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皇帝と宰相、宴前の懸念

エイリュシオン帝国宮廷、皇帝の玉座の間は静寂に包まれていた。


巨大な水晶シャンデリアの光が冷たく大理石の床を照らし、

そこに映るは皇帝グレゴリウス十三世の厳かだが、どこか疲れた姿であった。


彼の隣には側近の老臣、宰相ラファエルが控えている。


「"解放者"と"救済者"……」


皇帝は低く唸るように言った。その言葉には皮肉めいた響きが滲む。


「民衆の間ではその評判ばかりが高まっております。

 四天王を二体……おそらくグラヴィウスとリザミアを倒した英雄として」


ラファエルが眉間に深い皺を刻んで応じる。


「特に"解放者"と呼ばれている青年ですが……あれは確か

 クラウゼヴィッツ家のアルフォンス殿ではありませんか? 元騎士団長の」


皇帝はゆっくりと頷いた。

彼の緑色の瞳には複雑な感情が交錯している。


「そうだ。我が国の若き英雄だった男だ。

 そして魔導師団のアリシア=レイヴェルナの婚約者でもあった」


アリシアの名が出た瞬間、ラファエルの顔色が変わった。


「皇帝陛下……本当にそれでよいのですか?

 アリシア嬢を……あのような男の元に置いたままにしてしまって……?」


その "あのような男" とはもちろん召喚勇者カズマのことだ。

ラファエルはアリシアを幼少期から知っており、その才能と純粋さを高く評価してた。

だからこそ現在のアリシアの有様が信じられないのだ。


皇帝は深く息を吐いた。彼の声は疲労と諦めを含んでいた。


「仕方あるまい。アリシア嬢はもう私の制御下にはない。

 あの召喚勇者の魅了の力によって操られているのだからな……」


「はは……? 魅了……!?」


ラファエルが目を見開いた。

召喚勇者の『魅了の能力』について、彼は何も知らされていなかったからだ。


「陛下……魅了の力とは人を操る力なのですか?」


「信じ難いだろうが真実だ……異世界からの召喚勇者には危険な者がいたらしいが、

 今代で召喚したあの男は我々が想像する以上に危険な存在だったという事だ」


皇帝は椅子に深く沈み込みながら続けた。


「アリシア=レイヴェルナがカズマに魅了される前はどのような娘だった?

 清楚で才女と謳われた魔道の天才児。アルフォンスと将来を誓い合う婚約者であった」


「だが今はどうだ? 身を飾り派手な化粧を施し、まるで別人のように振る舞っている。

 あの変貌ぶりは魅了によるもの以外考えられぬ!」


ラファエルは言葉を失った。

彼もまたアリシアの変わり様を目撃していたからだ。

以前の慎ましやかな姿は消え去り、

今はカズマに寄り添い媚びへつらう姿が目に焼き付いている。


「しかし陛下……彼女がアルフォンス殿を裏切らなければ……

 このような事態にはならなかったのではないでしょうか?」


「そうだな」


皇帝は窓の外を見遣った。


城下町では今夜開催される召喚勇者の祝賀会に向けて準備が整いつつある。

だがそこに漂う空気には「召喚勇者」と「解放者」両方を支持する声が入り混じっていた。


「もし彼女が奴の魅了に掛からなければ、

 アルフォンスとアリシアは共に英雄となっていただろう……いや、

 第一階梯魔道士の彼女が魅了を防げなかった時点で無意味な話しだな」


ラファエルは深い溜息をついた。


「では陛下……いかがいたしますか? 明日の祝賀会はやはり……」


「カズマを主賓とすることに変更はない」


皇帝は即答したが、その声には苦渋の色が滲んでいた。


「だが同時に"解放者"と"救済者"の功績を無視することもできない。

 市民の支持を得るためにも彼らには何らかの形で報いなければならない」


「しかし陛下……アルフォンス殿はすでに帝国を去っております。

 我々の呼びかけに応じるとは到底思えません」


「だろうな」


皇帝は薄く笑った。その笑みには自嘲の色が含まれていた。


「彼は全てを奪われた。婚約者を、名誉を、そして……文字通り左手と顔の半分を。

 そんな男が私たちの味方になると思うか?」


「……いえ」


ラファエルは俯いた。


皇帝の言う通りだった。

アルフォンスが今になって帝国に戻ってくる可能性は極めて低い。

それどころか復讐を考えているかもしれない。


「しかし陛下……アルフォンス殿との関係修復ができなければ……

 "解放者"としての名声だけが独り歩きする恐れがあります……それこそ真の勇者と」


「その通りだ」


皇帝は机を指で軽く叩いた。


「だからこそ難しい。我らの歴史に紡がれ世界を救う召喚勇者と、

 今、実際に成果を挙げた英雄のバランスを取らなければならない。

 カズマ一人だけを祭り上げれば市民の反感を買うだろう。逆にアルフォンスを

 過度に持ち上げれば召喚勇者カズマやヤツを推す高位貴族の反発を招く……!」


ラファエルは思案に沈んだ。確かに政治的には難しい局面だった。


「では陛下……提案させていただきたいのですが」


彼は慎重に口を開いた。


「祝賀会において、カズマ殿を主賓としつつ……

 "解放者"の功績も公式に認めることは如何でしょう? 例えば賞金を与えるとか……」


皇帝は黙考した後、静かに首を横に振った。


「それでは甘すぎる。市民は納得するがカズマを推す貴族が黙っていないだろう。

 特に"召喚勇者崇拝"を掲げ、アルフォンスを迫害した者達が反発するはずだ」


ラファエルは唇を噛んだ。八方塞がりの状況だった。



後付け回が続いてしまってます。すいません。

長いので2つに分けました。

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