女神の勇者と聖女の旅路
勇者アルフォンスは聖女リーンと共に霊峰を降りた。
女神フィリアの聖域で覚醒を果たした二人の次の目的は――
前勇者の墓を訪れ、真なる勇者の神具を手に入れる事。
有史よりも遥か昔に戦い真の魔王を倒したと伝えられる勇者の墓は
女神フィリアの啓示によって知らされた聖女リーンが知っている。
「リーン、大丈夫か? 長旅になると思うが」
「はい。アルフォンス様と一緒ならどこまでも行けます」
彼女の瞳には揺るぎない意志が宿っていた。
アルフォンスは彼女の言葉に微笑みながら剣を握り直す。
隻腕隻眼ながらもその立ち姿には隙がない。
女神の恩恵によって得た超人的な力。
失った部分は戻らなかったがそれで十分だとアルフォンスは悟る。
この身体で戦い抜くことが己の使命だと思えたからだ。
二人はまず一番近くの町へと向かった。
そこはかつて魔族に襲われた小さな村の跡地。
廃墟と化した建物の中には今なお多くの避難民が暮らしている。
「これは酷いな……」
荒れ果てた村を見渡しながらアルフォンスは呟いた。
家々は破壊され井戸は濁り畑は踏み荒らされている。
「助けましょう。人々の救済は私たちの役目です」
リーンの言葉にアルフォンスも同意し救助活動を始めた。
幸いにも食糧庫は無事だったため残っていた保存食を分け与え、
井戸水を清めて生活用水を確保する。
負傷者はリーンが聖女として癒し魔法を施し治療した。
「奇跡だ……」「ありがとう……」涙ながら感謝する人々。
「大丈夫ですか? 立てますか?」
アルフォンスは怪我人を背負い安全な場所へと運ぶ。
隻腕のハンデがありながらも巧みにバランスを取り歩く。
「アルフォンス様……素晴らしいです」
その姿を見てリーンが感嘆の声を上げる。
隻腕だからと言って諦めない姿勢に彼女は感銘を受けていた。
「まだまだ序の口だ。これから先はもっと過酷な状況になるかもしれない」
アルフォンスの予感は正しかった。
廃墟での救援活動を終え村を去ろうとしたその時。
「グルォォォ!!」
突如として巨大な影が飛び出してきた。
「危ないっ!」
リーンの警告と同時に巨大な黒い塊がアルフォンスに飛びかかる。
咄嗟に彼は左腕側に跳躍した――通常なら死角となる方向へ。
隻腕の彼にとって左側からの攻撃は本来致命的である。
しかし女神の祝福を受けた彼の身体には「第六感」が備わっていた。
「来るなよ……獣め!」
左手から放たれた衝撃波が巨体を弾き飛ばす。
魔族の手下である「ブラックハウンド」と呼ばれる魔獣だ。
「アルフォンス様! 支援いたします!」
リーンが聖杖を掲げ聖なる光を放つ。
敵の動きが鈍くなると同時にアルフォンスの剣速が倍増した。
「ハァッ!」
隻腕で繰り出される斬撃は片腕とは思えない重さと正確さを持っていた。
失った左腕の分もアルフォンスを支え続けている右腕は、
いまや勇者のチカラを得て、彼と共に戦う戦友と呼べる存在だった。
(俺の身体は……俺ひとりだけで戦っているわけじゃないみたいだ)
隻眼で視野が狭くなったはずの彼の視界は不思議と広がっていた。
右目の死角を埋めるように左半身から感じる直感的な感知能力。
「アルフォンス様! 後ろです!」
「わかってる!」
リーンの指示とほぼ同時に対応できた。
隻腕隻眼になったばかりの頃は苦労したものだが……
聖女と共に過ごし訓練を重ねるうちにアルフォンスは今の自身の身体を
正しく使いこなせるようになっていた。
(勇者のチカラ以前に……カズマに惜敗を喫したあの頃の俺は……
全然、力不足だったんだな……だからアリシアも……)
彼の脳裏に一瞬浮かんだのはかつての帝国での日々。
召喚勇者カズマに負けた屈辱とアリシアに裏切られた悔恨の記憶。
だが今は違う。自らのチカラと聖女リーンと共に築いた絆で戦う。
「これで終わりだ!」
最後の一撃がブラックハウンドを貫く。
日常回?ということになるのでしょうか……続きます




