもっと大きくなる。俺が帝都に戻れば……
その場所に災厄を呼び寄せてしまうかもしれないんだ」
エリックの眉間に皺が寄る。
「災厄?」
アルフォンスは一瞬リーンの方を見た。彼女は小さく頷き返す。
「……魔王軍だ」
アルフォンスの言葉にエリックの目が見開かれた。
「まさか……魔王が団長を狙っていると?」
「恐らく、そうだ」
アルフォンスは暗い表情で頷く。
「俺の存在を感知したら……帝都は魔王軍の標的になりかねない」
エリックはアルフォンスの言葉に戸惑いを隠せない。
「団長は……その……魔王軍にとって何か特別な……?」
アルフォンスは一瞬躊躇したが、覚悟を決めたように口を開いた。
「俺は……女神の真の勇者だ」
エリックの呼吸が止まる。
信じられないといった表情でアルフォンスを見つめた。
「女神の……真の勇者……?」
「そうだ」
アルフォンスは視線を逸らすことなく続ける。
「この世界の者たちにとって女神の奇跡は御伽噺のようなもの。
現実には何も起こらないと思われているだろう。しかし本当は違ったんだ。
女神は確かに存在し……」
「そして俺はその選ばれた者だ」
エリックは信じられない気持ちと同時に、すべてが腑に落ちる思いもあった。
団長の卓越した力。謎めいた行動。そして……"解放者"としての名声。
「じゃあ……陛下は?」
「多分……話せば信じてくれるだろう。だが他の者は……」
「それ以前に……俺とカズマとの争いを避けられない」
「それに……魔王軍の動きも分からない以上リスクが大きすぎる」
「だからこそ私は行かない。帝都を危険に晒すわけにはいかない。
被害が少なくて済む場所で魔王軍を迎え撃つか、もしくは直接……」
リーンが優しくアルフォンスの手を取る。
「アルフォンス様……」
帳尻合わせ三部作の2つ目です。




