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魔獣王に狙われる獲物

西方の砂漠地帯が血で染まっていた。


「今日もまた……同胞たちが消えていく……」


ヴェインは四本の腕を大地につき、跪くように戦場を見つめていた。

影のような黒い毛皮が砂塵にまみれ、四本の腕はそれぞれ異なる武器を握っていた。

魔剣に槍斧、炎を帯びた弓矢、そして氷の短杖—全てが血と砂に汚れていた。


「人間どもめ……」


実際のところヴェインと配下達は、この戦線にて倒された同胞の数とは桁違いの

帝国軍の人間を引き裂いてきている。

ヴェインにとって配下は固い絆で結ばれた仲魔であり、人間は動物程度と思っている。


「召喚勇者……カズマと言ったか」


帝国が異世界より召喚した勇者。

かつて幾度も魔族を率いた魔王達を倒す存在。


この世界の人間達とは明らかに別次元の存在。

召喚勇者カズマは強力な特殊能力を持ち、異常な成長速度を示している。


「"解放者"と"救済者"もだが……奴も野放しには出来ない」


しかしヴェインは歯噛みする。その成長速度が厄介だ。

下手に戦えばこちらが痛手を負い時間を与えることになるかもしれない。


「だが……」


ヴェインは砂漠の向こうに広がる星空を見上げる。

そこに広がる夜空は赤茶けた大地とは対照的に清らかだった。


「魔王様の御命令だ。全力を持って奴を排除せよと」


その命令は絶対だった。自分達の主君—偉大なる魔王の意思なのだ。

たとえこの身が砕けようと遂行しろと本能が訴えている。


「ふん……吾輩の力を思い知らせてやる!」


ヴェインは闘志を燃やした。


魔獣王と恐れられる自分の力があれば—例え召喚勇者であろうと倒せるはずだ。

それが魔王様の御意志なのだから。


「カズマ! 出てこい! この四天王ヴェイン様が直々に相手をしてやろう!!」


彼の咆哮は砂漠全体に響き渡る。

帝国の軍勢が狼狽え始めるのが遠くからでも分かった。


「召喚勇者カズマよ!! もし貴様が臆病者ではないなら!! 戦場に姿を現せ!!」


その声には挑発だけでなく明らかな殺意が込められていた。

召喚勇者と四天王の対決—それはまさに魔界と帝国の運命を賭けた戦いとなるのだ。


「来い! カズマ!」


ヴェインは拳を固めた。

その姿はまるで闇の化身のような威圧感を放っていた。



----


「カズマ様っ! 四天王ヴェインより通達でございますっ!」


西部戦線の最前線から早馬が駆け抜けた。

その報は瞬く間に帝都に達し、勇者カズマのもとに届けられた。


「なんだと? 一騎打ちだと?」


和馬は不満げに眉をひそめた。彼が狙っていたのは北部戦線のリザミア。

噂によれば美しいドラゴン族の魔導師とのことだ。


(オンナなら『魅了』でイチコロだと思ってたのに……)


召喚時に手に入れた「魅了」のスキルは異性を虜にすることができる。

リザミアを落として経験値を奪う—そんな算段だった。

(しかも気に入れば俺の女にするってのもアリだしな)


この世界をゲームや異世界転生や召喚モノと考えている、

日本の元高校生だった和馬は効率的なレベル上げを常に考えていた。

『勇者システム』と『魅了』を駆使し、四天王ですら「オンナ」なら利用する。


「ヴェインってどんな奴だ?」


苛立ちを隠せず問いただすと側近の騎士が答えた。


「ヴェインは影のような毛皮に四本の腕を持つ獣人型魔族だそうです」


「ふん。男かよ。まったくつまらん。俺のスキルが使えねぇじゃねえか」


和馬は舌打ちする。


「こっちは『魅了』があるからオンナ相手なら楽勝だったのに……

 男タイプだったら実力勝負しかないじゃねえかよ」


「でも一騎打ちなんて申し出を断ったら格好悪いんじゃないですかぁ?」


そう助言するのは魅了で洗脳された側近アリシア。

もとはアルフォンスの婚約者だった女だ。


彼女の美しさと純朴な性格に惹かれ和馬は魅了を使った結果、

アリシアは和馬の忠実な下僕となってしまった。


「うるさいな! お前ら女どもは黙って俺の言うことを聞け!」


和馬はアリシアに怒鳴りつけた。もう一人のヒーラーも怯える。


「勇者様を困らせないでくれ」

騎士団から派遣された側近騎士を宥めると和馬は不満げに吐き捨てた。


「仕方ねぇ……行くか。ここで逃げたら俺が弱虫みたいに言われるからな」

「カズマさまぁ〜」


アリシアは嬉しそうに寄り添う。


和馬は不貞腐れた様子で立ち上がった。


(まあいい。ヴェインとやらを倒したら次はリザミアだ。早くケリをつけよう)


心の中で計算しながら西部戦線に向けて旅立つのだった。



次回、もっとヘイト回となります。閲覧注意です。

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