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それぞれの勇者と仲間達 - アルフォンスside/勇者カズマ・アリシアside

廃墟に響く咆哮。塵となって消えていく巨大な影。


「終わったか……」


アルフォンスは額の汗を拭いながら周囲を見渡す。

リーンは杖を下ろし静かに息を吐いた。


「ありがとうございます。

 アルフォンス様のおかげで犠牲を出さずに済みました」


「いや。リーンのサポートがあってこそだ。ありがとう」


二人のやりとりに村人たちが集まってくる。


「ありがとうございます……命の恩人です」


「なんとお礼を申し上げたら良いものやら」


深々と頭を下げる村人たちの眼差しには畏敬の念が宿っている。


(この感じ……やはり俺たちは)


アルフォンスは複雑な思いを抱く。


かつてはアルフォンス自身も帝国の「騎士」として民から頼られていた。

だが今は違う。召喚勇者カズマが現れたことによって彼の立場は失われた。

それでも村人たちはアルフォンスとリーンに感謝し救いを求めている。


「みなさん。落ち着いてください」


リーンが優しく呼びかけると村人たちが次々に語り出す。


「町が魔族に襲われて食料も医薬品も足りなくて……」


「子どもが熱を出して苦しんでいます」


「魔物が出没する森を通るしか隣村へ行く手段がなくて……」


貧困と病と恐怖。小さな村が抱える問題の数々。

それらすべてを解決するのは容易ではない。


「どうしましょう? アルフォンス様」


リーンが不安げに問いかける。


(まずは彼らが生き延びるために必要な物を……)


アルフォンスは即座に判断した。

前勇者の墓へ向かう旅は重要だが最優先すべきは目の前の窮状だ。

聖女と共に人々を助ける――それが彼らの使命なのだ。


「リーン。手持ちの薬草を分配してくれ。それから水を浄化したい」

「承知しました」


リーンが魔法で清めた水を汲み置き場に貯めていく。

アルフォンスは負傷者を診察し症状ごとに薬草を選別する。


(これは……思った以上に深刻だな)


小さな村ひとつとってもこれだけの人々が苦しみ喘いでいる。

おそらく他の地域も似たり寄ったりなのだろう。


(もし帝国が本気で対策に乗り出しているのなら……

 なぜもっと手を打たない? カズマやアリシアたちはどうしているんだ?)


疑問が浮かぶ。


アルフォンスが帝国を離れている間に起きたであろう変化。

召喚勇者カズマと元婚約者を含む仲間たちは一体どこで何をしているのか?


「アルフォンス様?」


考え込む彼にリーンが心配そうな眼差しを向けた。


「いや。なんでもない」


彼女の問いかけに答えずアルフォンスは思考を切り替えた。

目の前の問題に集中しなければならない。


「水の浄化と食料分配が終わったら次の町へ移動しよう。

 そこで情報を集めて前勇者の墓へ向かうルートを探る」


「分かりました。アルフォンス様は大丈夫ですか?」


リーンが気遣うように言う。


「ああ。問題ない。少し疲れただけだ」


本当は身体に痛みが走っている。

隻腕のアルフォンスにとって長時間の作業は想像以上に堪える。


それでも彼は顔に出さず笑顔を作った。

隻腕隻眼で顔の半分が焼け爛れた彼を、リーンは献身的に支え続けてくれる。


(これ以上の負担を彼女にかけるわけにはいかない)


アルフォンスは決意を新たにする。


彼らの旅は始まったばかりだ。


前勇者の墓を見つけ真の力を手に入れる為に。

そして苦しむ人々を救う為、長い旅路の中で二人の絆はさらに強くなっていく。


---


数週間後。


アルフォンスとリーンは各地の村や町を訪ね廃墟や避難所で人々を救っていた。

時に魔族や魔物を退治し食糧や医薬品を提供して回復魔法で傷を癒やす。

その活動の噂は次第に広まり彼らを指して「解放者」や「救済者」と呼ぶ声が上がった。


しかし――




「ねぇカズマさまぁ? 次はどの街に行くのぉ?」


甘えた声が響く。召喚勇者カズマの仲間たちだ。

煌びやかな馬車には魔導師のアリシア他二人の女性が乗っている。


「そうだな。次の領地は魔物討伐の報奨金が高くて良いらしいぞ」

「えー? またお金稼ぎぃ? もう飽きてきたなぁ〜」


愚痴を零すアリシアの膝上には大きな宝石のネックレスが光る。

豪華なドレス姿。かつての知的な魔導師とはまるで別人のように変貌していた。


「文句言うなよアリシア。俺がいるから安心だろ?」

「うん♪ カズマさまなら平気だよねぇ〜?」


カズマがアリシアの肩を抱くと彼女は嬉しそうに擦り寄る。


二人の後方ではカズマの魅了スキルの犠牲となった

貴族令嬢や宮廷魔道士たちが護衛兵と共に馬車を守っていた。


「まったく……あの調子じゃ帝国はもうおしまいかもな」


護衛兵の一人がぼやくように呟いた。


「まぁ俺達には関係ないけどな。カズマ様がいれば安泰だ」

「それにしても……カズマ様の取り巻き達の実力派大丈夫なのかよ?

 アリシア様なんて変わり過ぎて戦えんのか?」

「さあな。勇者サマのご機嫌取りでもしてりゃいいんじゃね?」


この護衛兵たちもかつてはアルフォンスの雄姿に憧れたはずだった。

その志しはもはや欠片も残ってないように見える。


そして、カズマ達の眼中にもない小さな村や町で広がり始めた……

アルフォンスとリーンが救った人々から始まった噂は彼らの耳にはいまだ届かない。



日常回?の続きです。もう少しだけお付き合いください。

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