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割れた窓から差し込んでくる陽光のまぶしさを感じつつ、ルリアとダインと肩を並べながら校舎の廊下を進んでいく。
前方には、俺たちを先導する三人の教員が歩いている。本当はもっと多くの教員を配置したいのだろうが、あいにくそんな余裕は今の学院にはないようだ。
これから卒業試験が行われる。校舎の室内訓練場に連れていかれて、たった一人の卒業生を決めるために戦わされる。
何も知らなかった頃は、この日が来るのを待ち望んでいた。ようやく壁の外に出られて、自由になれることを心待ちにしていた。
真実を知った今となっては、今日は祝福すべき日ではなくなっている。
だけど、もう卒業試験なんて胸クソ悪いものが行われることはない。
「やあやあ、これから卒業試験かい?」
正面からヘーレスが片手を振りながら歩いてくる。
三人の教員たちは立ち止まると、若干戸惑いつつも軽く挨拶を交わして「はい、そうです」と答えていた。
「そうかい、そうかい。じゃあキミたち、もう下がっていいよ」
「は? 何を言って……」
いやらしい笑みを浮かべたヘーレスが右手を向けてくる。そこから光が発せられると、紫色の霧が散布された。
困惑する教員たちの顔に霧が浴びせられると、足元がぐらつき、バタバタと三人とも床に倒れていく。
「これ、死んでいるわけじゃないんだよな?」
「もちろん。霧を吸い込んだ相手を眠らせるだけの魔術だからね」
ダインの問いかけに、ヘーレスは得意げに即答する。
昏倒した教員たちはまだ息があるが、しばらく目覚めることはなさそうだ。
「便利な魔術だな」
俺は教員たちの寝顔を見下ろしながら、率直な感想を口にする。
「そうでもないさ。魔術への抵抗力が高いキミたち勇者候補や魔物たちには通じないからね。効き目があるのは、普通の人間だけだよ」
暗に俺たちは普通の人間ではないと言われている。それが事実だとしても、いい気分はしない。
ダインは刺々しい目つきでヘーレスを睨む。ルリアも不審げな視線を向けていた。
先日の騒動を引き越した連中の一味だ。二人とも、ヘーレスのことを信用していない。もちろん俺も、この男にだけは心を許したりはしない。
「そんな怖い顔をしないでくれよ。いいものを持ってきたからさ」
片目を細めながら笑うと、ヘーレスは外套の懐に手を入れる。そこから細長いものを取り出してきた。
先端に青い宝石がついた杖だ。
「キミたちに刻印されている【自爆の魔術】を解除するための杖だ。魔物たちの【自爆の魔術】を解除するものとは、また別の杖でね。拝借するのに苦労したよ」
本来であれば、俺たちのうち誰か一人にだけ使われるはずの杖だ。いくら教員とはいえ、勝手に持ち出せばただでは済まない。
ヘーレスが握っている杖を、ルリアとダインはまじまじと見ている。
「そんなに物欲しそうにしなくても、すぐに使ってあげるよ」
ヘーレスは並び立っている俺たちに杖を向けてくる。青い宝石が輝き出すと、そこから一際強い光が放たれた。
その瞬間、体の内側にある何かが崩れ去っていった。枷を外されたように、手足が軽くなる。
「これで、もういつでも壁の外に出ても大丈夫だよ」
光が収束していき、青い宝石の輝きが消えていくと、ヘーレスは構えていた杖を無造作に投げ捨てる。役目を終えた杖はカンッカンッと木製の音を鳴らして、床に転がった。
さっきの感覚は、間違いなく自分のなかにある何かが消えた。本当に【自爆の魔術】が解除されたのだとしたら、これで外の世界に出られるわけだ。
もう結界もない。あとは、あの壁の向こう側に行くだけだ。
待望していた自由が間近に迫ると、胸がざわつく。心音が早まる。それはルリアとダインも同じみたいだ。
もともと外の世界に出ていくことに不安を抱いていたルリアは、両手を見つめながら表情を曇らせている。
その一方で、ダインは拳を握ったり閉じたりしながら、緊張しつつも歓喜に身を震わせていた。
「それと、これを渡しておくよ。残念ながら、人数分は用意できなかったけどね」
ヘーレスは再び懐に手を入れると、そこから取り出したものを俺たちに差し出してきた。
青色に光っている二つの球体。勇者の鎧アオハガネだ。
俺たちと同じく、魔物と組み合わせてつくられた武装。今となっては、この球体は痛みと哀れみを誘う。
ルリアとダインも複雑な面持ちで差し出された球体を見つめている。できればもう、この鎧を身につけたくはないんだろう。
「預かっておくよ」
ヘーレスの手に乗っている二つの球体をまとめてつかむと、制服の懐にしまい込んだ。どうかこれを使わずに済むことを願う。
「僕もキミたちと一緒に、この学院を卒業させてもらうよ。解除用の杖を拝借したことがバレるのは、時間の問題だからね。その前にオサラバしないと」
「アンタは学生って歳じゃないから、卒業とは言わないだろ?」
「長年勤めていた職場だから、それなりに名残惜しいのさ」
俺が呆れながら突っ込みを入れると、ヘーレスはかぶりを振って笑ってくる。
「学院の外は広大な森林に囲まれている。そこに入り込めば、簡単には見つからないよ。外に出ることさえできれば、いくらでも逃げようはある」
あの壁の向こう側がどうなっているのか教えられて、少しだけ驚く。当たり前だけど、学院の外に行けば知らない世界が待っているんだ。
これからそこに踏み出していかなきゃいけない。
「では、行こうか」
ヘーレスが笑いかけてくると、俺たちは走り出した。




