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……ダメなのか? ここで終わりなのか?
どんなに抗っても、無意味だっていうのか?
「…………」
いや、まだだ。
学生用のアオハガネでは、クロノハオウには対抗できない。
相手が格上の怪物なら、こっちも規格外のバケモノを用意すればいい。
対抗できるとすれば、それはただ一つ。
問題は、先日の騒動でアレが壊れたり紛失したりしていないかだが。
「あの失敗作なら無事だよ。学院で暴れまわった魔物たちに破壊されていないし、どこに保管されているのかも知っている」
俺の思考を読んだヘーレスが、クックックッと笑いながら言ってくる。
「上手くいくかどうかはわからないけど、あれに賭けてみる価値はあるんじゃないかな? でないとキミたちは処分されるし、僕も他の同志たちのように狩られちゃうからね」
活路はそれしかない。クロノハオウを装着したアシェル姉さんと戦えるのは、あの白銀の鎧だけだ。
でも姉さんは、俺を行かせてはくれないだろう。
どうすればこの場から逃れられるのか、必死に思考をめぐらせるが、何も思いつかない。肉体の痛みもあって、まともに頭が働いてくれない。
身動きが取れずにいると、ルリアが隣にいるダインと目を見合わせていた。
「ダイン……」
「わかってるよ」
ルリアから名前を呼ばれると、ダインはぶっきらぼうな返事をする。二人の間で、何らかの意思のやりとりがなされる。
「リオン。わたしたちで時間を稼ぐよ」
その言葉を聞いて、困惑する。
ルリアは姉さんを食い止めると提案してきた。
「そんなこと……」
「言ったよね。全部を一人で背負い込まないでって。リオンが背負っているものを、わたしたちにも背負わせてよ」
「ちょっとは俺たちを信じろっての。おまえに守られるつもりはねぇよ」
やさしく微笑みかけてくるルリアと、不機嫌そうに唇をとがらせるダインを見て、一瞬だけ言葉に詰まる。
そして自分のバカさ加減に気づく。そうだった。俺にはルリアとダインがいてくれるんだ。追い詰められて、また視野が狭くなっていた。いつの間にか自分一人で戦っているつもりになっていた。
俺一人で戦っているわけじゃない。仲間たちがいるから、俺は戦えているんだ。
軽く息を吐きだすと、懐から二つの球体を取り出す。
ルリアとダインのことを信じる。頼りになる仲間たちを。
二人と視線を見交わすと、信頼を込めて青色の球体を投げ渡した。ルリアとダインは、それぞれの球体を片手でつかみ取る。
そして二人が同時に球体に魔力を流し込むと、光が発せられた。二人の体を光が包み込んでいき、青色の全身鎧を身にまとう。
ルリアとダインはアオハガネを装着すると、クロノハオウと相対する。
「すぐに戻ってくる」
それまでどうか生き延びてくれ。心のなかでそう祈りながら声援を送った。踵を返して、校舎へと引き返す。
ヘーレスも走り出した。俺と共に校舎に向かう。
【魔法陣】を展開して、【光の矢】を激しく撃ち合う炸裂音が背後から聞こえてくる。振り返ることはしない。痛む肉体に鞭打って、ひたすら足を前へと繰り出す。
何人もの勇者候補を呑み込んできた失敗作。身につけるのは非常に危険だが、装着することができれば、引き換えに膨大な魔力と並外れた戦闘能力を授けてくれる勇者の鎧。
カナタノシロガネ。
まだ学院内で眠りについているアイツを、目覚めさせなきゃいけない。




