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 姉さんは警戒を強めている。いつでも動けるように再び身構えてくる。


 大丈夫だ。絶対に上手くいく。自分を信じて、そう言い聞かせる。


 姉さんを見据えながら、体の内側から魔力を流し出す。


 イメージ――あの人を超えた存在になることを、憧れたあの人に追いついて凌駕することを、思い描く。


 強者となった自分の姿を明確に形作ると、【身体強化】の魔術を発動。


 流れ出ていた魔力が弾けて、頭のなかで火花が散り、津波が押し寄せるように全身に力が行きわたっていく。


 前々からこっそりと練習していた魔術。ヘーレスからは、使い勝手が悪いと言われて勧められなかった。 


 だけど、この場面を突破できるのなら習得した甲斐はある。


 勇者の鎧を装着したときほどではないにしても、全身に力がみなぎり運動能力が向上していく。一時的ではあるが、姉さんと同じ領域まで強引に上り詰める。


 だが、【身体強化】は短時間しか発動できない。効果が途切れたら激しい反動がくる。故に、決着は速攻でつける。


「そんな博打まがいのものを習得していたのか?」


 姉さんは驚きと呆れがまざった顔をすると、右手をこちらに向けてくる。掌が輝き出すと、【光の矢】が射出された。


 瞬時に左に向かって跳ぶ。飛来してくる光をかわす。体が軽い。自分でも驚くほどの瞬発力。


 姉さんを視界に収めると、飛躍的に向上した肉体を駆使して一気に距離を詰める。


 姉さんは歯噛みして右拳を固める。鉄拳が唸りをあげて迎撃してくる。


 眼前で立ち止まる。円を描くように流れるような動作で右手をまわし、飛んできた拳に触れてさばく。姉さんがダインにやった動きを完全再現する。


 拳が弾かれたことに姉さんは目を見張ると、体勢を崩しかける。


 ここが勝負所。この機を逃せば次はない。


 両手の拳を握りしめる。姉さんに向けて、全力で打撃を叩き込みまくる。


「ぐっ……」


 両腕をあげて防御の姿勢を取られる。構うことなく畳みかける。連撃を打ち込みまくった。


 強化された拳の連打を浴びせると、姉さんの体が揺れて後退していく。


 最後にとっておき。右手に魔力を集中させる。滾るような輝きが右手を包み込む。


「これで!」


 ――最大出力。拳を叩きつけるように【光の矢】を撃ち出す。


 至近距離からの一撃が姉さんを吹き飛ばす。放たれた光と共に玄関の扉を突き破っていき、校舎の外まで飛んでいった。


 こっちも時間切れ。【身体強化】が強制的に解除される。体中の筋肉が悲鳴をあげて、鋭い痛みが電流のように駆け巡る。あまりの激痛に喉から途切れ途切れの声がもれる。毎度のことながら、この揺り返しはしんどすぎる。


「……確かに、使い勝手が悪すぎるな」


 自嘲するように笑った。


 一時的に強くなれるとはいえ、あまりにも効果時間が短すぎる。それにこの揺り返しだ。連続で発動すれば反動で肉体が壊れてしまうので、しばらくは再使用できない。


「リオン!」


 ルリアとダインが駆け寄ってくる。【身体強化】の魔術が上手くいくかどうかは賭けだったので、かなり気を揉んでいたようだ。


 どうにか右手をあげて応えると、二人とも胸を撫で下ろしていた。


「喜んでいるところ悪いけど、急いだほうがいいんじゃないかい?」


 静観に徹していたヘーレスが、ニタニタと笑いながら近づいてくる。


 ルリアとダインはムッとして、ヘーレスを睨んでいた。


「わかってますよ」


 まだ体の節々が痛いが、のんびりとはしていられない。一刻も早く壁の外に向かわないと。


「お姉ちゃんは……どうなったの?」 


 ルリアは怖々としながら、校庭のほうを見る。壊れた玄関扉の向こう側は砂煙が立ち込めていて、姉さんの姿を確認できない。


 さっきの一撃で、戦闘不能になっていればいいが……。


 重たい手足を無理やり動かして歩き出す。一歩ごとに体のどこかを刺されているような痛みを感じて、表情が歪んでしまう。


 ルリアとダインは、俺に足並みをそろえるようにして歩いてくれる。少し後ろをヘーレスがついてくる。


 玄関扉を潜って校庭に踏み出すと、周囲に視線を巡らせる。教員たちの姿は見当たらない。誰も外には出ていないようだ。


 姉さんは……まだ戦えるのか?


 立ち込めていた砂埃が薄れていく。


 すると遠目にだけど、白い壁に備えつけられた扉が見えた。外の世界へと通じる扉だ。


 幼い頃からずっと、あそこを通ることができなかった。


 今なら、あの扉を通ることができる。


 あそこにたどり着ければ……。


「……まったく、あんな魔術を習得しているだなんて呆れたぞ。できればこれは使いたくなかったのに」


 砂埃が晴れていく。視界が鮮明になる。


 そこには、物語に登場する暗黒騎士を彷彿とさせる漆黒の鎧を装着したアシェル姉さんがいた。


「そんな……」


 漆黒の鎧を見ると、ルリアは失意に打ちのめされたように愕然とする。


 ダインも悔しそうに渋面になっていた。


「さっきのは一撃は見事だった。まぁ、食らう直前にクロノハオウを装着して防いだがな」


「っ……」


 俺が放った【光の矢】の威力がどれだけ高くても、最新型の鎧の前には無力だ。まともなダメージを与えることはできない。現に、漆黒の鎧にはかすり傷さえついていない。


 そして姉さんがクロノハオウを装着したということは、勝敗は決したも同然だ。

 

 手元に二つのアオハガネがあるが、装着しても勝てる見込みはない。学生用の鎧と、クロノハオウとでは性能に差がありすぎる。


 あの鎧を装着した姉さんの強さは、模擬戦で手合わせした俺が誰よりもよく知っている。





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