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「……なんでだよ」


 声が聞こえた。震えている声だ。


「なんで、何もしようとしないんだよ? リオンなら、そこからでも反撃できるだろ?」


 ダインは顔を歪めると、目尻に涙をにじませる。反撃されたほうが楽だとでも言いたげだ。


「ダインに俺を殺せるはずないからな」


 最初から何も心配なんてしていない。


 ダインが仲間想いのやさしいヤツだってことは、誰よりも知っている。同じ時間を過ごしてきた大切な友達だから。


 だからダインに俺を殺せるはずないと、確信を持って断言できた。


「……なんだよ、それ?」


 悪態をつくように呟くと、ダインはガンッと鉄格子に思いっきり額をぶつけた。


 クソッと毒づくと、右手に灯っていた光が薄らいで消えていく。


「わかってんだよ! ルリアが幸せになるためには、リオンがいなきゃいけないことくらい、そんなの、わかってんだ!」


 ダインは自分を責めるように、むしゃくしゃとした感情を吐き捨てる。


 だけどそれも間違っている。俺だけでは足りない。ダインもいなければ、ルリアは幸せにはなれない。

 

 俺とダインがいなくなったら、誰もルリアを幸せにすることができない。


 俺たち二人がいなければ、ルリアは幸せにはなれないんだ。


「……で、いつまで聞き耳を立てているつもりなんだ?」


 ダインとの話が一区切りついたので、そろそろいいだろうと判断して声をかける。


 ダインは目を見張ると、鉄格子から額を離して顔をあげた。


 クックックッと、いやらしい笑い声が地下牢のなかに反響する。


「なんだい? 気づいていたのかい?」


 階段のほうから、ヘーレスが軽快な足取りで歩いてくる。相変わらずニヤニヤとした、怪しい笑みを浮かべている。


「足音が聞こえたんでな」


 なるべく足音を立てないように忍び寄ってきたようだが、気配を消すことはできていなかった。ダインは目の前のことで一杯一杯だったので、気づいていなかったみたいだ。


「取り込み中に悪いね。いやいや、実に美しい友情だ。感動したよ」


 ヘーレスはパチパチと拍手をしながら、心にもないことを言ってくる。


「生きてたのかよ」


 ダインは半眼になると、鬱陶しそうにヘーレスを睨みつける。


 この男のことだから、簡単には死なないと思っていたが、教員の大多数が命を落としたなかでも、案の定しぶとく生き残っていたようだ。


「そう怖い顔をしないでくれよ。キミたちに朗報を届けに来たんだからさ」


「朗報?」


 ダインが顔をひそめながら聞き返すと、ヘーレスは口元をひろげる。


「キミたちには知らされていないことだけどね。なんともう学院を取り囲んでいる結界はないんだよ」


 ヘーレスが告げてきた情報に、ダインは目を白黒させる。驚いたのは俺も同じだ。ポカンと口が開いてしまった。


 俺たちの反応に満足したらしく、ヘーレスはクックックッと笑う。


「それは本当なのか?」


 ダインが目つきを鋭くして問いかけると、ヘーレスは頷いた。


「ウソなんてつかないよ。学院の結界は宝玉に刻印された魔術によって構築されていてね。昨夜の騒動で、その宝玉が破壊されたんだよ」


 学院を取り囲んでいる白い壁とは別に、俺たちを閉じ込めてきた見えない壁。それが消滅している。事実だとすれば、もしかしたらという可能性が芽生える。


「おっと、まだ喜ぶのは早いよ。結界は消えても、キミたちに仕込まれた【自爆の魔術】は消えていないからね。そのまま壁の外に出たらボォン、ビチャビチャ、プシュ~だよ」


 擬音を口にしながら、身振り手振りで俺たちの死に様を表現してくる。とても楽しそうだ。やはりこの男は好きになれない。


「どうして教員であるヘーレス先生が、そんな学院にとって不利になる情報を俺たちに流すんですか? そんなことをするってことは、何か狙いがあるんですよね?」


「リオンくんは賢くて鋭いね。キミのそういうところ、嫌いじゃないよ」


 ニタニタとした不快な笑みを見せてくる。 


 チッ、とダインが舌打ちをした。


「外の世界では王国の在り方に不満を持つ者も多いんだよ。そういった人々で構成された組織もあるのさ」


 ヘーレスは宙に円を描くように人差し指をクルクルと回しながら説明してくる。


 先ほどの姉さんとの会話が思い起こされる。王国に弓を引く者たち……。


「王国と敵対している反抗勢力。実は僕もそこに所属していてね」


 教室で授業をしている時のような気軽な口ぶりで、ヘーレスは自分が間者であることを打ち明けてきた。


 ダインが「なっ!」と面食らって声を上擦らせる。


「僕だけじゃないよ。王国内に潜り込んでいる同志は他にもたくさんいる。この学院にだって、教員として潜り込んでいた同志たちが何人かいた。もっとも、昨夜の騒動の最中に学院長の手で始末されちゃったけどね。おそらく、正体がバレていたんだろう」


 ……ネズミ狩り。あの女が口にしていた言葉。教員として入り込んでいた間者を葬っていたのか。


「だけど彼らはきちんとその使命を全うした。いろいろと仕込んでいたものを発動させてくれた。成果はバッチリさ」


 ヘーレスがニィと唇をつりあげる。嫌な笑みだ。

 

 その笑みを見ていたら、頭のなかで閃光が散って、バラバラだったものが一つにまとまっていく。


「まさか……!」


 腹の底から、ドス黒い感情があふれ出す。





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