アルフォンス・リーンVS二体の四天王 -堪忍ぶ-
グラヴィウスの咆哮が石造りの遺跡に轟く。
「逃すものか! 女狐を捕らえて陛下への手土産にしたいところだが……
貴様らは確実にこの場で仕留めるっ!」
「ふん……勇者でもない半端者ごときが!」
リザミアの杖から緑の炎が噴き上がる。壁に炸裂した灼熱が石材を溶かし始めた。
アルフォンスの隻眼が怒りに燃える。
「この神殿に傷をつけるつもりか!」
剣を構えた彼が踏み込もうとした瞬間――
「行かせるものですか!」
リザミアの背後から無数の蔦が地面を突き破りアルフォンスへと襲いかかる。
同時にグラヴィウスの翼から放たれた紫色の波動が空間を歪ませた。
「くっ……!」
咄嗟に跳躍したアルフォンス。左腕があれば防げた蔦が右腕に絡みつく。
しかし彼の剣が閃き即座に切り払った。
「アルフォンス様!」
リーンの悲鳴。彼女を背後に庇いながらも焦燥が募る。
(まずい……このままではリーンが狙われる!)
アルフォンスが視線を走らせた遥か先――祭壇に突き刺さる神具が見える。
それを手にするためには最奥へ進まなければならない。
だが今のまま地下神殿で戦い続ける訳にはいかない。
「リーン。さっきも言った通り俺が時間を稼ぐ。あの最奥へ行ってくれ」
「ですが……!」
「俺を信じてくれ……あの神具が必要なんだ」
迷いのない瞳がリーンの心を打つ。
彼女は小さく息を呑むと頷いた。
「わかりました。必ず……アルフォンス様も無事でいてください」
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リーンが走り去った直後。
「どこへ行くつもりだぁ!」
グラヴィウスの鉤爪がアルフォンスを捉えようとする。
しかしそれを紙一重で回避。
「お前の相手は俺だ!」
叫ぶと同時、アルフォンスの周囲に眩い白光が迸る。
その瞬間――グラヴィウスの動きが鈍った。
「何だ……この力は……」
リザミアが息を飲む。
「身体が欠落した、ただの半端者ではないということね……」
アルフォンスの右腕が輝きを増し、周囲の空間すら震わせた。
「来い! 俺の全身全霊を持ってお前たちの相手をしてやる!」
次の刹那――凄まじい衝撃音とともにアルフォンスの姿が掻き消えた。
次の瞬間、グラヴィウスの体躯がアルフォンスの剣で壁面に叩きつけられる。
「ぐぅっ!」
リザミアが動揺した瞬間。アルフォンスが風のように走り、
グラヴィウスとリザミアを身体で押し上げ神殿入り口を突破――!
「吹っ飛べっっ!」
彼はそのまま外へ飛び出した。
雪嵐吹き荒ぶ大地に降り立ち四天王たちを見据える。
「ここなら遠慮なく暴れられるだろう!」
グラヴィウスの翼が再び広がり、リザミアの魔法陣が展開された。
「舐めた真似を……」
「いいわ……徹底的に叩き潰してあげる!」
二体の魔将の殺気がアルフォンスに集中する。
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風雪を裂いて交錯する刃と魔法――
「ぐっ……!」
グラヴィウスの鉤爪がアルフォンスの肩を掠めた。
僅かにずれた剣撃で致命傷は免れたものの、外套が裂かれ出血が滲む。
「まだまだぁっ!」
アルフォンスが吼えながら反撃する。
隻腕から繰り出される斬撃が、グラヴィウスの鱗に浅い傷を刻んだ。
「……やはり只者ではないな」
グラヴィウスの瞳に新たな光が灯る。
単なる戦士ではない……この男の内に潜む力を感知したのだ。
一方でリザミアも困惑していた。
「なんなの……? この男……」
アルフォンスの剣技は精緻でありながら圧倒的ではない。
なのに――
(なぜかしら? 接触した途端……肌に感じる……)
恐るべき圧倒的なエネルギーの予兆。
まるで内にある膨大な力を制御しているかのような感触。
「……召喚勇者などとは比較になりませんね」
グラヴィウスが呟く。
リザミアも同意するように頷いた。
「ええ……この男……本当に魔王様と同格かもしれないわね」
その認識が両者の意識を変えた。
"解放者"アルフォンスはただ強いだけではなく――
本物の勇者……と思ってしまうだけの何かを感じた。
「確実に仕留める必要がある……」
グラヴィウスの鉤爪に禍々しい瘴気が纏わりつく。
リザミアもまた古代語の詠唱を開始した。
アルフォンスが後退する。
「くそっ……」
剣の限界が近い。そもそも神具がどれ程の物なのか不明だが、
今使っている剣では勇者のチカラが発揮できない。
皮肉にもリザミアの評は的を得ていたのだ。
アルフォンスは内なる勇者のチカラを目覚めさせてからずっと、
全力を出さないように膨大なチカラを緻密に制御していたのだから。
この剣が壊れれば右腕の拳ででも……彼は心を決める。
リーンが神具を入手するまで……この場を死守しなければならない。
(リーン……頼む。間に合ってくれ……!)
迫りくる四天王の猛攻にアルフォンスは渾身の力で応じる。
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凍てつく風が石壁の隙間から入り込みリーンの足元を掠める。
息を切らしながら最奥を目指す少女。
アルフォンスとの約束が胸に焼き付いて離れない。
「必ず……アルフォンス様に届けなければ……」
地下神殿の暗闇の中を懸命に進むリーン。
その耳には風雪の唸りと遠くで戦うアルフォンスの気配が伝わってくる。
(私も共に戦いたい……)
女神の聖女としての使命もあるが、それ以上にただ想いが湧き上がる。
彼と共に立てる存在でありたいという願い。
アルフォンスと共に戦い、彼を守りたいのだとリーンの内なる心が訴えていた。
やがて薄明かりが差す祭壇に辿り着いた。石台に刺さる一振りの剣――
「これがアルフォンス様の……」
震える手で触れると温かい感触が伝わってきた。
飾り気のない無骨な長剣だが不思議なまでの存在感を放っている。
アルフォンスのために運ぶべき武器が目の前にあるのに――
リーンの胸にひとつの想いが駆け抜けた。
「私は……!」
聖杖「聖痕の杖」を握り締めた、彼女の内から力強い意思が溢れ出してきた。




